SoftBank
Future Stride より
目次
・GIGAスクール構想とは
・定義
・背景
・GIGAスクール構想で変わること
・子供1人1人に最適化された学び
・教員と生徒、生徒どうしなど、双方向のコミュニケーション
・教員の働き方改革
・GIGAスクール構想実現のために必要な環境整備
・子供1人1台の端末
・校内の高速通信ネットワーク
・クラウド活用
・GIGAスクール構想の5つの課題
① 授業や自宅学習での端末の利活用促進
② 授業での活用事例の創出・共有
③ 教員の指導スキルの向上
④ コンテンツのリッチ化
⑤ 高校のICT環境の整備
・まとめ
2023年度までを目標としていた「GIGAスクール構想」が、新しい生活様式への対応を経て大きく前進し、次のステージへと進みつつある。まだ課題は多くあるものの、1人1台の端末と高速通信ネットワーク、クラウドなどを活用し、教員と子供が双方向にコミュニケーションを取り、それぞれの子供に最適化された学びを提供する環境に徐々にアップデートされつつあるのだ。本稿ではGIGAスクール構想の全体像をわかりやすく解説する。
GIGAスクール構想とは
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定義
GIGAスクール構想とは、1人1台の端末と高速通信環境の整備をベースとして、Society 5.0の時代を生きる子供たちのために「個別最適化され、創造性を育む教育」を実現させる施策である。GIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、「全ての人にグローバルで革新的な入口を」という意味が込められている。
GIGAスクール構想の発表当初、文部科学省はリーフレット「GIGAスクール構想の実現へ」にて、1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワーク環境の整備を取り組みの中心に位置づけていた。2023年度までの1人1台端末の整備を掲げて取り組みが進んでいた中、新型コロナウイルスの流行と新たな生活様式への対応を受けて、GIGAスクール構想は急加速する。
「GIGAスクール構想の加速による学びの保障」として追補版が発表され、補正予算も4,610億円と大きく増額された。その結果、2021年3 在、ほとんどの自治体ですでに1人1台端末や高速通信ネットワークが実現できている状況だ。
現在の取り組みの中心は、「授業や自宅学習での端末の利活用促進」「授業での活用事例の創出・共有」「教員の指導スキルの向上」「コンテンツのリッチ化」「高校のICT環境の整備」などの課題解決にシフトしてきている。
背景
GIGAスクール構想が推し進められた背景は、日本の学校のICT環境整備の遅れだった。前掲の「GIGA スクール 構想の実現へ」では、「脆弱かつ危機的な状況」と表現されている。
GIGAスクール構想の発表当初、教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数は全国平均で5.4人/台と1人1台には遠く及ばず、地域間格差も大きかった。また、その当時は世界的に見ても日本の学校におけるICT活用は遅れており、34カ国の先進諸国で構成されているOECDの中で、「学校の授業におけるデジタル機器の使用時間が最下位」という結果になっていた。こうした状況を打破するために、政府は校内通信ネットワークの整備と児童生徒1人1台端末の整備に補助金制度を導入し、GIGAスクール構想を推し進めることになった。
加えて、GIGAスクール構想より前から取り組み自体は始まっていたプログラミング教育もGIGAスクール構想の一部としてあらためて提唱された。AIやIoTを積極的に活用するSociety 5.0の時代の到来に備え、プログラミング教育を通して、情報活用能力と論理的思考力を身に付ける狙いだ。
こうした背景により始まったGIGAスクール構想は、新型コロナウイルスの世界的な大流行を受けてその必要性が急速に高まり、2023年度までとした当初目標も2020年度内とアップデートされ、それに伴う予算措置も取られ、端末などの整備が進み、現在に至る。
GIGAスクール構想で変わること
子供1人1人に最適化された学び
1人1台の端末が配布されることで、子供1人1人に応じたコンテンツや教材を配信できるため、学習状況に合わせた学びが可能になる。
これまでの一斉型の授業では子供たちの理解力に差があっても、1人1人に最適化した教材や指導を取れないことが課題だった。また地域間での教育格差など、学ぶ場所によって学習レベルが異なるという課題も存在していた。
GIGAスクール構想の目標である1人1台の端末と家庭を含むネットワーク環境整備が大きく進んだ現在、学習状況や地域を問わず、全ての子供が自分に合った教育を受け、災害や感染症による臨時休校時でも学びの機会を奪われない土台ができたと言える。
