NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#284 ボビー・ブルー・ブランド「I Smell Trouble」(The Best of Bobby Bland/MCA)

2024-01-14 05:14:00 | Weblog
2013年9月8日(日)

#284 ボビー・ブルー・ブランド「I Smell Trouble」(The Best of Bobby Bland/MCA)





黒人シンガー、ボビー・ブルー・ブランド、57年のシングルより。ドン・ロビーの作品。

この6月に83才で亡くなったブランドだが、日本でのジミな人気からは想像もつかないくらい、本国アメリカでは国民的なシンガーといっていいだろう。そう、B・B・キングと肩を並べるぐらいの。

ブランドは30年、テネシー州ローズマーク生まれ。幼少時よりゴスペル音楽に親しみ、10代で州都メンフィスへ出て、ゴスペル・グループに歌で参加。かの地の人気シンガー、ロスコー・ゴードンの知己を得て、本格的にブルース/R&Bシンガーへの道を歩み出す。

51年、モダンにて初レコーディング。チェスを経て、デュークへ移籍。ここで数々のヒットを飛ばして、人気を確立する。

57年の「Further Up The Road」、そう、クラプトンのカバーでもよく知られるあの曲が大ヒット。R&Bチャートでトップとなっただけでなく、総合チャートでも43位となり、彼の評判は一躍全国区的なものとなる。

きょうの一曲「I Smell Trouble」は、その「Further Up The Road」の直前に出したシングル「Don't Want No Woman」のB面にあたる。

A面よりもむしろ人気が出て、多くのブルースマン、たとえばバディ・ガイ、ジョニー・ウィンターなどにカバーされたこの曲、ブルース・シンガーとしてのブランドの魅力を凝縮したようなナンバーに仕上がっている。

泣きのギター・ソロから始まるスロー・ブルース。なめらかなバリトン・ボイスに時折りハイ・テンションなファルセットを交えて、哀愁に満ちた歌声を聴かせてくれる。

ブルースという音楽は、そのマイナー性、閉鎖的なレイス・ミュージックという性格もあって、歌に関してはわりと素人っぽさ、拙さがまかり通っているところがあるけれど、もちろん、そんな中でもすぐれたシンガーはいる。ブランドはその稀少なひとりだろう。

そう、ブルース・シンガー数々あれど、他のポピュラー音楽の名歌手たちと聴き比べてもまったく聴き劣りのしないシンガーは、BBと、そしてこのブランドくらいだと思っている。

それはやはり、長年、チトリン・サーキットとよばれるネットワークでの巡業を重ね、ライブを極め尽くしたシンガーならではのものだと思う。録音してレコード盤を世に出せれば、即プロ歌手、というものではないのだ。

たった2分半の曲の中に込められた、深い味わい。その歌詞内容も、また実に深い。20代後半にして既に人生の酸いも甘いも噛み分けたようなその歌は、夜ごとのライブの総決算なのだと思う。

人気シンガーたちにも尊敬される、シンガー・オブ・シンガー。そんなボビー・ブランドの、若くして円熟した世界をとくと味わってみてくれ。