イプセン作の『人形の家』を読みました。演劇脚本としては必読書のひとつだと思いますが、今回初めて読むことができました。今読む作品としてはとりたててどうということのない作品なのかもしれませんが、演劇史的にはとても重要な作品であると思います。
世間知らずのお嬢さんであったノラは、家族のために犯罪をおこしてしまいます。しかし世間知らずであったがために自分のやったことが犯罪だと気が付かないでいました。夫も出世して経済的にもこれから安定しそうです。順風満帆にみえました。ところが自分の犯罪行為に気付かされます。なんとかそこから逃れようと小手先の策を考えるのですが、まったくうまくいきません。しかもそれが夫にバレてしまいます。読者はみんな「かわいそうなノラ」と思うことでしょう。しかし、ノラは結局助かってしまいます。もちろん夫も地位も名誉も失うことなく、経済的にも助かります。読者もみんなよかったよかったと思うでしょう。
ところが戯曲はここから急展開します。ノラは助かった時に自分が単なる世間知らずだったことをはじめたわかるのです。つまり夫の「お人形」にすぎなかったということに気付かされるのです。世間知らずのお嬢さんであったノラは、夫から自立しようと家を出ることを決心します。このどんでん返しの構成に読者はびっくりします。
ブレヒトによって演劇に拠る「異化効果」という言葉が有名になりました。ブレヒトの場合はわざと「これは演劇だ」という演出をすることが異化効果であったですが、実は「人形の家」のようなどんでん返しは異化効果の典型と言ってもいいのではないでしょうか。こういう意見を言っている人をまだしらないのですが、私にはそう思えるのです。その意味でとても重要な戯曲作品だと思います。