小学校時代の同級生のYさんから教えていただいていた、奈良県橿原市の昆虫館に出かけた。連日の猛暑の中ではあったが、大阪の実家にこもりがちであったので、気分転換も兼ねてのことであった。
実家から現地までは車で約50分ほど、南阪奈道路を利用し、終点で下りてから20分ほど一般道を走って昆虫館に着いた。高速道路を下りたときには周囲はビルが立ち並ぶ市街地であったが、すぐに田園地帯を走るようになり、昆虫館の近くに来ると、辺りは新興住宅地と古くからの町並みが混在しているところであった。
近くになってから、橿原市昆虫館までは案内もしっかりしていて、もちろんナビを利用してはいるが、迷わず到着することができた。
同館のパンフレットにある案内図、大和三山が近くに見える
夏休みということもあって、施設の入り口に近いがそれほど広くない第一駐車場は満車で、建物裏側の第二駐車場に車を停めた。そのおかげでというか、第二駐車場からはすぐ目の前に巨大な放蝶温室をさっそく目にすることができた。放蝶温室は、全体が細長く設計されている施設の、一番奥に造られているので、直接玄関に行ったのでは、その姿を見ることはできない。ここに来るまでは田園地帯の中を走ってきていたので、この巨大なガラス張りの建物は偉容を誇って見えた。
到着後最初に目に飛び込んできた放蝶温室の偉容(2018.8.3 撮影)
クマゼミしぐれの中を建物に沿って半周し、入り口まで歩き、観覧券510円を購入して中に入った。
橿原昆虫館の入り口付近の様子(2018.8.3 撮影)
入り口前のトンボのモニュメント、日時計になっているようである(2018.8.3 撮影)
親子連れが、順路に従って標本展示室や生態展示室で展示品に見入っている中、私はまっすぐ一番奥にある放蝶温室に向かった。
以前、寒い季節に伊丹市の昆虫館に行き、同様の蝶温室に入った時には、持ち込んだカメラのレンズが曇り、しばらくは撮影にならなかったのであったが、さすがに真夏の今はそうしたこともなく、早速蝶の撮影に取り掛かかることができた。
放蝶温室内部(2018.8.3 撮影)
一番数多く見らたのは、オオゴマダラで、優雅にふわりふわりと飛び交っている。その他、スジグロカバマダラ、ツマムラサキマダラ、リュウキュウアサギマダラ、シロオビアゲハ、カバタテハ、ジャコウアゲハなどが見られた。
放蝶温室の入り口に用意されている「温室探検ノート」によると、このほかにアサギマダラ、カバマダラ、ツマベニチョウ、クロアゲハ、カラスアゲハも放されているとのことである。私がひそかに期待していた、ツマベニチョウの姿は残念ながらこの日は見られなかった。
撮影したチョウの写真をご覧いただこう。
最初はオオゴマダラ。鹿児島県喜界島と沖縄島以南の南西諸島に分布する種で、喜界町では天然記念物に指定され、保護されている。前翅長は60~75mmと非常に大きく、日本産最大種の一つとされる。白地に黒斑と翅脈に沿う黒線があり、近似種はいないため判別は容易である。自然界でも、やや高所をフワフワとゆっくり飛翔し、林内に静止したり、訪花したりするとされる。
食草は、キョウチクトウ科のホウライカガミ。園内にはこのホウライカガミの鉢植えが配置されていた。
オオゴマダラ(2018.8.3 撮影)。
オオゴマダラ(2018.8.3 撮影)
オオゴマダラ(2018.8.3 撮影)
オオゴマダラと食草のホウライカガミ(2018.8.3 撮影)
次に多く見られたのは、スジグロカバマダラであった。この種も南方系のチョウで、八重山諸島では土着。それより以北では迷チョウまたはそれに由来する一次発生とされる。前翅長35mm~43mm。食草はガガイモ科のリュウキュウガシワやアマミイケマなど。近似種にカバマダラがいるが、本種は翅脈に沿って太い黒条があることから識別は容易。♂には後翅中央やや肛角部寄りに黒い性標があり、♂♀を判別できる。
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♀(2018.8.3 撮影)
