2022年12月20日(火)
#401 MUDDY WATERS「AFTER THE RAIN」(ユニバーサル ミュージック UICY-76539)
マディ・ウォーターズ、69年5月リリースのスタジオ・アルバム。マーシャル・チェス、チャールズ・ステプニー、ジーン・バージによるプロデュース。
マディは68年、「エレクトリック・マッド」というアルバムを出し、大きな話題となる。
初めて自前のバンドメンバーではない、外部のミュージシャンを起用して、サイケデリック・ロックに挑戦したからだ。
白人ロックの流行スタイルに乗って、衝撃の変身を遂げたマディ。
後にマイルス・デイヴィスのバンドで活躍する、ピート・コージーのファズ・ギターが暴れまくる、そんな過激な一枚となった。
当然、賛否両論、侃侃諤諤の反応が巻き起こる。
白人のロックを好むリスナーはともかく、従来からのマディのファンからは、おおむね拒絶反応で迎えられることになった。
「やり過ぎ」感の強かった前作だが、チェス・レコードは翌69年、なんと「エレクトリック〜」とほぼ同じメンバーで再びアルバムを出してしまったのである。
メンバーは、フィル・アップチャーチ、ピート・コージーがギター、ルイ・サターフィールドがベース、モーリス・ジェニングスがドラムス、チャールズ・ステプニーがオルガン。
ただ、今回はマディ・バンドからもふたり、ピアノのオーティス・スパン、ハープのポール・オッシャーが参加している。
オープニングの「アイ・アム・ザ・ブルース」はウィリー・ディクスンの作品。シカゴ・ブルースの領袖としてのウィリー、そしてマディの矜持を誇らかに示すミディアム・スロー・ナンバーだ。
マディのどっしりとした歌い方は、さすがの貫禄を感じさせる。他のミュージシャンは前作ほど前面に出ず、地道にバッキングにつとめている。
次の「ランブリン・マインド」はマディのオリジナルの、ギター・リフが重厚なビート・ナンバー。
ここでのギター・ソロ(おそらくコージー)は、今回はファズ全開ということはなく、ほどほどのハジけ具合だ。保守的なファンにもこれならギリセーフってとこか。
「ローリン・アンド・タンブリン」は言うまでもなく、マディの十八番的ナンバーで、カントリー・スタイルのブルースだ。
マディ自身のスライド・ギターと、アップチャーチとおぼしきギターが絡む。シンプルなビートの繰り返しが次第にトランスを生みだしていくのが、実に気持ちいい。
A面ラストの「ボトム・オブ・ザ・シー」は、本盤では一番アヴァンギャルドな匂いのする一曲。
マディのオリジナルだが、マイナー・ブルースの、さらに変型ともいうべきロック・ナンバー。
ノイジーなギター・ソロは、人によって好みが分かれるところだろうが、前作ほど尖っている感じではない。
まぁ、一曲くらいは、こういうお遊びもいいんでないの?
次の「ハニー・ビー」は、何度となくレコーディングされたマディの著名曲。
もちろん、この曲でもマディのスライド・ギターのソロがフィーチャーされる。
ヒステリックで聴き手を煽るような、焦らすようなフレーズが、なんともカッコいい。これだよ、これ!
