2010年3月21日(日)
#115 ウィッシュボーン・アッシュ「Blind Eye」(Wishbone Ash/MCA)
#115 ウィッシュボーン・アッシュ「Blind Eye」(Wishbone Ash/MCA)
ウィッシュボーン・アッシュのデビュー・シングル。70年リリースのファースト・アルバム所収。メンバー全員の共作。
筆者にとってウィッシュボーン・アッシュは、飛び抜けて一番とはいえないものの非常に好きなグループのひとつで、すでに4回ほど取り上げている。
66年結成。オリジナル・メンバーのアンディ・パウエル(g)を中心に現在も活動中で、歴代在籍メンバーは16名にも及んでいる。
44年もの歴史の中で、印象に強く残っているのは、いわゆる第一期のアッシュ。パウエル、テッド・ターナー(g)、マーティン・ターナー(b)、スティーブ・アプトン(ds)のデビュー時メンバーによる、73年までの4枚のスタジオ・アルバム、そして1枚のライブ・アルバムである。
10分以上の長尺の曲が多く、ヒットチャートよりはアルバム・オリエンテッドな作風が、彼らのパブリック・イメージだが、スタート当初はそうとは限らなかった。一例が、きょうの一曲。
元々はブルース・ロックを基調としていた、いまでいうところのジャム・バンドであった彼らは、この4分未満のブギのような曲を当時、主たるレパートリーとしていたのだ。以前取り上げたライブ・アルバムの中でいえば「When Were You Tomorrow」のような曲だ。
しかし、彼らはプロのバンドとしてやっていくには、大きな弱点があった。強力なボーカリストの不在である。
そこで、他のバンドのようにボーカルを前面に押し出したスタイルでなく、ボーカルもサウンドの一要素と捉えて、トータルな音作りをするという作戦に出た。曲作りも特定のコンセプト、たとえば伝説とか神話とかいったものに基づき、どちらかといえば非日常、ファンタシィの世界を歌うことで、オリジナリティを出そうとしたのである。
そうやって生み出された「フェニックス」「ブローイン・フリー」「戦士」「キング・ウィル・カム」といったマイナー系メロディが印象的なナンバーは、彼らの看板曲となった。
そして、アンディとテッドによるツイン・リード、それもしっかりとアレンジされたソロ・ラインをハーモナイズして弾くという、過去にはあまりないスタイルが、大ウケしたのである。
ギターが本当に上手いのはアンディのほうだったが、テッドやマーティンのイケメン系メンバーがステージに立つと、非常に見栄えがしたのもプラスし、英国や日本での人気は高かった。
ただ、その後企てたアメリカ進出は、思ったようにはいかず、いろいろと紆余曲折があったのは事実だ。決して同じ英国勢のレッド・ツェッぺリンのようには、爆発的なウケが取れなかったのである。つくづく、ショービズの世界での成功はラクじゃないな、そう思う。
それはさておき、この記念すべきデビュー曲は、ギターが売りのアッシュにしては、ピアノを加えているのが面白い。
ブルース、ブギなどの黒人系音楽にはつきもののピアノをフィーチャーしていることで、ツイン・ギター・ソロもあるとはいえかなりオーソドックスというか、古典的なサウンドとなっている。まるで初期のフリートウッド・マックのよう。
同じアルバムに収められている「フェニックス」あたりとは、ホント、だいぶん異質な曲に聴こえる。
バンド本来のブルース路線と、メジャー・デビューにあたって付け加えられたオリジナルな路線とが、まだ混在していたということなんだろうね。
そのあたりの「未完成」な感じが、デビュー作らしさでもある。もうひとつのウィッシュボーン・アッシュらしさを知ることのできる一曲。要チェキです。