ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

笹原溜池

2023-06-25 17:07:51 | 佐賀県
2023年5月21日 笹原溜池

笹原溜池は佐賀県鹿島市音成にある鹿島市多良岳土地改良区が管理を受託する灌漑目的のアースフィルダムです。
佐賀県の有明海沿岸では温暖な気候と地味豊かな地質を活かし昭和30年代より丘陵地でのミカン樹園地開発が進められます。
鹿島市から太良町にかけての多良岳北東山麓では1964年(昭和39年)に約630ヘクタールの樹園地開発・収穫量9000トンを目的とした『国営多良岳農地開発事業』が着手されその灌漑・防除用調整池として1969年(昭和44年)に竣工したのが花取溜池です。
事業全体も1981年(昭和56年)に竣工し、当池のほか花取溜池七曲溜池万才溜池が築造されるとともに延長123キロの配分水路網が整備され、当地域は佐賀県屈指のミカン生産地となりました。
しかし1991年(平成2年)のオレンジ輸入自由化により、ジュース向け原液がほぼ輸入品にとって代わったことで汎用ミカン価格が急落し全国のミカン農家は大打撃を受けます。
当地域でも離農や耕作放棄などが相次ぎましたが、現在は最高級品質の『祐徳ミカン』のブランド化に成功したほかレモン等への品種転換などにより生き残りを図っています。
なお、名称に『溜池』がついていますが国営事業で建設された農業用調整池ということで『農業ダム』の扱いとなりため池データベースにも記載がありません。

ダム下から
堤高26.3メートル、175メートルのアース堤体。


ダム下の調圧水槽(現地表記では減圧水槽)
ここから専用の配分水路で受益農地に用水補給します。


堤体を見上げると
中段にはドレーンおよび漏水計。


ダム左岸を洪水吐導流部が流下します。
導流部沿いの階段で天端へ。


下流面
堤体は犬走を挟んで2段構成。


左岸の越流式洪水吐。


洪水吐の奥には取水設備兼流入管。
当溜池は農業調整池で音成川上流で取水された水がいったんここに貯留されたのち配分水路で受益地に補給されます。


天端からの眺め
当地域では沢筋に水田、丘陵地にミカン樹園地が展開されています。
田植え作業中の農家に伺ったところ、水田向けの用水は既得水利権として笹原溜池をバイパスして供給されているとのこと。
写真ではわかりづらいのですが、奥に有明海が望める『海が見えるダム』。


総貯水容量は11万8000立米で笹原水槽からの導水によります。


天端は車道。


上流面はコンクリートブロックで護岸。


笹原水系の配分水路図。


2529 笹原溜池(1996)                           
佐賀県鹿島市音成
音成川水系音成川
26.3メートル
175メートル
118千㎥/114千㎥
鹿島市多良岳土地改良区
1970年


2 コメント

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天端からの眺め (tibineko)
2023-06-25 19:02:28
そのまま季節のパンフレットになりそうな、静かで穏やかで美しい景色です。
満々と水を湛えた溜池に映る景色は、緑とその時々のお天気で変わる空の色。
いつも通りの景色が普通に見られるって、幸せな事なんだと、今日も幸せな気持ちで水鏡を鑑賞させて頂いてます。
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オレンジ輸入自由化 (まっち)
2023-06-25 23:25:22
前回投稿の笹取溜池と同じ事業で建設されたので、ズルして前文まるまるコピーであいすみません。
愛媛や瀬戸内海島しょ部などミカン果樹園向けのダムや溜池は多数あるんですが、来歴を調べると必ず登場するのが1991年のオレンジ輸入自由化。
日米貿易不均衡を解消するための貿易交渉の産物の一つですが、海外産オレンジの輸入量は相応に増えたものの、米国産の増加はわずか。
顕著な変化があったのはジュース向け原液でこちらはほぼブラジル産にとって代わられ、結果として汎用品のミカン価格が急落しブランド力のないミカン産地はほぼ壊滅状態となりました。
まあ消費者側への恩恵は大きくそれまでは愛媛産のポンジュースを代表としたミカンジュースが瓶入り1リットルだいたい300円くらいだったのが、あっという間に紙パック入りオレンジジュース1リットル150円くらいに値下がりました。
1991年と言えばバブルのピーク。ジュース価格の劇的な低下は日本が長いデフレの時代に入る端緒ともいえます。
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