とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

『千と千尋の神隠し』の分析的読解8「ハンコ」

2023-02-18 08:45:37 | 千と千尋の神隠し
 国語の授業で『千と千尋の神隠し』の分析的読解をやってみようと思い、準備しています。キーワードごとに分析していこうと考えています。まだ構想段階ですがメモ的に書いていきます。

 8つ目のキーワードは「ハンコ」。

 『千と千尋の神隠し』で、私にとって今一番わかりにくいのが「ハンコ」です。時系列的に整理します。

1日目
 千尋の家族が新しい家に行く途中で異界に紛れ込みます。千尋がハクによって油屋に連れてこられて、湯婆婆と契約します。ただし名前は「千」としての契約です。

 契約が終わるとハクが再登場します。千尋は最初優しかったハクが千尋のことを覚えていなかったので悲しくなります。

2日目の朝
 2日目の朝にハクが千尋を呼び出します。やはりハクは千尋のことを覚えていたのです。千尋は友達がくれたカードを見つけ、自分が千尋だったことを思い出します。

 千尋は自分の名前を忘れそうになっていたのです。千尋は油屋にもどり、ハクは白い竜になって飛び立ちます。この時、ハクはハンコを盗むために、銭婆のところに行ったことが後にわかります。

2日目の夜
 ハクはハンコを盗んで瀕死の状態でもどってきます。(ハンコを盗んだことも後でわかることです。)ハクを大量の紙の鳥が追いかけてきます。千尋の助けもあり、瀕死のハクは湯婆婆の部屋に戻ります。千尋もハクが心配で、追いかけるように勇気をもって湯婆婆の部屋に行きます。その際、紙の鳥の一つが千尋の背中につき、千尋とともに湯婆婆の部屋に忍び込みます。

 湯婆婆はハクはもう役に立たないから処理するように命じ、カオナシの対応のために階下に行きます。千尋はハクを介抱しますが、瀕死です。千尋にくっ付いてきた紙の鳥が銭婆になります。この時銭婆はなぜか半透明です。銭婆は魔法をかけて巨大な赤ん坊の「坊」を鼠にし、鳥をハエに変えてしまいます。鼠になった「坊」とハエは、この後、千尋と一緒に行動します。銭婆はハンコを盗んだものに死を与える呪いの魔法をかけたといいます。ハクにハンコを返すように言いますが、ハクは怒り、銭婆は消します。ハクと千尋は床の穴から釜まで落ちていきます。

 釜で千尋はハクを介抱します。しかしハクは苦しみます。千尋は川の神にもらったニガダンゴを半分ハクに無理矢理食べさせます。ハクは苦しみ、何かを吐き出します。それは黒いゲル状の「変な虫」に包まれたハンコでした。つまりハクはハンコを飲み込んでいたのです。「変な虫」は千尋が踏みつぶします。そして千尋はハンコを銭婆に返しにいくと言います。銭婆のところに行くには電車に乗らなければなりません。釜爺は片道の切符を見つけます。行くには行けるが帰りがないと言います。電車の切符を千尋に渡します。

3日目の朝
 この後、千尋はカオナシを対峙し、カオナシをおとなしくさせます。カオナシをおとなしくするために残ったニガダンゴを使ってしまいます。そのために両親に食べさせるニガダンゴはなくなってしまいました。千尋と「坊」が変身した鼠とハエとカオナシは、電車に乗って銭婆の家を目指します

3日目の夜
 電車に乗っていると日が暮れていきます。夜に銭婆の家に到着します。千尋は銭婆にハンコを返します。銭婆はハンコに魔法のまじないかけたのに大丈夫だったのかと千尋に尋ねます。千尋は「変な虫」を踏みつぶしたと言います。それに対して、銭婆はその変な虫は湯婆婆がハクを操るためにハクの体の中に住まわせたものだと言います。銭婆は鼠、ハエ、カオナシと協力して髪飾りを作り、千尋に渡します。


