NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#9 ウェス・モンゴメリー「フル・ハウス」(RIVERSIDE)

2021-11-20 04:54:00 | Weblog

2001年1月27日(土)



ウェス・モンゴメリー「フル・ハウス」(RIVERSIDE)

申し訳ない、またライヴじゃ(苦笑)。

ライヴ盤シリーズ、これでひとまず打ち止めにするので、ひらにおゆるしを。

実は、ウェス・モンゴメリーというアーティストは、筆者にとっては「特別」な存在である。

いってみれば、筆者をジャズ/ロック/ブルースの底無し沼に引きずり込んだ、最初の誘惑者なんである。

小学5年生の夏休み、筆者は貯金をおろして、新宿の小田急百貨店ではじめて自分専用のAMラジオを購入した。

これが「転落」の始まりだった(笑)。それもこのうえなく甘美な。

当時、TBSだったか、日曜の深夜に「ミッドナイト・ジャズ・リポート」というジャズ番組が放送されていた。

これを、どういうきっかけだか、10才のガキが聴きはじめ、そしてハマってしまったのである。

ある週、アルトの声がカッコいいDJのおねーさんが紹介したのは、ウェス・モンゴメリーというギタリストのリヴァーサイド盤であった。

アルバム・タイトルは、おそらく「ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター」、そしてこの「フルハウス」だったと思う。

速いパッセージ、そして特徴のあるオクターブ奏法に、筆者の耳は吸い寄せられた。なんて凄いテクニックなんだ!

それまで、ルイ・アームストロングのようなまったりした音を「ジャズ」だと思っていた筆者には、まるきり別の音楽に聴こえたのである。

そして、この天才ギタリストは68年の6月に急逝し、もはやこの世にいないのだということも聞いて、ガキなりになんともいえない感慨にひたったものであった。

私事はさておき、このアルバムはウェスがまだイージー・リスニング的な方向へシフトする前の、バリバリ、ゴリゴリのギターを弾いていた時代のもの。

1962年6月25日、カリフォルニア州バークレイのカフェ「Tsubo」にて録音。

パーソネルはウェス・モンゴメリー(g)、ジョニ-・グリフィン(ts)、ウィントン・ケリ-(pf)、ポール・チェンバース(b)、ジミ-・コブ(ds)。

もちろん、当代一流のプレイヤーが勢揃いである。リズム・セクションの3人は、マイルス・デイヴィスのバックもつとめていた巧者たち。

とにかく、今聴き直してみても、もの凄いスピード感のあるプレイだ。

ただ手くせで指を速く動かしているのではなく、譜面化されたものを見てみると、きちんと音楽的に高度に構成されているのがわかる、そういう速弾きなのだ。

三十年近くギターを弾いてきた筆者だが、ウェスのギターをコピーしようなどと思っても、まるきり不可能。おのれの腕前がいかに凡庸かを思い知らされる。

やはり、その才能は「別格」といっていい。

ウェスの前にウェスなし。ウェスの後にもウェスなし。

このアルバムでは、ワルツテンポのオリジナル「フル・ハウス」をはじめ、「マイ・フェア・レディ」でおなじみのスローバラード「アイブ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ハー・フェイス」、ミディアム・テンポのスタンダード「降っても晴れても」、そして彼の本領がもっとも発揮されるアップテンポのバップ・ナンバー「ブルー・ン・ブギ」「S.O.S.」といった、バラエティに富んだスウィンギーな演奏が楽しめる。

ウェス以外のピアノ、テナーのソロも、ジャズ史上に残る名演といってよい。

ジャズのもっとも上質なエッセンスが、この一枚に結晶しているといえるだろう。


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