とにかく書いておかないと

すぐに忘れてしまうことを、書き残しておきます。

シス・カンパニー公演『桜の園』を見ました。

2024-12-26 18:00:08 | 演劇
シス・カンパニー公演、ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出の『桜の園』を見ました。チェーホフの世界が見事に再現された舞台でした。

ロシアの富豪の家が舞台です。その家は「桜の園」と呼ばれる桜の木がたくさん植えられている大邸宅です。しかしその富豪は没落しています。もはや「桜の園」を売ってしまうしかない。その重大性が女主人ラネーフスカヤはわかっていません。なんとかなるんだろうと他人事のような反応しかしめせません。その家の住民はみんな事の重大性がわかっていないのです。このあたりの描写がケラの演出は見事です。そもそもケラの芝居はそういう作品ばかりです。事態が深刻になっても、登場人物の会話はその重大性とは別次元で進んでいくのです。

重大性を理解しているのは、この家の元農奴の息子で、今は商人となったロパーヒンです。結局、この家を買うことになります。その時、初めてラネースカヤは事の重大性に理解できるのです。とは言え理解できたからと言って変わるわけではありません。やはり、何とかなるという雰囲気なのです。

事態の現実を人間は頭では理解できても、心では理解できないのかもしれません。それは不幸なことでもあり、幸福なことなのかもしれません。

いい芝居でした。
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マクミラン作『モンスター』を見ました。

2024-12-23 08:36:15 | 演劇
ダンカン・マクミラン作『モンスター』を見ました。見ている人間が追いつめられる作品でした。

登場するのは、家庭が安定しなく社会では問題児とのレッテルをはられたADHDの傾向が強くあらわれる少年と、その少年を担当することになった自分自身も深い問題を抱える新人教師、そして少年を育てる祖母と、教師の恋人の4人。教師は少年との関係をなんとかうまくいくように努力するのですが、うまく行かずに、対立の度を高めて行ってしまいます。それはそれぞれの家族に波及し、みんなが生きづらくなってきます。

少年を苦しめているのはなんなのだろうか。そして関係で苦しんでいる周りの人たちは救われないのか。見ていて本当に苦しくなっていきます。

学校はここまで極端ではないとしても、似ている状況と常に接しています。昔は教師側の威圧で対処していたのですが、それによって人権を奪われた子どもたちはたくさんいたののだと想像されます。現在はそれぞれの子どもたちを尊重するために、教師は追い詰められています。かかえきれないものを抱えて仕事をしなければなりません。

この劇は八方ふさがりの教育状況が、描かれています。それでも前を向かなければいかない。踏み出す力はどこから生まれるのか。考えさせられる演劇です。

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『ハムレット』を見ました。

2024-06-08 07:26:58 | 演劇
彩の国さいたま芸術劇場開館30周年記念 彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd Vol.1『ハムレット』を見ました。役者の熱演により、迫力のある素晴らしい舞台でした。

演出は吉田鋼太郎。キャストはハムレットが柿澤勇人、オフィーリア役に北香那。ハムレットの亡き父と、その弟のクローディアス役を吉田鋼太郎、ハムレットの母ガートルード役に高橋ひとみなどが演じます。

舞台は満足したのですが、なんど見てもハムレットはよくわからなくてしっくりきません。今回はそのことについて書きます。

ハムレットの父であるデンマーク王が急死します。王の弟クローディアスが王妃と結婚し、後継者としてデンマーク王の座に就きます。つまりハムレットの母は、ハムレットの伯父とすぐに再婚してしまうのです。そこにハムレットの父の亡霊が現れ、自分はクローディアスの毒殺されたのだとハムレットが告げます。ハムレットは復讐を誓います。

ここまでの筋はわかりやすいのですが、ここからがよくわからなくなります。ハムレットの「暴走」が始まるのです。

復讐を誓ったハムレットは狂い始めます。狂気を装っているようでもあるのですが、それにしては行き過ぎです。ハムレットは愛するオフェーリアを無下に扱います。さらには、母である王妃と会話しているところを隠れて盗み聞きしていたオフェーリアの父である宰相ポローニアスを、クローディアスと誤って刺し殺してしまうのです。かわいそうなのはオフェーリアです。愛するハムレットから冷たくののしられ、父親もハムレットに殺されてしまうのです。オフェーリアは気が狂い、溺死します。

