ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

比奈知ダム

2016-08-03 19:00:00 | 三重県
2015年12月30日 比奈知ダム
2016年  7月31日 
 
比奈知ダムは三重県名張市上比奈知の淀川水系名張川にある水資源機構が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
琵琶湖を主水源とする淀川は文字通り『関西の水ガメ』となっていましたが、流域が2府3県にまたがり利害の対立もあり統合的な河川総合開発は難航を余儀なくされました。
1962年(昭和37年)に『淀川水系水資源開発基本計画』(フルプラン)が採択され、淀川水系では水資源開発公団(現水資源機構)による河川総合開発が進められることになりました。
そして淀川主要支流である木津川流域においては木津川上流ダム群とよばれる高山、青蓮寺、室生、布目、比奈知の5基の多目的ダム建設が進められ5ダム最後となる1998年(平成10年)に竣工したのが比奈知ダムです。
比奈知ダムは水資源機構法(当時は水資源開発公団法)による多目的ダムで、他の4ダムと連携した名張川・木津川・淀川の洪水調節、安定した河川流量の維持と既得取水権への用水補給、京都府・奈良市・名張市への上水道用水の供給、比奈知発電所(三重県企業局から中部電力に移管)での最大1800キロワットのダム式水力発電を目的としています。
また比奈知ダムには木津川上流5ダムを統合管理する木津川ダム総合管理所(木津川総管)が置かれています。
比奈知ダムには2015年12月に初訪、2016年7月のダム見学会に合わせて再訪しました。
 
ダム見学会についてはこちらをご覧ください。
 
ダム右岸を国道368号線が通っておりいます。
右岸上流の国道から
 
ダムは全体的に丸みを帯びたデザイン。
手前はゲート操作室、奥は取水設備。
 
クレスト自由越流頂は全国でも珍しい天端側水路形式を採用。
呑口6門、吐口3門で呑口から入った水は天端側水路で中央に集められ吐口から流下する仕組み。
 
天端側水路(2016年7月31日)
 
天端は車両通行可能。
 
左にカーブする減勢工。
手前は河川維持放流用ゲート操作室
左奥は中部電力比奈知発電所。
(2016年7月31日)
 
左岸上流から
 
ダム見学会で普段は立ち入れない堤体直下へ下りてゆきます。
(2016年7月31日)
 
洪水吐導流部
目の前にコンジットゲート(2016年7月31日)
 
扶壁の穴は放流の際に放流管の中の空気を抜くためのもの。
(2016年7月31日)
 
洪水吐
クレスト放流の際は6門の呑口に流入した水はこの3門から放流されます。
ただし運用開始後は一度もクレスト放流はないそうです。
 
下流から
天端側水路方式の非常用洪水吐に加え、常用洪水吐としてコンジット高圧ラジアルゲート2門を装備。
減勢工は約90度に曲り、副ダムは横向き。
 
追記
比奈知ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合に事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
1330 比奈知ダム(0154)
三重県名張市上比奈知
淀川水系名張川
FNWP
70.5メートル
355メートル
20800千㎥/18400千㎥
水資源機構
1998年
◎治水協定が締結されたダム

松川ダム(元)

2016-08-03 15:45:38 | 長野県
2016年7月30日 松川ダム(元)
 
松川ダム(元)は長野県飯田市上飯田の天竜川水系松川にある長野県建設部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
松川水源部は風化した花崗岩の影響で土砂流出量が多く下流域や天竜川との合流部周辺では常習的に洪水被害が発生していました。
松川ダム(元)は建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、松川の洪水調節のほか安定した河川流量の維持と既得取水権への補給、飯田市への上水道用水の供給を目的として1974年(昭和49年)に竣工しました。
また1986年(昭和61年)には利水放流を利用した長野県建設部が管理する松川ダム発電所が増設され最大1200キロワットの利水従属発電が開始されました。
 
しかし、運用開始以降計画を超える堆砂が進行したため1987年(昭和62年)より土砂搬出作業が実施される一方、翌1988年(平成元年)に堆砂除去および排砂促進目的のバイパス水路建設を軸としたダム再開発事業が採択されました。
具体的には貯水池入り口に分派堰を設け、土砂流入を伴う出水の際にはダム湖には貯留せずバイパス水路で下流へ流下させる仕組みです。
再開発事業はいまだ進行中ですが、バイパス水路はすでに運用が開始され土砂搬出作業と併せて事業着手前に比べ貯水容量は10%程度回復しています。
 
飯田市内から県道8号を大平方面に進むと松川ダムに到着します。
左岸から。
1970年代竣工ということでゲートを装備
クレストにラジアルゲート2門、コンジットに高圧ラジアルゲート1門を備えています。
 
