2001年2月17日(土)
VARIOUS ARTISTS「ニュース&ザ・ブルース」(SME)
ちょっと皆さんにお聞きしてみたいのだが、、ブルースの歌詞なんて、しょせん男と女の痴話事がテーマ、どれも似たりよったりのもの、なんて先入観をお持ちのかたが意外と多いのではないだろうか?
筆者も実は、そう思っていたひとりである。
もちろん、その考え方は、あながち間違いではない。
パーソナルなことを歌うのが、ブルースの基本である以上、大半は惚れた腫れた、振った振られたという内容になってしまうのも、事実である。
しかし、ブルースで歌われるテーマは決してそれだけではないことを教えてくれるのが、このコンピレーションである。
登場するアーティストは、ベッシー・スミス、ブラインド・ウィリー・ジョンスン、ミシシッピー・ジョン・ハート、チャーリー・パットン、ビッグ・ビル・ブルーンジーら1920~40年代の、いわゆるクラシック・ブルースの名歌手たち。
彼・彼女らが歌うのは、一般にはあまり知られることのない、時事ネタのブルースなのである。
たとえば、ベッシー・スミスは「バック・ウォーター・ブルース」で洪水という天災をテーマに歌っている。
ビッグ・ビルは「失業ストンプ」で不況を、「さあ、兵役だ」では徴兵を歌い、ウィリー・スミスが歌うのは「ホームレス・ブルース」。ピーター・クレイトンは「ムーンシャイン・マン・ブルース」で禁酒法下の酒類密造をテーマにしている。
おどろくべきことに、「原子爆弾ブルース」なんていうのまである。歌っているのは、シカゴ・ブルースのホーマー・ハリス。46年の録音で、バックには、かのマディ・ウォーターズもいるという。
この曲を聴くと、アメリカ黒人も自国軍の広島・長崎への原爆投下を決して肯定的にうけとめてはおらず、どこか敗戦国日本に同情的であることがよくわかる。
こんな曲を即興でひねりだすセンスは、日本にはあまりない。
しいてあげるなら、河内音頭の「新聞(しんもん)読み」くらいのものだろうか。
でも、時代をさかのぼれば、川上音二郎の「オッペケペー節」とか「宮さん宮さん」とか、マスメディアが発達する前の時代の芸能では、しごくあたりまえのことだったのである。
時代に対する批評精神を失い、ただただ個人的なテーマを歌うことしかできなくなった現在のショービジネスこそ、不健全なのかも知れない。
そういう意味でも、いろいろ考えるネタを与えてくれる一枚だ。
その他、リロイ・カーやマ・レイニー、ジョー・ルイスなどを歌った「セレブリティもの」、ギャンブラーや刑務所暮しをうたったものなど、ふだん聴いているのとはちがった毛色のブルースが全20曲おさめられている。
興味を持たれたかたは、ぜひ歌詞カードを片手に、よーく聴きこんで欲しいものである。