2001年1月27日(土)
ウェス・モンゴメリー「フル・ハウス」(RIVERSIDE)
申し訳ない、またライヴじゃ(苦笑)。
ライヴ盤シリーズ、これでひとまず打ち止めにするので、ひらにおゆるしを。
実は、ウェス・モンゴメリーというアーティストは、筆者にとっては「特別」な存在である。
いってみれば、筆者をジャズ/ロック/ブルースの底無し沼に引きずり込んだ、最初の誘惑者なんである。
小学5年生の夏休み、筆者は貯金をおろして、新宿の小田急百貨店ではじめて自分専用のAMラジオを購入した。
これが「転落」の始まりだった(笑)。それもこのうえなく甘美な。
当時、TBSだったか、日曜の深夜に「ミッドナイト・ジャズ・リポート」というジャズ番組が放送されていた。
これを、どういうきっかけだか、10才のガキが聴きはじめ、そしてハマってしまったのである。
ある週、アルトの声がカッコいいDJのおねーさんが紹介したのは、ウェス・モンゴメリーというギタリストのリヴァーサイド盤であった。
アルバム・タイトルは、おそらく「ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター」、そしてこの「フルハウス」だったと思う。
速いパッセージ、そして特徴のあるオクターブ奏法に、筆者の耳は吸い寄せられた。なんて凄いテクニックなんだ!
それまで、ルイ・アームストロングのようなまったりした音を「ジャズ」だと思っていた筆者には、まるきり別の音楽に聴こえたのである。
そして、この天才ギタリストは68年の6月に急逝し、もはやこの世にいないのだということも聞いて、ガキなりになんともいえない感慨にひたったものであった。
私事はさておき、このアルバムはウェスがまだイージー・リスニング的な方向へシフトする前の、バリバリ、ゴリゴリのギターを弾いていた時代のもの。
1962年6月25日、カリフォルニア州バークレイのカフェ「Tsubo」にて録音。
パーソネルはウェス・モンゴメリー(g)、ジョニ-・グリフィン(ts)、ウィントン・ケリ-(pf)、ポール・チェンバース(b)、ジミ-・コブ(ds)。
もちろん、当代一流のプレイヤーが勢揃いである。リズム・セクションの3人は、マイルス・デイヴィスのバックもつとめていた巧者たち。
とにかく、今聴き直してみても、もの凄いスピード感のあるプレイだ。
ただ手くせで指を速く動かしているのではなく、譜面化されたものを見てみると、きちんと音楽的に高度に構成されているのがわかる、そういう速弾きなのだ。
三十年近くギターを弾いてきた筆者だが、ウェスのギターをコピーしようなどと思っても、まるきり不可能。おのれの腕前がいかに凡庸かを思い知らされる。
やはり、その才能は「別格」といっていい。
ウェスの前にウェスなし。ウェスの後にもウェスなし。
このアルバムでは、ワルツテンポのオリジナル「フル・ハウス」をはじめ、「マイ・フェア・レディ」でおなじみのスローバラード「アイブ・グロウン・アカスタムド・トゥ・ハー・フェイス」、ミディアム・テンポのスタンダード「降っても晴れても」、そして彼の本領がもっとも発揮されるアップテンポのバップ・ナンバー「ブルー・ン・ブギ」「S.O.S.」といった、バラエティに富んだスウィンギーな演奏が楽しめる。
ウェス以外のピアノ、テナーのソロも、ジャズ史上に残る名演といってよい。
ジャズのもっとも上質なエッセンスが、この一枚に結晶しているといえるだろう。