 ハクが迎えにきます。白い竜になったハクの背中に乗りながら、千尋はハクはコハク川の神であり、幼いころ自分を助けてくれたことを思い出します。そしてハクは自分の名前を思い出します。

 長くなってしまいましたが、この最後のハンコの呪いと変な虫の部分が大きなポイントのように思えます。銭婆はハンコに呪いをかけました。だからハンコを持っているものは死ぬのです。しかしハクは死に至っていませんし、ハンコをもった千尋はまったくなんともありません。ということは変な虫が呪いからハンコを守っていたことになるのではないでしょうか。とすれば銭婆の呪いからハクや千尋を守っていたのは結果として湯婆婆ということになります。

 そもそも、なぜ湯婆婆はハンコが必要だったのでしょうか。これは千尋と湯婆の契約を成立させるためだと考えるのが一番自然です。「ここで働かせてください。」と無理に頼んできた千尋をここで働かせるために必要だったからです。ただしそれだけだと他の契約の時にどうしていたのかが説明できません。ここはもっと考える必要があります。

 ではハクはなぜハンコを飲み込んでいたのでしょうか。ハクはハンコを湯婆婆に渡したくなかったからです。ハンコを飲み込んで自分が死んでしまえば、千尋と湯婆婆の契約は成立しません。だから千尋は「生の世界」へもどることができるのです。

 ハクは千尋のためにハンコを盗み、それを食べてしまいました。千尋はハクのために湯婆婆の部屋に忍び込み、必死にハクを看病し、自分にとって大切なニガダンゴをハクのために与えたのです。そしてハクを助けてもらうために銭婆にハンコを返しにいきます。釜爺がいった「愛」とはこういうことであり、「愛」の力でハクは助かったのです。

 もう一つ考えられることがあります。湯婆婆はハクを支配するために変な虫をハクの体の中に入れました。銭婆はハンコに呪いの魔法をかけました。この二人の魔法がハクの体の中で戦ったのだと思います。ですから両方の魔法の効力が落ちたのです。二つの魔法の戦いによってハクの体は衰弱しましたが、その戦いによって魔法が決定的な力を失ったのです。

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『千と千尋の神隠し』の分析的読解7「生と死」

2023-02-10 07:56:55 | 千と千尋の神隠し
 国語の授業で『千と千尋の神隠し』の分析的読解をやってみようと思い、準備しています。キーワードごとに分析していこうと考えています。まだ構想段階ですがメモ的に書いていきます。

 7つ目のキーワードは「生と死」。

 家族たちが車で引っ越し先の家に行く最初のシーンは現実の世界、つまり「生の世界」です。しかし山道に迷い込み、廃墟に入ったところあたりからは別次元の世界になります。ここは死の世界なのでしょうか。「銀河鉄度の夜」の項で申し上げましたが、死の世界まで行くには電車に乗る必要があります。ということはまだ完全には死んではいない。千尋たちが迷い込んだ別次元の世界は、「生と死の境目の世界」と考えるのが妥当です。そしてそこに神々が集うのです。


 「神々の世界」に現世の人間が迷い込むと、透明になっていくようです。千尋も最初、透明になりました。カオナシもそうです。鉄道に乗る人々もみんな透明です。透明になった現世の人間は死の世界に行くと考えていいようです。しかしその世界のものを食べてしまうと、その世界の住民となってしまいます。他の動物になるか、一生働き続けるしかありません。

 その異空間に迷い込んだ人間が、現世の「生の世界」に戻っていくには、大変な努力が必要です。しかも、その努力には勇気も必要です。自分の力で局面を打開していかなければいけないのです。それを成し遂げた千尋は、「生の世界」にもどることを許されます。