今後は授業や自宅学習での有効な利活用を進める、それを支える教員のスキルを向上させる、よりリッチなコンテンツを作るなど、端末や通信環境などのハードを活用したソフト側の高度化を進めることで、より質の高い教育が実現されるだろう。
教員と生徒、生徒どうしなど、双方向のコミュニケーション
生徒1人1人に端末を持たせることで、子供が互いの考えをリアルタイムで共有でき、双方向での意見交換が活発になると期待される。生徒どうしのみならず教員と生徒のコミュニケーションも行えるため、教員が生徒の学習状況や反応をより深く知ることができる。
従来の一斉型の授業では、手を挙げた子供だけが回答や意見を発表していたため、自ら表現できない子供も多かったが、GIGAスクール構想では、全ての子供の意見が情報端末を活用して共有されるなどして、コミュニケーションを活性化させることが期待される。
また、学びの機会は授業中の教員と生徒間でのコミュニケーション以外からも得ることができる。例えば、整備された端末を活用して子供たちが興味を持ったことを調べたり、写真や動画などでアウトプットしたり友達どうしで共有したりする過程で、創造性を育む学びにつながるとも言える。
GIGAスクール構想の重要な考え方として「創造性を育む学び」がある。愛媛県新居浜市の事例では、「タブレットを活用することで主体的かつ対話的な学習が可能になり、大きな効果を発揮する」としている。ICTは一方通行の勉強を教えるツールではなく、子供たちが学ぶためのツールであり、授業のみに留まらず、勉強にも遊びにも活用し、日常の一部として創造的に学ぶために活用されてこそ、真価を発揮すると言えよう。
教員の働き方改革
GIGAスクール構想は教員の働き方改革にもつながる。従来の教育現場では、多くの業務が効率化されておらず、教員の勤務時間は長くなる傾向にあったが、GIGAスクール構想を通してこれらの解決につながる事例もある。
奈良県の事例では、各教員が紙やExcelなどで管理していた子供の成績や健康データ、行事のスケジュール、教員の出退勤などを、県域統合型校務支援システムを導入して共通管理することで、業務効率化が実現されている。
奈良県立教育研究所がソフトバンクと協力して行った教員の働き方調査では、統合型校務支援システムを導入したことで、「出席や学籍に関する情報共有ができ、児童生徒の指導に活かせるようになった」「グループウェアなどで情報を共有でき業務負担が軽減した」などといった肯定的な意見が多く見られた。
GIGAスクール構想の実現は、子供はもちろん教員にも多くのメリットにつながると言える。
参考:奈良県の先生の働き方調査 - 奈良県立教育研究所
GIGAスクール構想実現のために必要な環境整備
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子供1人1台の端末
GIGAスクール構想では1人1台の情報端末の環境整備するための補正予算が組まれている。前述の子供1人1人に合わせた教育や双方向のコミュニケーションなど、GIGAスクール構想を実現するためには、1人1台の端末はなくてはならない。
文部科学省の「GIGAスクール構想の実現パッケージ」では、「学習者用端末の標準仕様」として端末のモデル仕様を示しており、こうした端末を十分な数揃えることが大前提と言える。
校内の高速通信ネットワーク
GIGAスクール構想の実現のためには、校内外に高速通信ネットワークが整備されることが前提になる。子供が1人1台の端末を持ち、教員と子供が双方向で情報をやり取りするには、途切れたり遅延したりすることのない高速な通信環境が必要となるからだ。今後、動画を教材に使った授業や、遠隔授業などが円滑に行われるためには、校内LANや超高速インターネット環境整備、LTE通信の活用など、まずはその土台となる通信環境が整備されていなければならない。
クラウド活用
GIGAスクール構想ではクラウド活用も推奨されている。授業で使う学習ツールや、授業以外で教員が使う校務ツールなどにクラウドサービスを活用すれば、利便性や効率を高めることができる。
出欠や成績の管理ツール、学習支援ツール、グループウェアなど、教育現場で活用できるクラウドサービスは多数存在する。GIGAスクール構想では、子供はもちろん教員の働き方改革も期待されるため、こうしたツールを積極的に活用したい。
GIGAスクール構想の5つの課題
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① 授業や自宅学習での端末の利活用促進
「GIGAスクール構想で変わること」の章でも語った通り、GIGAスクール構想は端末の導入で達成されるものではなく、端末を活用して1人1人に最適な学びが実現されることにこそ価値がある。授業はもちろん、自宅学習や遊びまで、端末を活用して子供が幅広い学びの機会を得るために、教員や保護者がサポートしつつ促進する環境を作ることが必要だ。
