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音曲日誌「一日一曲」#289 デレク・アンド・ザ・ドミノス「Key To The Highway」(Live at the Fillmore/Polydor)

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2013年10月13日(日)

#289 デレク・アンド・ザ・ドミノス「Key To The Highway」(Live at the Fillmore/Polydor)





デレク・アンド・ザ・ドミノス、70年10月、フィルモア・イーストでのライブ・アルバムより。ビッグ・ビル・ブルーンジー、チャールズ・シーガーの作品。

エリック・クラプトン率いるデレク・アンド・ドミノスは70年春に結成、同年11月デビュー・アルバム「Layla and Other Assorted Love Songs」がヒット。ライブ・アルバム「In Concert」を73年1月にリリースしているが、その頃には既に活動を終えていた。バンドの実質的な活動期間は2年にも満たなかったのである。

筆者が考えるに、ドミノスはクラプトンにとってパーマネントなグループというよりは、デラニー&ボニーのころからの付き合いのあったミュージシャンを集めて取りあえず作ってみました、という感じの「当座のバックバンド」であったのだろう。もちろん、メンバーの腕前はいずれも折り紙付きではあったが、これから彼らとずっと続けていこうという強い意志があったわけではなく、いわば、セッション的な集合だった。ところが、レコードはバカ売れしてしまった。

きょうの一曲、「Key To The Highway」は「Layla~」にも収められているおなじみのブルース・ナンバー。「In Concert」では省かれていたが、94年のライブ盤「Live at the Fillmore」には収録されている。これを聴き、かつスタジオ版のそれと聴き比べてみると、デレク・アンド・ザ・ドミノスのそういった裏事情がよくわかるのではなかろうか。

「Layla~」は70年8月から9月にかけてのスタジオ録音。対する「Live~」は10月の録音。ほとんど同時期といっていい。11月のアルバムデビューに先駆けての前宣伝的なライブ、といって間違いではないだろう。

しかし、その音楽的な充実度からいえば、両者には歴然としたへだたりがある。賢明なる皆さんなら、いわなくてもわかるだろう。そう、デビューアルバムでのゲスト・プレイヤー、デュアン(デュエイン)・オールマンの存在の有無である。

デレク・アンド・ザ・ドミノスにおいて、オールマンはあくまでも「ゲスト」であった。デビュー・アルバムの全曲でフィーチャーされていようが、けっしてメンバーではなかった。

しかし、彼のプレイはあまりにも素晴らしすぎた。ゲストどころか、主役を食って自分が主役になってしまった、そんな感じだった。

つまるところ、アルバム「Layla~」の成功は、オールマンの参加こそが決め手であった。

ふたりの個性の異なるギタリストの、息をもつかせぬ駆引き、食うや食われるやの闘い。このスリリングな掛け合いこそが「Layla~」の、デレク・アンド・ザ・ドミノスの魅力だったのに、オールマンはメンバーでない。これがこのバンドにとっては、最大の問題点だった。

それは、クラプトンのみならず、他のメンバーも十分に気づいていたことのようで、「オールマン抜きの4人でやってもダメだ」という雰囲気があったらしい。

実際、ライブでも2ステージだけオールマンを加えてやったことがあり、その後正式にバンド加入を頼んだという。しかし、返事は「ノー」だった。自分自身のバンドを離れてまで、クラプトンと一緒にやろうという意思は、オールマンになかったのだ。これがまた、バンド内の人間関係を悪化させた。

71年、2枚目のスタジオ・アルバムを制作中、ドラムのジム・ゴードンとクラプトンが激しい口論となり、録音は中止、バンドは解散となった。

その後、メンバーの大半は悲劇的な人生を歩むようになる。オールマンは71年11月に交通事故死。クラプトンはジミ・ヘンドリクスやオールマンの相次ぐ死にショックを受けて、ドラッグ漬けに。その後、復活までに相当の歳月が必要となった。ベースのカール・レイドルは80年、アルコールとドラッグ中毒のため37才で死亡。ゴードンもドラッグ中毒、統合失調症となり、殺人罪を犯す。ああ、なんという不幸の連鎖だろう。

彼らの生み出した素晴らしい音楽とは裏腹に、多くのメンバーの心身は救いようもないくらい、蝕まれていたのである。

そういう事実を知ったうえで聴くと、聴きなれたはずの彼らの演奏も、さまざまな感慨を呼び起こしてくれる。

ライブ版「Key To The Highway」は、スタジオ版のそれからオールマンが抜けた分、全編、完全にクラプトンをフィーチャーしたアレンジになっている。

他のメンバーは完璧にバッキングに徹しており、ギターの掛け合いがない分、ピアノ・ソロでも入れたらよさそうなものなのに、それもなし。とにかくクラプトンが弾きまくるのみ。

それでも、クラプトンの盲目的なファンなら万々歳だろう。が、筆者を含む大半のリスナーは、スタジオ版を既に聴いてしまったばかりに、それに比べるとちょっと単調だなという感想はどうしても抱いてしまう。

クラプトンのギター・プレイだって、十分にカッコいいのだが、スタジオ版の、あのうねるようなグルーヴは、そこにはない。

贅沢を言うようだが、リスナーは最良のものを知ってしまった以上、それに次ぐものでは満足できないのである。

いきなり最初に「Layla~」という未曾有の傑作が出来てしまったことが、彼ら、デレク・アンド・ザ・ドミノスの至福であったと同時に、その後の活動の一番の足かせとなったのは、間違いない。プロフェッショナルとしては、常に「Next One」を最高の出来としていかねばならないのだから。

決して悪い出来ではないこの「Key To The Highway」も、でも最高とは評価されない。げに、ミュージシャンとは、因果な商売であるね。