2013年11月9日(土)
#293 ジョン・リー・フッカー&ヴァン・モリスン「Never Get Out of These Blues Alive」(Never Get Out of These Blues Alive/ABC)
#293 ジョン・リー・フッカー&ヴァン・モリスン「Never Get Out of These Blues Alive」(Never Get Out of These Blues Alive/ABC)
ジョン・リー・フッカー、72年のアルバムより。フッカー自身の作品。
カントリー・ブルースの大御所、ジョン・リー・フッカーは70年代に入ると(彼は当時50代)、ロック系のミュージシャンとも頻繁に共演するようになる。その先駆けがキャンド・ヒートと共演した70年のアルバム「Hooker 'N Heat」だが、続いて72年にはヴァン・モリスン、エルヴィン・ビショップ、チャールズ・マッセルホワイト、スティーヴ・ミラーらと共演したこのアルバムをリリースし、話題となっている。
アルバムの最後を飾る、10分15秒にも及ぶ長尺のスローブルースが、このタイトルチューンだ。
アルバムの4分の1強を占めるその長さにも驚くが、なんといってもこの曲、タイトルがスゲーよな。もう、底なし沼か、無間地獄の世界(笑)。
曲調はタイトルほどはおどろおどろしくなく、むしろ淡々とスタジオ・セッションが進行するというスタイルなのだが、とにかく主役ふたりの個性がエグい。
かたや、クセ者ぞろいの黒人ブルース界でもひときわ異彩を放つ、元祖激ワルオヤジ。かたや、ブルーアイド・ソウルの最右翼的存在のシンガー。この孤高のふたりが、タッグを組んだのだから、その迫力はハンパではない。
ドスをきかせたフッカーの低い声と、少し高めでシャープなモリスンの声が絡み合い、異様なまでにドロドロとしたブルースが展開される。
ふつう、スローブルースは、ギターやキーボードの長いソロをフィーチャーすることが多いが、本曲では、最初から最後までフッカーとモリスンの歌がフィーチャーされ、いつ終わるともしれない。ふたりの遣り取りが10分以上続くのである。これはスゴい。
このふたりは本当にソウル・ブラザー的な仲だったようで、その後何枚ものアルバムで共演、97年の実質的なラスト・アルバム「Don't Look Back」に至るまで、強力なタッグを組み続けていた。まさに、最強のオヤジ・デュオだな。
この曲、バックをつとめるエルヴィン・ビショップ(スライド・ギター)をはじめとする白人ミュージシャンのナイス・サポートもあり、ダレを感じさせないビシッとしたトラックに仕上がっている。
たかがブルース。されどブルース。歌い手の個性こそが、ブルースにとって一番重要であることを痛感させるナンバーだ。底なしブルースの深淵を、この一曲に感じとってくれ。