現状では、まだ全ての学校で十分な利活用促進が実現できているとは言えないため、引き続き端末を活用した学習について促進していく必要がある。
② 授業での活用事例の創出・共有
GIGAスクール構想を推進するためには、授業での活用方法や指導内容などの事例やナレッジを全国の学校で共有し、各学校や教員が利用しやすい環境を用意する必要がある。この点について、文部科学省は「StuDX Style」というサイトでさまざまな活用シーンの発信を行っている。
StuDX Styleでは、タイピング方法やタブレットのカメラの利用方法といった基礎的な使い方の授業から、パスワード管理やオンラインコミュニティへの投稿といったネットリテラシーを育てる授業、子供と教員間でのチャットやカレンダーでの予定共有方法、作成したスライドを共有して互いの意見を深め合う授業など、幅広い活用シーンを紹介している。このほか、保護者とのやり取りや教員の働き方改革などにも触れている。
事例の共有によって全国の学校で同水準の授業を受けられる環境を作ることは、GIGAスクール構想の重要な要素であるため、今後も事例の創出・共有は継続して進める必要がある。
③ 教員の指導スキルの向上
ICTを活用した教育方法は従来のやり方とは大きく異なる側面もあり、指導する側である教員や保護者のITリテラシーをいかに向上させるかも課題となっている。前述の2018年度の奈良県立教育研究所とソフトバンクの協力調査では、統合型校務支援システムへの期待・不安への質問に対して「校務支援システムを利用するイメージがわかない」と回答した割合は29%に上った。また、加えて第2回調査では、「PCが得意な教員にとっては大変便利であるが、PCが苦手な教員にとっては、大変ハードルが高い」との意見も出ている。
しかし、前述の愛媛県新居浜市の事例で市内小中学校の全教員約600名を対象とした学校現場での端末利活用を推進するための研修では、多くの教員が前向きに取り組んでいたという。また、昨今の保護者はスマートフォンを日常的に使う世代でありリテラシーも高くなってきており、教員・保護者ともに徐々にリテラシー不足は解決しつつあると言える。
④ コンテンツのリッチ化
端末を使って何を学ぶかが問われるフェーズに進んだGIGAスクール構想の次の課題のひとつが、コンテンツのリッチ化だ。リッチな学習コンテンツが豊富に取り揃えられていなければ、子供に提供できる学びの機会が限られてしまう。
前述の「StuDX Style」の事例のように、様々なツールを活用した学びの機会を今後も増やしていく必要がある。授業における端末を利用した学習やコミュニケーションはもちろん、自宅学習のオンライン化やオンライン授業、健康観察、さらには日本語が十分に話せない子供のための翻訳機能を使ったサポートなど、幅広いコンテンツを用意することが求められる。
近年では、新型コロナウイルスによる自宅学習に伴い、CBT (Computer Based Testing) と呼ばれる端末を使った試験の実施も増えてきており、今後も授業や試験のコンテンツが端末越しに行われるケースは増えていくだろう。
⑤ 高校のICT環境の整備
1人1台の端末整備が進んでいる小中学校と比べ、公立高校のICT端末の整備状況は遅れていると言わざるを得ない。文部科学省の「GIGAスクール構想における高等学校の学習者用コンピュータ等のICT環境整備の促進について」によると、2021年3月末時点の端末整備状況の見込みには、整備完了率・整備予定時期・予算負担などで自治体ごとに大きな差が生まれてしまっていることが示されている。
上記資料でも、義務教育段階で1人1台端末の環境で学んだ子供が、高校に進学してもシームレスに同様の学習環境で学ぶことができるよう、端末整備を推進していくと語られているように、高校においても端末整備を含む教育情報化に向けた環境整備は今後も進めていく必要があると言える。
まとめ
Society 5.0が目指す効率的な社会に向けて、文部科学省はGIGAスクール構想を進めてきた。当初は1人1台の端末や通信環境の整備など、ハード面の導入の議論が多かったGIGAスクール構想も、現在では「ICTを活用して、どのような学びをいかに提供するか」というソフト面にシフトしてきている。
皮肉にも、新型コロナウイルスによる新しい生活様式はGIGAスクール構想の推進の必要性を高め、現在では多くの自治体が2023年度までの目標とされた水準に達しつつある。デジタルネイティブな世代の子供たちが、勉強や遊びなど日常のあらゆる場面でICTに触れ、学ぶ楽しさや意義を覚え、Society 5.0の社会を生き抜く力を育んでくれることを、切に願う。
以上 現時点でのSoftBankのGIGAスクール構想に対する基本的なスタンスを表明する文書である。