NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#402 DEEP PURPLE「MACHINE HEAD」(WARNER BROS. 3100-2)

2022-12-19 05:11:00 | Weblog
2022年12月21日(水)



#402 DEEP PURPLE「MACHINE HEAD」(WARNER BROS. 3100-2)

英国のバンド、ディープ・パープル、72年3月リリースのスタジオ・アルバム。彼ら自身とサイモン・ロビンスンによるプロデュース。

70年の「イン・ロック」、71年の「ファイアボール」と1作ごとに人気が上昇していったディープ・パープル(以下パープル)の、本格的ブレイクの決定打となった一枚である。

全英1位、全米7位、そして日本でも6位と、全世界が深い紫色に染まることとなった。

そして72年8月、彼らはついに初来日を果たし、日本武道館での公演をライブ録音するまでに至る(アルバム・リリースは同年12月)。

英国のハード・ロック・バンドとして は、71年9月初来日のレッド・ツェッペリンに次いで、日本での人気を不動のものとしたのである。

個人的にはガチのZEP派だった当時中学生の筆者は、さほどパープルに思い入れはなかったが、それでもロック・バンドの真似事をやり始めた時期ということもあって、彼らの曲のいくつかをコピーして、レパートリーにしようとしていた記憶があり、なんとも懐かしい。

この「マシン・ヘッド」の大ヒットの理由は、なんといっても「ハイウェイ・スター」「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の2大人気曲を収めていることだ。

前者はシングルカットされることはなかったが、後者は翌年米国でシングルとして全米4位、ロッド・エヴァンス時代の「ハッシュ」以来5年ぶりのヒットとなっている。

キャッチーなリフ、あるいはスピーディでカッコよく、かつ覚えやすいギター・ソロ、派手なアーミング。

ハードなサウンド、熱いボーカルに加えて、パープルにはバンド少年たちの、とりわけギター・キッズを虜にする魅力に満ちていた。

オープニングの「ハイウェイ・スター」は、まさにその魅力が凝縮された一曲。スーパー・アップテンポでグイグイ押してくるナンバーだ。

この曲の、間奏のギター・ソロが完コピ出来るかどうかが、当時のハード・ロック系ギタリストの「試験」みたいなもんだった。いやマジで。

リッチー・ブラックモアのあのトリル部分は、ホント、昇天もののカッコよさだった。

「メイビー・アイム・ア・レオ」はジョン・ロードのオルガンが重厚な、ミディアム・テンポのナンバー。ほとんど、ライブではやらないらしい。ちょっと平板で、盛り上がりに欠けるからかな。

「ピクチャーズ・オブ・ホーム」はアップ・テンポのナンバー。毎度のブラックモアやロードの長いソロだけでなく、珍しくロジャー・グローヴァーのベース・ソロまで聴ける。

A面ラストの「ネヴァー・ビフォア」は、ミディアム・テンポのロックンロール。ポップな味付けもあり、シングル・カットされたが、さほどヒットはしなかった。

思うに、ビートがオーソドックス過ぎて、いささか面白みに欠けている。

パープルは、もっと自分たちらしさを出した曲で勝負すべきということなんだろうな。速い16ビートとか、ギターやキーボードの超絶技巧とかで。

B面トップは「スモーク・オン・ザ・ウォーター」。ミディアム・テンポのナンバー。

一見普通のエイト風にみえて、イアン・ペイスのドラミングは芸が細かいので、ドラマーの方はよーく聴いて欲しい。

この曲はそのギター・リフがあまりにも有名だが、ギターを始めたばかりの少年たちにも「これは手が届きやすい」という印象を持たれるからだろうな。確かに、ジミー・ペイジあたりに比べると、聴き取りやすい気がする。

でも、実際に弾いてみると、ブラックモアのような音質、ピッキング・タッチを再現するのは、結構難しいんだけどね。

この「スモーク・オン・ザ・ウォーター」は、うまくギターをプレイするには、スピードよりも、粘りとかタイミングこそが大切さなのだと分からせてくれる。

続く「レイジー」は、7分19秒とアルバム中、最長尺のナンバー。リズムがシャッフルというのが、ハード・ロック・バンドとしてはちょっと珍しい。

でも、プログレッシブ・ロックだろうが、ハード・ロックだろうが、その大元、根本はブルースやジャズなんだから、シャッフルは必修科目みたいなものなんだけどね。

印象的なリフは、エリック・クラプトンがクリームやブルースブレイカーズで弾いていた「ステッピン・アウト」を参考にして作られたらしい。

後半、ボーカルのイアン・ギランがブルース・ハープをちょっと披露してみせるのが、本曲の聴きどころである。

パープルもルーツはブルース・バンド。そのことがよく分かる一曲。

ラストは「スペース・トラッキン」。ヘビーなイントロから始まる、いかにもパープルらしいロック・チューン。ギランのギラつくようなシャウトも絶好調である。

これは彼らのライブの定番曲のひとつで、ラストに数十分、延々とインプロビゼーションを繰り広げるのが常だったらしい。筆者は一度も観ておりませんが(笑)。

ディープ・パープルというバンドの、一番旬な時期(もちろん、第3期以後の方を評価する向きもいらっしゃるでしょうが)を記録した、最高のスタジオ・アルバム。

武道館ライブを合わせて聴けば、皆さんの青春の記憶が鮮やかによみがえるはず。ぜひ、涙して聴いて欲しい。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#400 JIMMY ROGERS「CHICAGO BOUND」(MCA/Chess CHD-93000)