 さて、「生の世界」に戻ろうとする千尋にハクは言います。
「トンネルを抜けるまで絶対に振り返ってはいけない」



 さて、「生の世界」に戻ろうとする千尋にハクは言います。
「トンネルを抜けるまで絶対に振り返ってはいけない」


 これは古事記のイザナミ、イザナギの話を思い出させます。その内容は以下の通りです。

イザナギは妻のイザナミに先立たれましたが、逢いたくて黄泉の国へと行きました。
イザナミはイザナギが来たことを喜びました。
しかし黄泉の国の食べ物を口にしているため、黄泉の国の住人になっていました。
「帰りたいけれど、この国の神々と相談してくるので、その間は決して私の姿を見てはいけません。」と言って御殿の中に入っていきました。
しかし、イザナギはなかなかイザナミが帰ってこないので、中をのぞいてしまいました。
すると、そこには腐敗して体中に蛆がたかり、雷をまとった妻の姿がありました。
イザナギは恐れて逃げ出し、イザナミは追いかけました。
そしてイザナギは黄泉比良坂でイザナミと離縁しました。

 このイザナミ・イザナギの神話は『千と千尋の神隠し』に反映しているのは明らかでしょう。

 だとすると『千と千尋』においてイザナミと同じ立場になるのはハクです。ハクは死んだのでしょうか。その可能性もありますが、それはまだ謎です。

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『千と千尋の神隠し』の分析的読解6「テーマパーク」

2023-02-02 14:15:34 | 千と千尋の神隠し
 国語の授業で『千と千尋の神隠し』の分析的読解をやってみようと思い、準備しています。キーワードごとに分析していこうと考えています。まだ構想段階ですがメモ的に書いていきます。

 六つ目のキーワードは「テーマパーク」。

 家族が紛れ込んだ丘陵地帯には廃墟となったテーマパークがあります。このテーマパーク、私には東京ディズニーランドに見えてしまうのです。


 道に迷った家族は車を建物の前に停めます。その建物の中を歩き始めます。それは東京ディズニーランドのワールドバザールのようです。そこを通り過ぎると様々な建物が立っており、そこには料理店もあります。そしてさらに奥に進むとそこに「油屋」があります。そそして「油屋」までに橋が架かっています。この「油屋」はシンデレラ城に見えてしまいます。
 
 神々が乗ってくる船は「マークトウェイン号」に見えますし、その向こう岸の夜景は、東京湾の向こう岸から見える東京ディズニーランドの夜景のように見えます。


 東京ディズニーランドは浦安の海岸を埋め立ててできた土地に作り上げたものです。江戸川の三角州地帯を埋め立てた土地です。「埋め立て」というキーワードは『千と千尋の神隠し』の中に出てきています。そうハクの正体は「コハク川」であり、その「コハク川」は埋め立てられてマンションになっています。関連を読み取ることは可能です。また楽しみに満ちた場所であるという点でも共通します。ただし一方では人間の欲にまみれている場所であるという点でも共通しています。


 東京ディズニーランドは「夢の国」であると同時に、資本主義の象徴でもあるのです。人間が生み出した欲にまみれた幻想のパラダイスなのです。

 このようなことを書くと、ディズニーランドファンの方から批判を受けることになると思います。しかしウォルト・ディズニーの理念はいつの間にか資本主義に取り込まれて、ディズニーは産業となってしまっています。ディズニーランドを楽しむ人たちにとってはディズニーランドは「夢の国」であることは変わりありません。特に子供たちはディズニーランドで夢を見ます。しかし大きくなるにしたがって夢を消費する存在になります。純粋な心も資本主義に取り込まれていくのが現代の姿なのです。
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『千と千尋の神隠し』の分析的読解5「カオナシ」

2023-01-31 07:38:45 | 千と千尋の神隠し
 国語の授業で『千と千尋の神隠し』の分析的読解をやってみようと思い、準備しています。キーワードごとに分析していこうと考えています。まだ構想段階ですがメモ的に書いていきます。