前作ではまったくといっていいほど聴けなかったマディのスライドが、本盤ではちゃんと聴ける。
マディのレコードなんだから、正直、彼以外のギタリストのプレイなんてどうでもいい。「やっぱり、マディのギターが聴きたいんや!」と言いたくなる。
お次はファンク調のナンバー、「ブルース・アンド・トラブル」。こちらもオリジナル。
それまでのいなたい音から、コンテンポラリーなサウンドに変わり、舞台はミシシッピのデルタ地帯から、急に大都会にワープする。
これは、このアルバム用にマディが書いたオリジナルのようだ。従来とは違ったビートにも柔軟に対応できる作曲能力を、マディは披露してくれる。
はねるエイト・ビートに乗せて、マディのスライドがハジケまくる一曲。
「ハーティン・ソウル」も本盤のオリジナル。ミディアム・スローのブルース。
盟友スパンのピアノが加わることで、シカゴ・ブルースらしい味わいがよく出ている。
やはり、いつも一緒にやっているメンバーに勝るものはなしってことか。
最後は再び、よく知られたスロー・ブルース・ナンバー、「スクリーミン・アンド・クライン」。
ここでもやはり、マディのスライド・ギターを前面に押し出していて、聴きごたえがある。オッシャーのハープも、うまくマディをサポートしていて、マル。
今作は、前作であまりにアヴァンギャルドな実験をして多くのファンに拒まれてしまったことを踏まえて、制作方針を修正したのだろうな。
前作に比べると、だいぶん聴きやすくなって、保守的なファンにもわりと馴染める内容になった。
モダンなビート感覚は前作そのままに、アレンジ(特にギター)を従来のブルース寄りのものに戻すことで、ブルースファンにも、ロックファンにも受け入れられるサウンドになっている。
この方法で納得がいったのだろう、マディは同69年8月に、早くも次のアルバムをリリースする。
名盤の誉れの高い「ファーザーズ・アンド・サンズ」である。
ギターのマイケル・ブルームフィールド、ハープのボール・バターフィールドという白人ロック・ミュージシャンとの初共演を果たしたそのアルバムでは、ブルームフィールド同様、マディのギターもしっかりとフィーチャーされており、白人と黒人のブルースが見事に融合している。
「ファーザーズ・アンド・サンズ」がきっかけで白人ブルースに興味を抱いた黒人ブルースファン、黒人ブルースを聴くようになった白人ブルースファンも結構いたはずだ。
本盤のレパートリーも、何曲かライブ・パートで再演されており、聴き比べてみるのも一興であるな。
「エレクトリック・マッド」に比べるとあまり話題に上ることがない「アフター・ザ・レイン」ではあるが、「ファーザーズ・アンド・サンズ」の大成功の下地を作ったスタジオ盤として、もっと評価され、聴かれてもいいと思う。まだのかたは、ぜひ一度。
<独断評価>★★★☆
マディ・ウォーターズ、69年5月リリースのスタジオ・アルバム。マーシャル・チェス、チャールズ・ステプニー、ジーン・バージによるプロデュース。
マディは68年、「エレクトリック・マッド」というアルバムを出し、大きな話題となる。
初めて自前のバンドメンバーではない、外部のミュージシャンを起用して、サイケデリック・ロックに挑戦したからだ。
白人ロックの流行スタイルに乗って、衝撃の変身を遂げたマディ。
後にマイルス・デイヴィスのバンドで活躍する、ピート・コージーのファズ・ギターが暴れまくる、そんな過激な一枚となった。
当然、賛否両論、侃侃諤諤の反応が巻き起こる。
白人のロックを好むリスナーはともかく、従来からのマディのファンからは、おおむね拒絶反応で迎えられることになった。
「やり過ぎ」感の強かった前作だが、チェス・レコードは翌69年、なんと「エレクトリック〜」とほぼ同じメンバーで再びアルバムを出してしまったのである。
メンバーは、フィル・アップチャーチ、ピート・コージーがギター、ルイ・サターフィールドがベース、モーリス・ジェニングスがドラムス、チャールズ・ステプニーがオルガン。
ただ、今回はマディ・バンドからもふたり、ピアノのオーティス・スパン、ハープのポール・オッシャーが参加している。
オープニングの「アイ・アム・ザ・ブルース」はウィリー・ディクスンの作品。シカゴ・ブルースの領袖としてのウィリー、そしてマディの矜持を誇らかに示すミディアム・スロー・ナンバーだ。
マディのどっしりとした歌い方は、さすがの貫禄を感じさせる。他のミュージシャンは前作ほど前面に出ず、地道にバッキングにつとめている。
次の「ランブリン・マインド」はマディのオリジナルの、ギター・リフが重厚なビート・ナンバー。
ここでのギター・ソロ(おそらくコージー)は、今回はファズ全開ということはなく、ほどほどのハジけ具合だ。保守的なファンにもこれならギリセーフってとこか。
「ローリン・アンド・タンブリン」は言うまでもなく、マディの十八番的ナンバーで、カントリー・スタイルのブルースだ。
マディ自身のスライド・ギターと、アップチャーチとおぼしきギターが絡む。シンプルなビートの繰り返しが次第にトランスを生みだしていくのが、実に気持ちいい。
A面ラストの「ボトム・オブ・ザ・シー」は、本盤では一番アヴァンギャルドな匂いのする一曲。
マディのオリジナルだが、マイナー・ブルースの、さらに変型ともいうべきロック・ナンバー。
ノイジーなギター・ソロは、人によって好みが分かれるところだろうが、前作ほど尖っている感じではない。
まぁ、一曲くらいは、こういうお遊びもいいんでないの?