 
左岸の艇庫とインクライン。
 
まっすぐな導流壁と減勢工
減勢工右岸に松川ダム発電所がありますが、利水従属発電のため利水放流時のみ稼働します。
 
総貯水容量740万立米のダム湖
ダム湖入り口にバイパス水路用分派堰がありますが、ここからは見えません。
 
天端は徒歩のみ開放。
右手は管理事務所、左手は上記艇庫。
 
上流面。
 
下流面。
 
上流から
ラジアルゲート2門にコンジットの予備ゲートが見えます。
 
下流からなんとかゲートだけ見えることができました。
 
追記
松川ダム(元)には洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
  
1024 松川ダム(元)(0493)
長野県飯田市上飯田
天竜川水系松川
FNW
84.3メートル
165メートル
7400千㎥/5400千㎥
長野県建設部
1974年
◎治水協定が締結されたダム
 ----------------
3082 松川ダム(再)
天竜川水系松川
FNW
84.3メートル
165メートル
7450千㎥/6400千㎥
長野県建設部
1988年~

小渋ダム見学会

2016-08-03 15:22:43 | ダム見学会
2016年7月30日 小渋ダム見学会
 
夏休み、奈良への帰省の道すがら長野県の小渋ダム見学会に参加してきました。
事前予約が不要なうえアーチダムの見学会は初めてということもあり、見学会の実施を知ったところで参加を即決しました。
見学会は9時30分からですが、早く着き過ぎたので右岸展望台からダムを俯瞰。
 
右岸の駐車場に向かいますが、我が家が一番乗り。
早く着いたおかげで管理所長さんの説明を受けながら天端を歩くことができました。
こちらは減勢工。
 
ダム湖(小渋湖)、洪水期ということで水位は低くなっています。
 
天竜川ダム統合管理事務所。
 
天端を戻ります。
 
エレベーターでB2へ。
 
キャットウォーク初体験。
 
コンジットゲート直下。
 
アーチダムでは珍しいエレベーター棟。
 
エレベーターでB3に下り監査廊へ。
 
歪み計。
 
漏水計。
小渋ダムは非常に漏水が少ないダムだそうです。
 
階段を登り返します。
 
堤体を見上げます。
 
 
 
 
減勢工。
 
副ダム。
 
 
小渋川第三発電所。
河川維持放流を利用した発電を行っています。
 
発電所内。
 
排砂のためのバイパストンネル吐口。
 
 
一通り見学が終わり、最後にもう一度右岸展望台へ。
 
初めてのアーチダムの見学会でしたが、早く到着したおかげで所長さん自らの説明を受けることができました。
さほどの混雑もなくマイペースで見学ができアーチダムを十分に堪能することができました。

小渋ダム

2016-08-02 23:00:00 | 長野県
2015年11月 8日 小渋ダム
2016年  7月 30日 
 
小渋ダムは左岸が長野県下伊那郡松川町生田、右岸が上伊那郡中川村大草の天竜川水系小渋川にある多目的アーチ式コンクリートダムです。
『暴れ天竜』と呼ばれる天竜川では戦前は電源開発が先行し、治水ダムによる河川総合開発は1952年(昭和26年)より着手され、1959年(昭和34年)に三峰川に美和ダムが完成しました。
これにより上伊那地区での治水は改善した一方、日本有数の土砂崩落地帯を水源とする小渋川からの土砂流入は天竜川の流下能力を阻害するほか下流の発電ダムの運用にも支障を来していました。
1961年(昭和36年)の通称『三六水害』による下伊那地区の甚大な洪水被害を受け、建設省(現国交省)は小渋川総合開発事業にを採択、小渋川へのダム建設事業に着手し1969年(昭和44年)に竣工したのが小渋ダムです。
小渋ダムは国交省中部地方整備局が直轄管理する特定多目的ダムで、美和ダムと統合管理され美和ダムと連携した小渋川および天竜川の洪水調節、安定した河川流量の維持と既得取水権への用水補給、天竜川左岸約900ヘクタールへの灌漑用水の供給、長野県企業局小渋第一(ダム式発電最大3000キロワット)、第二(ダム水路式発電最大6500キロワット)第三(小水力発電550キロワット)発電所での水力発電を目的としています。
一方で小渋川がもたらす土砂により、計画を上回るペースで堆砂が進行したことから2000年(平成12年)より『小渋ダム施設改良事業』が着手され、排砂促進と堆砂除去を目的とした全長4キロのバイパストンネルが2016年(平成28年)に完成しました。
 
小渋ダムには2015年(平成27年)11月に初訪しましたが悪天候により満足な見学ができず、2016年(平成28年)7月のダム見学会の際に再訪しました。
1枚目以外の写真はすべて2016年のものです。
またダム見学会の詳細についてはこちらをご覧ください。
 
