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音曲日誌「一日一曲」#277 ジョン・リー・フッカー「I Need Some Money」(The Very Best Of John Lee Hooker/Rhino)

2024-01-07 07:43:00 | Weblog
2013年7月21日(日)

#277 ジョン・リー・フッカー「I Need Some Money」(The Very Best Of John Lee Hooker/Rhino)





ジョン・リー・フッカー、60年のレコーディングより。ベリー・ゴーディ・ジュニア=ジェニー・ブラッドフォードの作品。

この曲、ひらたく言えば、ビートルズの「マネー」である。が、ビートルズのオリジナルではなく、もともとはモータウンのヒットなのだ。

オリジナルの歌い手、バレット・ストロングは41年生まれ、ミシシッピ州ウェストポイント出身の黒人シンガー。のちにモータウンとなるタムラレーベルが、草創期に契約したアーティストのひとりで、60年に同レーベルとして放った最初のヒットが、この「マネー」だった(録音は59年8月)。

ストロングは、歌手としての大ヒットはこの一曲だけだが、60年代半ばより作詞家としてモータウンのスタッフとなり、プロデューサーのノーマン・ホイットフィールドと組んで、数々のヒットを生み出している。

たとえば、マーヴィン・ゲイの「悲しいうわさ」、エドウィン・スターの「黒い戦争」、テンプテーションズの「クラウド・ナイン」「パパ・ウォズ・ア・ローリング・ストーン」といったぐあいだ。作曲者に比べて、ストロングの名前は余り世間に知られているとはいえないが、作詞の才能には確かなものがあった。73年にはグラミーの最優秀R&B賞も受賞している。

70年代、80年代にはシンガーとしても活動を再開し、ヒットには恵まれなかったものの、何枚かのアルバムを残している。

「マネー」が当時いかにヒットしたかということは、同曲をカバーしたアーティストを見ればよくわかるだろう。ジェリー・リー・ルイス、サーチャーズ、ビートルズ、ストーンズ、バディ・ガイ、後にはフライング・リザーズ版なんて変わり種もある。黒人白人、英米を問わず、多くのアーティストを強く刺激した一曲だったのだ。

さて、本題に入ろう。ジョン・リー・フッカーといえば、ドローッとした土臭いブルースを演るブルースマンというイメージで、およそポップというものと無縁という感じだが、実は意外に流行にも敏感なところがあり、このカバーも、オリジナルがヒットしはじめて間もない、6月に録音している。

もちろん、その演奏スタイルは、あくまでもジョン・リー流だ。

アコースティック・ギターにドラムスというシンプルな編成で、シャウトというよりは、低く語り、呟くようなボーカル・スタイル。ギターも、唯一無二のジョン・リー・スタイル。原曲とはノリがまったく違うのだ。

同曲のカバー・バージョンとしてはきわめて異色なのだが、一度聴くと耳から離れない、そんな麻薬的な魅力がある。

「I Need Some Money」というストレート極まりない歌詞とあいまって、ジョン・リーのドスの効いた語りが、聴き手を強くゆさぶるのだ。

後からジワジワと効いてくるボディブローのような、ブルース。ポップ・チューンもアレンジを変えれば、ここまでヘビーになるという好例。

死ぬまでブルースマンを貫いた激ワルオヤジ、ジョン・リー・フッカー版「マネー」。

若造どもとはひと味、ふた味は違う、エグみを堪能してくれ。