NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#387 SONNY STITT「Sonny Stitt Sits in with the Oscar Peterson」(Verve POCJ-2062)

2022-12-06 05:48:00 | Weblog
2022年12月6日(火)



#387 SONNY STITT AND OSCAR PETERSON「Sonny Stitt Sits in with the Oscar Peterson」(Verve POCJ-2062)

マルチ・サクソフォン・プレイヤー、ソニー・スティットの、オスカー・ピータースン・トリオとの共演盤。1959年リリース。パリにて録音。

スティットは1924年生まれ。ピータースンは25年生まれ。ほぼ同世代の彼らが共演したのは、この一枚きりなのだが、最高のレコーディング・セッションとして記録されることとなった。

メンバーは、ふたりの他にベースのレイ・ブラウンと、ドラムのエド・シグペン。ともに、ピータースン・トリオの黄金期のメンバーである。

CD化時に追加された57年の演奏では、上記のふたりに代わってギターのハーブ・エリス、ドラムのスタン・リービーが入っている。

演奏曲目はいくつかのタイプに分かれる。

ひとつめはオープニングの「捧ぐるは愛のみ」に代表されるスタンダード・ナンバーだ。

覚えやすい美しいメロディ・ライン、明るいムードが溢れる曲としては、「四月の思い出」もそのタイプ。

つまり、リスナーのリクエストが多いタイプ。

ピータースン・トリオが最もお得意とするジャンルと言える。

ふたつめは、スティットともゆかりの深い、チャーリー・パーカーの作品。

「オー・プリヴァーヴ」「スクラップル・フロム・ジ・アップル」がそれにあたる。

なお、パーカーは本盤録音の四年前に亡くなっている。

スティットは、終生バードこと天才アルト奏者パーカーと比較され、おおむね二番煎じ的な扱いを受けており、かなり気の毒な印象がある。

もちろん、パーカーの影響をまったく受けていないジャズ・アルト奏者なんてひとりもいないと言えるのだが、それにしても世間は口さがない。

その評価に対して、スティットはむしろパーカーへのリスペクトを表に出すことで、つまりパーカーの曲を積極的に演奏することで、根拠のない低評価をものともしない強さを見せている。

「バードが天才なのも、自分が彼の影響下にあるのも間違いない。でもオレはオレだ。オレはオレのプレイをするだけだ」

とでも言いたげである。

スティットというひとはパーカーの影からけっして逃げず、死ぬまでパーカーの偉大さと向き合い続けたのだと思う。

実にカッコいいではないか。

みっつめは、他のベテラン・ジャズ・プレイヤーの作品。

例えば、オリジナルは1932年に録音された、ベニー・モートゥン(モーテンという発音が一般的だが)の「モートゥン・スイング」がそれだ。

ここでスティットは、テナーに持ち替えているのだが、前5曲とは雰囲気がかなり変わる。

それまでは「モダン・ジャズ」(パーカーのバップ・スタイル)だったのが、「モダン・スイング」(いってみればカウント・ベイシー風)になるのだ。

テナー・サックスのプレイにおいては、スティットはわりとオーセンティックな持ち味のひと、例えばレスター・ヤングあたりの伝統を引き継いでいるんだなと分かる。

それは次のスティット自作のブルース「ブルース・フォー・プレス、スウィーツ、ベン&オール・ジ・アザー・ファンキー・ワンズ」を聴けばよく分かる。

プレスことレスター・ヤングが、テナーにおけるスティットのヒーローなんだろう。

彼がモダン・ジャズとそれ以前のジャズ、両方をこよなく愛しているからこそ、オスカー・ピータースンのようなピアニストとも相性よくプレイ出来たのに違いない。

リズム・セクションのふたりも、この三ジャンルをすべてソツなくこなしており、聴きごたえ十分だ。

アルト、テナー、両方でスティットの実力を堪能できるうえ、黄金期のピータースン・トリオも聴ける。

隠れた名盤として、お勧めしたい。

<独断評価>★★★★☆

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