松川市街から県道59号を東に向かうと巨大アーチなアーチダムが見えてきます。
 
見学会に合わせて昨年11月8日以来2度目の訪問です。
前回はあいにくの雨模様で駆け足の見学、おまけにコンデジの撮影でしたが、今回は見学会ということで普段見れないキャットウォークや監査廊、堤体直下などをじっくりと見ることができました。
 
まずは右岸展望台から。
岩盤が強固で、アーチダムを建設するにはもってこいの地盤。斜面も法面施工だけで、山留めなどはありません。
おかげで日本屈指の薄いアーチダムの建設が可能になったそうです。
 
上流面を俯瞰。
 
ゲートをズームアップ。
5門のラジアルゲートにコンジットの予備ゲート。
 
減勢工。
 
総貯水容量5800万立米のダム湖(小渋湖)
小渋川水源は南アルプス赤石岳です。
 
放流設備としては非常用洪水吐としてクレストラジアルゲート5門、常用洪水吐としてコンジット高圧ゲート2門を装備。
アーチダムとしては珍しく堤体にエレベーター棟が設置されています。
 
右岸から
奥は天竜川ダム統合管理事務所。
 
エレベーターでキャットウォークへ。
 
 
アーチの下流面。
 
減勢工わきから。
 
完成したばかりのバイパストンネル吐口。
ダム上流4キロ地点に堰が設けられ、豪雨時にはバイパストンネル経由で堆砂除去、排砂が行われます。
 
追記
小渋ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
1021 小渋ダム(0051)
左岸 長野県下伊那郡松川町生田
右岸    上伊那郡中川村大草
天竜川水系小渋川
FNAP
105メートル
293.3メートル
58000千㎥/37100千㎥
1969年
国交省中部地方整備局
◎治水協定が締結されたダム

片桐ダム

2016-08-02 18:00:00 | 長野県
2015年11月 8日 片桐ダム
2016年  7月 30日
 
片桐ダムは左岸が長野県下伊那郡松川町上片桐、右岸が同町大島の天竜川水系片桐松川にある長野県建設部が管理する多目的重力式コンクリートダムです。
片桐松川水源部は風化した花崗岩の影響で土砂流出量が多い上に下流域では河床が上昇し洪水被害が多発していました。
片桐ダムは建設省(現国交省)の補助を受けて建設された補助多目的ダムで、片桐松川の洪水調節のほか安定した河川流量の維持と既得取水権への補給、松川町への上水道用水の供給を目的として1989年(平成元年)に竣工しました。
膨大な土砂流出を前提にダム湖上流には砂防ダムが並ぶ一方、オリフィスゲート上流部にカーテンウォールを設置しサイフォン原理を利用して排砂が容易な構造となっています。
しかし、運用開始以降計画を超える堆砂が進行し河川管理者による土砂排出が行われる一方、2021年(令和3年)には第三者事業者による公募型土砂採取が試行されています。
また同年4月に河川維持放流を利用した長野県企業局『くだものの里松川発電所』が完成、最大380キロワットの小水力発電が稼働しています。
 
片桐ダムには2015年11月に初訪しましたが悪天候のため写真撮影は叶わず、翌年7月に再訪しました。
写真はすべて再訪時のものです。
 
松川市街から片桐松川沿いに市道を西進するとダムが見えてきます。
クレスト自由越流頂9門、自然調節式オリフィス2門を備えたゲートレスダムです。
このほか常用洪水吐としてホロージェットバルブとジェットフローゲートを装備。
 
上流から
オリフィス取水口にグリーンのゲート状のものが見えますが、これがカーテンウォールです。
 
天端は徒歩のみ開放、
ゲート部分だけわずかに高くなっています。
 
左岸フーチングの脇にホロージェットバルブがあります。
こんな場所にバルブがあるのは珍しい。
 
天端から見た減勢工
今は左岸に小水力発電所が増設されています。
 
総貯水容量186万立米のダム湖(松川湖)
堆砂が進み有効貯水容量は131万立米です。
天端から見ても上流に積もった白い砂が見えます。
 
オリフィス取水口
上流側にカーテンウォールが嵌め込まれ、サイフォンの原理を活用してダム底の排砂が容易な構造になっています。
 
左岸のインクラインと艇庫。
 
右岸から。
 
右岸から上流面
奥に選択取水設備があります。
 
追記
片桐ダムには洪水調節容量が設定されていますが、治水協定により豪雨災害が予想される場合には事前放流によりさらなる洪水調節容量が確保されることになりました。
 
1038 片桐ダム(0050)
左岸 長野県下伊那郡松川町上片桐
右岸         同町大島
天竜川水系松川
FNW
59.2メートル
250メートル
1840千㎥/1310千㎥
長野県建設部
1989年
◎治水協定が締結されたダム