2013年12月22日(日)
#299 エイミー・グラント「The Christmas Song(Chestnuts)」(A Christmas Album/Reunion)
#299 エイミー・グラント「The Christmas Song(Chestnuts)」(A Christmas Album/Reunion)
アメリカの女性シンガー/ソングライター、エイミー・グラント、83年リリースのクリスマス曲集より。メル・トーメ、ロバート・ウェルズの作品。
エイミー・グラントは60年、ジョージア州オーガスタ生まれ。学生時代ナッシュビルのレコーディングスタジオでアルバイトをしたのがきっかけで、クリスチャン・レーベル(白人ゴスペル専門)のワードから78年に17才でデビュー。82年にはアルバム「Age To Age」がミリオン・セラーとなり、ゴールド・ディスクやグラミー賞を獲得するなど、宗教音楽部門では若くしてトップに昇りつめたのである。
その後はポップ部門にも進出する。86年には元シカゴのピーター・セテラとのデュエット曲「The Next Time I Fall」で全米1位となり、それを機にメジャー・デビュー。ソロとしても91年の「Baby Baby」が大ヒット、同じく全米1位となっている。
当年53歳、いまや押しも押されもしない、コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック(CCM)の第一人者だが、その成功はもちろん偶然ではなく、彼女のもつ確かな歌唱力、表現力によるものと断言できる。とにかく、出すレコード出すレコードが、すべて売れるのだから。
きょうの一曲は、ポップシンガーとしてブレイクする前、83年に制作されたクリスマス・アルバムから。CCMのシンガーたちにとって、クリスマス・ソングは最大の活躍の場、腕の見せ所にほかならないが、グラントのこのアルバムも、全編にわたって彼女の歌の才能がいかんなく発揮されている。
そのなかでも今回ピックアップしたのは、46年にジャズ・シンガーのメル・トーメとロバート・ウェルズが共作し、ナット・キング・コールがミリオン・ヒットを放った名曲、「The Christmas Song(Chestnuts)」である。
日本でクリスマスといえば、単なる商店街のお祭り、あるいは恋人たちのイベントと化してしまっているが、キリスト教徒たちの国では、本来は厳粛な儀式であり、そのうえで華やかな祝典としても楽しまれているのだ。
クルスマス・ソングも、ただの浮かれたムードで歌うのでなく、神への敬虔な祈りとともに歌われなければならない。
トーメのメロディ、ウェルズの詩は、そこをきちんとふまえて、おごそかな中にも喜びをたたえた、極上のクリスマス・ソングに仕上がっている。
余談ながら筆者は、トーメの存命中の90年頃に、五反田の郵便貯金ホールへトーメのコンサートを聴きに行ったことがあり、その中でこの歌を聴いたのであるが、感銘の涙を禁じ得なかったのを、昨日のことのように覚えている。
さて、グラント版の「The Christmas Song」だが、キング・コールや作者トーメ自身といったベテランシンガーたちの名唱と比べてもひけをとらぬくらい、清廉で気品に満ちた歌声を聴かせてくれる。
彼女の声は(たとえば似た系統のオリビア・ニュートン・ジョンなどと比較するとよくわかるが)、実に「クセ」がない。個性的とはあまり言えないが、万人に快く受け入れられるタイプの「いい声」なのである。
ブルースのようなアクの強い音楽を歌うにはあまり向いていないが、聖歌、讃美歌、そういった純度の高い音楽を歌うには、グラントの声は一番向いているのだろう。
「一家に一枚」的な、家族全員、いや全米3億人が安心して聴ける音楽。そういう意味で、彼女は最強のシンガーなのかもね。