 5つ目のキーワードは「カオナシ」。

 『千と千尋の神隠し』で印象に残るキャラクターの一番手はカオナシでしょう。カオナシは何だったのでしょう。


 カオナシが最初に出てくる場面はかなり初めのほうです。千尋がハクとお湯屋に繋がる橋まで来た時、千尋が息をとめながら橋をわたっているときに、カオナシは千尋とハクをじっと見おっくていたのです。


 ここで注意が必要なのは、カオナシは透明になりかけていたということです。この世界では人間は透明になります。千尋が透明にならずに済んだのはハクから赤い玉を食べさせられたからです。この意味については今、考えている最中です。いずれにしても人間は透明になってしまう世界だと考えられます。ですからカオナシは人間です。

 人間であるカオナシは千尋のことが好きになります。千尋と近づくために欲が生まれ、あらゆるものを「消費」して、どんどん自らを大きくしていきます。おそらく大きくなっていくカオナシはバブル経済を表しているのだと思います。


 しかし千尋はそんな幻想を信じていません。カオナシが与える砂金にには興味を示しません。子供は金銭的な欲はありません。しかし人間は大人になるに従ってお金に支配されてしまいます。子供のころは純粋に愛や正義を信じていられます。しかし大人になるとそれができなくなります。千尋は子供だからまだ純粋に愛と正義を信じていられたのです。カオナシは大人です。純粋な心を失い、愛情をお金で考えてしまうのです。

 さて、もとに戻ったカオナシは千尋と電車に乗ります。電車は「銀河鉄道」と同じです。死者を運びます。千尋はハクによって戻ってきますが、カオナシはそのまま死の世界にとどまります。


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『千と千尋の神隠し』の分析的読解4「山の神々」

2023-01-28 08:23:38 | 千と千尋の神隠し
 国語の授業で『千と千尋の神隠し』の分析的読解をやってみようと思い、準備しています。キーワードごとに分析していこうと考えています。まだ構想段階ですがメモ的に書いていきます。

 四つ目のキーワードは「山の神々」。

 千尋の一家は引っ越しをしてきます。場所は郊外の丘陵地帯にできたニュータウンのようです。なぜ引っ越したのか。映画を見る限り特に隠された事情があるとは思えません。車のナンバーは多摩ナンバーです。おそらく、貸家暮らしだった家族が少し不便な郊外の丘陵地帯のニュータウンに一軒家を買って引っ越したのでしょう。


 さて、自動車は道を一本間違えて、舗装されていない道に迷い込みます。その道には鳥居があったのですが、邪魔になるからなのか、道のわきに移動させられています。そこには神様の祠があります。その山は神々が住む山だったのでしょう。しかし今は新しい住宅街ができ、さらにはテーマパークまでもできていました。しかしそのテーマパークも今は閉園し廃墟となっています。つまり山の自然は、人間によって破壊されたのです。


 家族は行き止まりで車を降り、荒廃した建物を通り抜けます。通り抜けた先はテーマパークの残骸があります。父と母はそこで食事を始め、食べ過ぎて豚になります。バブル時代の日本人を表しているようです。

 夜になると、神々が船に乗って人間の世界から、この山に集まってきます。人間の世界では透明だった神々は、この世界では姿を現します。そして「油屋」という名の「湯屋」で疲れをいやします。その「油屋」を仕切っているのが湯婆婆です。


 本来、この山は神々の居場所でした。しかし人間が奪い去り自分たちのものにしてしまい、神々の居場所が奪われたのです。人間は川を生みたて人間の住処にしたように、山を削って人間の住処にしたのです。人間は神々にとっては迷惑な存在です。ここに作品のテーマが明確に表れています。

 湯婆婆は悪人のように描かれます。しかし以上のことを考えてみると、この湯屋を経営している湯婆婆は正しい行いをしていると考えることができます。神々のために湯屋を経営し、しかもその湯屋に人間が入ることを許しません。湯婆婆は悪者扱いされがちですが、冷静に見てみれば筋の通ったことをしているように思われるのです。
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