NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#288 ビッグ・ママ・ソーントン「Hound Dog」(Hound Dog-Peacock Recordings/MCA)

2024-01-18 06:42:00 | Weblog
2013年10月6日(日)

#288 ビッグ・ママ・ソーントン「Hound Dog」(Hound Dog-Peacock Recordings/MCA)





黒人女性シンガー、ビッグ・ママ・ソーントン、唯一にして最大のヒット。リーバー=ストーラーの作品。

ビッグ・ママことウィリー・メイ・ソーントンは26年アラバマ州アリトンの生まれ。父は牧師、母は教会歌手というお堅い家庭に育った彼女だったが、母の死後10代半ばで家を出て、旅芸人の一座に加わる。

各地を巡業して得意の歌に磨きをかけ、レコードデビューのチャンスを掴む。51年のピーコック・レーベルとの契約である。

最初の2枚のシングルは不発に終わったが、3枚目で大当たりが来た。プロデューサーは同レーベルの看板男、ジョニー・オーティス。そして、リーバー=ストーラーという、当時新進気鋭のソングライティング・チームによって、この「Hound Dog」が生まれたのである。

52年8月に録音、翌年2月にリリースされるや、R&Bチャートに7週トップとなる大ヒット。数々のカバーバージョン、ルーファス・トーマス、ロイ・ブラウンらのアンサーソングを生んだこの曲は、3年後、エルヴィス・プレスリーによって取り上げられ、50年代ロックンロール最大級のヒットのひとつとなった。

レコーディングまでのいきさつや歌詞内容については「最初のロックンロール(32)」というネット記事(注・2024年現在は消滅している)に詳しく書かれている。ポイントとしては(1)「Hound Dog」は、女性の視点で歌詞が書かれている。(2)性的な隠喩もかなり含まれている、というあたりだろうな。要するに、エルヴィスの歌によって作られたイメージは、歌本来の狙いとはだいぶん違うものだということ。もともとこの曲は、性的に役立たずになった恋人はもういらない、という女性側のシビアなメッセージだったのである。

興味深かったのは、エルヴィスは直接ビッグ・ママのオリジナルを聴いてカバーしようと思ったわけでなく、フレディー・ベルとベルボーイズ という、ビル・ヘイリー風の白人バンドの演奏を聴いて、それが気に入ったからだという。道理でエルヴィスとソーントンのスタイルがまったく違うわけだ。

オリジナルは、ボーカルとギターの掛け合い色が非常に濃い。ハウリン・ウルフとヒューバート・サムリンの絡みにも通じるものをそこに感じることが出来る。このT・ボーン風の粘っこいギター・プレイは、オーティスのバンドのメンバー、カール・ピート・ルイスによるものだ。

そしてその歌いくちは、ワイルドそのもの。男性ブルースシンガーだって、ここまで思い切ったはっちゃけ方をした例は余り見ない。とにかく最初のフレーズから、聴き手の度肝を抜き、魂を抜き取ってしまう一声なのだ。

エルヴィス・バージョンはカバーとはいえ、いったん白人男性の歌に変換されてしまったバージョンからの引用だから、オリジナルを継承したものとはとてもいい難い。そして、聴き比べてみれば、エルヴィスの歌でさえ「大人しく」感じられてしまうのだ。ソーントンの聴き手の耳を、ハートをゆさぶるシャウトは、いま聴いても十分に衝撃的だ。ぜひ一聴を。