次の「ハニー・ビー」は、何度となくレコーディングされたマディの著名曲。
もちろん、この曲でもマディのスライド・ギターのソロがフィーチャーされる。
ヒステリックで聴き手を煽るような、焦らすようなフレーズが、なんともカッコいい。これだよ、これ!
前作ではまったくといっていいほど聴けなかったマディのスライドが、本盤ではちゃんと聴ける。
マディのレコードなんだから、正直、彼以外のギタリストのプレイなんてどうでもいい。「やっぱり、マディのギターが聴きたいんや!」と言いたくなる。
お次はファンク調のナンバー、「ブルース・アンド・トラブル」。こちらもオリジナル。
それまでのいなたい音から、コンテンポラリーなサウンドに変わり、舞台はミシシッピのデルタ地帯から、急に大都会にワープする。
これは、このアルバム用にマディが書いたオリジナルのようだ。従来とは違ったビートにも柔軟に対応できる作曲能力を、マディは披露してくれる。
はねるエイト・ビートに乗せて、マディのスライドがハジケまくる一曲。
「ハーティン・ソウル」も本盤のオリジナル。ミディアム・スローのブルース。
盟友スパンのピアノが加わることで、シカゴ・ブルースらしい味わいがよく出ている。
やはり、いつも一緒にやっているメンバーに勝るものはなしってことか。
最後は再び、よく知られたスロー・ブルース・ナンバー、「スクリーミン・アンド・クライン」。
ここでもやはり、マディのスライド・ギターを前面に押し出していて、聴きごたえがある。オッシャーのハープも、うまくマディをサポートしていて、マル。
今作は、前作であまりにアヴァンギャルドな実験をして多くのファンに拒まれてしまったことを踏まえて、制作方針を修正したのだろうな。
前作に比べると、だいぶん聴きやすくなって、保守的なファンにもわりと馴染める内容になった。
モダンなビート感覚は前作そのままに、アレンジ(特にギター)を従来のブルース寄りのものに戻すことで、ブルースファンにも、ロックファンにも受け入れられるサウンドになっている。
この方法で納得がいったのだろう、マディは同69年8月に、早くも次のアルバムをリリースする。
名盤の誉れの高い「ファーザーズ・アンド・サンズ」である。
ギターのマイケル・ブルームフィールド、ハープのボール・バターフィールドという白人ロック・ミュージシャンとの初共演を果たしたそのアルバムでは、ブルームフィールド同様、マディのギターもしっかりとフィーチャーされており、白人と黒人のブルースが見事に融合している。
「ファーザーズ・アンド・サンズ」がきっかけで白人ブルースに興味を抱いた黒人ブルースファン、黒人ブルースを聴くようになった白人ブルースファンも結構いたはずだ。
本盤のレパートリーも、何曲かライブ・パートで再演されており、聴き比べてみるのも一興であるな。
「エレクトリック・マッド」に比べるとあまり話題に上ることがない「アフター・ザ・レイン」ではあるが、「ファーザーズ・アンド・サンズ」の大成功の下地を作ったスタジオ盤として、もっと評価され、聴かれてもいいと思う。まだのかたは、ぜひ一度。
<独断評価>★★★☆