2022-12-19 05:00:00 | Weblog
2022年12月19日(月)



#400 JIMMY ROGERS「CHICAGO BOUND」(MCA/Chess CHD-93000)

ブルース・シンガー/ギタリスト、ジミー・ロジャーズ、70年リリースのアルバム。レナード・チェス、フィル・チェスによるプロデュース。

50年代(50〜56年)のレコーディングが集められ、ロジャーズの代表作として名高い一枚。

ロジャーズは本名ジェイムズ・アーサー・レイン。1924年ミシシッピ州ルールヴィルの生まれ。幼い頃からハープ、次いでギターに親しみ、イースト・セントルイスでプロのミュージシャンとしてのキャリアをスタート、40年代半ばにブルースの都シカゴに移住して、本格的な活動に入る。

47年にマディ・ウォーターズ、リトル・ウォルターのバンドに加入、大いに注目されるようになる。

彼らのバック・ミュージシャンをつとめる一方、ソロ・シンガーとして50年8月にシングル「That’s All Right」(とB面「Luedella」)を初録音する。

「That’s All Right」は残念ながらヒットには至らなかったが、このアルバムに収められてからは、ロジャーズを代表する1曲として、多くのブルースファンに聴かれるようになり、後続ミュージシャンにカバーされることも多い。

この2曲、マディ・ウォーターズのレコーディングの後、マディ抜きのメンバーで録ったそうだが、ウォルターのハープ、ビッグ・クロフォードのベースというシンプルな編成ながら、小味なスロー・ブルースとしてよくまとまっている。

ロジャーズの曲作りの上手さが、既に発揮されているいいサンプルだ。

同50年10月には「Goin’ Away Baby」もレコーディングする。こちらにはギターでマディ・ウォーターズが加わっている。ドラムレスで、「Rollin’ And Tumblin’」ふうのカントリー・ブルースっぽいサウンドだ。

翌51年1月には「I Used To Have A Woman」、7月には「Money, Marbles And Chalk」をレコーディング。ピアノ、ドラムスも加わったバンド・サウンドで、音にも厚みが出て来ている。

52年2月には「Back Door Friend」、52年8月には「Out On The Road」「Last Time」のシングル用2曲、53年5月には「Act Like You Love Me」を録音。

54年1月には「Blues Leave Me Alone」そしてアルバム・タイトル曲でもある「Chicago Bound」をレコーディング。

このセッション、バックがマジ最高だ。ウォルター、マディ、ヘンリー・グレイ(P)、ウィリー・ディクスン(B)、フレッド・ビロウ(Ds)と、チェス黄金時代のメンバーが勢揃い。

これで、ごキゲンな演奏にならないわけがないね。

特に「Chicago Bound」でのスピード感溢れるウォルター、ロジャーズのプレイはなんとも素晴らしい。ギターの自然な歪みの音でさえ、聴く者を快感に誘ってくれる。

同じく54年4月録音の「Sloppy Drunk」は、軽快なテンポのツービート・ナンバー。

こちらもバックにウォルター、オーティス・スパン(P)、ディクスン、ビロウとベストな布陣で、ノリノリの演奏を聴かせてくれる。

「Chicago Bound」と「Sloppy Drunk」は一枚のシングルにまとめられ、ブルースのスタンダードとして後々まで聴かれるようになる。

50年代のシカゴ・ブルースといえばこれ、といわれるくらい、ジミー・ロジャーズはメジャーな存在になった。

56年10月の「Walking By Myself」も、今も人気の一曲。

「Sloppy Drunk」のメンツからハープのみビッグ・ウォルター・ホートンに代わった編成での演奏も、これまたグルーヴィ。ホートンの縮緬ビブラートが実にいい味を出している。

ロジャーズというアーティストのよさは、都会的で洗練された感覚と、いなたさ、素朴さが無理なく同居しているところにあると筆者は思う。

彼の歌は上手いというよりは、どちらかといえばヘタウマなのだが、その「のほほん」とした味わいは唯一無二のものだ。

「That’s All Right」のようなフラれ男の歌でも、恨みがましさは感じられず、しみじみとした哀感が伝わって来る。

シャウトするシンガーばかりがブルース・シンガーじゃない。

鼻歌に近いような素朴な歌も、またブルースなのである。

時代は変われど、ジミー・ロジャーズのナイーブな歌の魅力はまだまだ褪せていない。

ブルースファン以外の方々にこそ、聴いて欲しい一枚。

ロジャーズのシンガーソングライターとしての才能も、そこで発見できるはずだ。

<独断評価>★★★★

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