ハムレットの行為はどう見てもやりすぎです。観客はここまでくるとハムレットと同化できなくなります。

宰相ポローニアスの息子であり、オフェーリアの兄であるレアティーズは、父と妹の仇をとろうとします。ハムレットと剣術の試合を行い、毒を塗った件でハムレットを殺そうとするのです。しかし結果として、ハムレットもレアティーズも剣の毒のために死んでしまいます。さらにはクローディアスもガードルードも死んでしまいます。

最後のシーンは味方によってはドタバタ劇のようでもあるのです。そもそこハムレットはクローディアスに対して復讐をすればそれでよかったはずです。その機会もありました。しかし、事を面倒にしてしまって、みんな死んでしまうのです。これは何を意図した作品だったのでしょう。

しかし、実はこの不思議さに最近は実ははまってきているのです。なぜこうなるのか、なぜこうする必要があるのか、それを考えるとおもしろくなってきます。その解釈をつくりあげることも、観客の創造でもあるのです。

芸術作品とは、受け手の想像力を活性化し、受け手自身があらたなものを作り上げることも含めて存在するものなのではないかという気もしてきます。「ハムレット」はそういうことを考えさせてくれる作品です。
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フロリアン・ゼレール作『La Mère 母』を見ました。

2024-04-16 17:37:34 | 演劇
東京芸術劇場シアターイーストでフロリアン・ゼレール作『La Mère 母』を見ました。現実と幻想の狭間の人間を描く、緊張感あるすばらしい舞台でした。

家族のために人生をささげてきた母。しかし大切に育てた息子は自分で暮し始め、彼女もでき次第に母から離れていきます。愛情過多の母が次第に鬱陶しく感じてもいるようです。夫にも愛人がいるようです。夫の嘘が心を突っつくように感じます。母は自分が生きがいとしていた家族に去られ、いつしか精神を病み幻想を見始めます。演劇はその幻想と現実の狭間を描き、事実がどこにあるのかがわかりません。観客は追い詰められていく母の姿を見詰めることによって、家族という不思議な存在を考えざるを得ません。非常に悲しく残酷な演劇です。

主演は若村麻由美。愛情過多であり、孤独を怖れる女性を見事に演じています。父親役の岡本健一もやり過ぎない演技で舞台を引き締め、若村麻由美との距離感を見事に作り出しています。息子役の岡本圭人も微妙な心理をうまく演じています。

引き締まった舞台であり、なおかつ心の迷宮に迷い込む感覚になります。名舞台です。
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シスカンパニー公演『カラカラ天気と五人の紳士』を見ました。

2024-04-14 10:51:46 | 演劇
 作:別役実、演出:加藤拓也、出演:堤真一、溝端淳平、藤井隆、野間口徹、小手伸也、中谷さとみ、高田聖子という豪華絢爛の公演『カラカラ天気と五人の紳士』を見ました。笑いながら、怖い世界に突き進む作品でした。傑作です。

 昔、NHKの「おかあさんといっしょ」の中で、週1回「おはなしこんにちは」というコーナーがありました。その中で不思議な童話が読まれます。子供のころ私はそのコーナーが大好きでした。中学生か高校生になり、図書館に行くと『淋しいおさかな』という童話集がありました。そしてその童話集に「おはなしこんにちは」の童話が載ってのっていたのです。そしてその本の作者が別役実さんでした。

 そこから私は別役実さんのファンになりました。別役さんが劇作家で、不条理劇を書いていることも後から知りました。別役さんの不条理劇は難解なものが多く、よく理解できいことが多かったのですが、学生で東京に住んでいたころ、何度か見に行きました。やはり難解で、しかも静かな演劇で、別役さんの芝居からは遠ざかっていました。「不条理」という言葉はよく耳にしますが、実感としてなじまないことが多く、ベケットなどもよくわからないままでした。

 しかし年を取るにしたがって不条理が少しずつ実感できるようになってきました。人生は不条理です。理屈通りに行くことなんかありません。不条理の中で生きていくしかないのです。というよりも本来人間の生きていく意味などないのです。生きていくというのは死を待つための暇つぶしでしかないのかもしれないのです。

 この芝居も笑いが絶えません。昔見たコント55号のコントみたいです。しかし、私たちが真面目にやっているつもりの毎日の仕事や生活も、実は宇宙人から見たらおかしなことにしか見えないでしょう。この芝居はそのことに気付かせてくれます。

 残りが少なくなってきている自身の人生、これから何をしていくべきか、そんなことを考えさせられてしまいました。

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