これら2種もそうだが、温室内で見られるチョウの多くは、主な生息地である八重山諸島地方で、周年発生を繰り返していることから、温室内で飼育すれば年間を通して見学することができる。我々は、チョウは季節ごとに現れるものと考えがちであるが、暖かい地方では一年中発生している。
今回前2種に次いで多く見られたジャコウアゲハは、本州でも普通に見ることができる種で、前翅長は42mm~60㎜と大型で長い尾状突起を持つ優美な種である。寒冷地では年2回の発生だが、南西諸島ではやはり周年発生することからこうした温室のチョウに選ばれているようである。ジャコウアゲハは雌雄で翅表地色が異なり、♂はツヤのない黒色、♀は黄灰色~暗灰色になるので差異は明瞭である。他のチョウは割愛することにして、ジャコウアゲハの写真をいくつか紹介させていただく。
ジャコウアゲハ♀(2018.8.3 撮影)
ジャコウアゲハ♀(2018.8.3 撮影)
ジャコウアゲハ♀(2018.8.3 撮影)
しばらく写真撮影を楽しんだ後、放蝶温室の奥にある特別生態展示コーナーに行ってみると、ここでは、オオゴマダラの幼虫の飼育の様子を見ることができた。食草であるホウライカガミに産みつけられた卵や、5cmほどに成長した幼虫を直径12cmほどのプラスチック容器の中にみることができた。また、その容器の蓋にさかさまにぶら下がり、金色の構造色に輝く蛹も見せていただいた。
オオゴマダラの幼虫(2018.8.3 撮影)
オオゴマダラの蛹(2018.8.3 撮影)
今回見たチョウは、年間を通じて見ることができるように、別室の飼育室で羽化させたものを、温室に放しているという。
飼育に必要な餌の食草は、昆虫館が保有している石垣島の圃場から定期的に宅配便で送られてくるとのことで、通年、羽化させて放蝶するために大変な努力をしていることが感じられた。
ところで、橿原昆虫館にはもう一つの話題があった。オオムラサキの飼育である。
今回は時期が合わず見ることができなかったが、ここ橿原昆虫館では国蝶のオオムラサキの飼育も行っているとのことで、羽化を見ることができる時期には高級一眼レフを持ち、撮影に来る年配の客が増えるのだと説明していただいた。
同級生のYさんからは、朝日新聞に掲載された次の切り抜きも送っていただいていた。山梨県北杜市のオオムラサキセンターはオオムラサキの飼育では国内随一であるが、1000頭に及ぶオオムラサキの成虫を羽化させているというこの橿原昆虫館と林太郎さんの取り組みも相当なものである。今後別の機会に、季節を合わせ蛹化や羽化の時期に再訪したいものである。
オオムラサキの羽化成功を伝える朝日新聞2017.6.16日付けの記事
これまで、大阪を起点にしていくつかの博物館や美術館見て廻ったが、これは今回が最後になってしまった。今後は、また軽井沢にもどり、ここを起点としてさまざまな事物を紹介していこうと思う。
実家から現地までは車で約50分ほど、南阪奈道路を利用し、終点で下りてから20分ほど一般道を走って昆虫館に着いた。高速道路を下りたときには周囲はビルが立ち並ぶ市街地であったが、すぐに田園地帯を走るようになり、昆虫館の近くに来ると、辺りは新興住宅地と古くからの町並みが混在しているところであった。
近くになってから、橿原市昆虫館までは案内もしっかりしていて、もちろんナビを利用してはいるが、迷わず到着することができた。
同館のパンフレットにある案内図、大和三山が近くに見える
夏休みということもあって、施設の入り口に近いがそれほど広くない第一駐車場は満車で、建物裏側の第二駐車場に車を停めた。そのおかげでというか、第二駐車場からはすぐ目の前に巨大な放蝶温室をさっそく目にすることができた。放蝶温室は、全体が細長く設計されている施設の、一番奥に造られているので、直接玄関に行ったのでは、その姿を見ることはできない。ここに来るまでは田園地帯の中を走ってきていたので、この巨大なガラス張りの建物は偉容を誇って見えた。
到着後最初に目に飛び込んできた放蝶温室の偉容(2018.8.3 撮影)
クマゼミしぐれの中を建物に沿って半周し、入り口まで歩き、観覧券510円を購入して中に入った。
橿原昆虫館の入り口付近の様子(2018.8.3 撮影)
入り口前のトンボのモニュメント、日時計になっているようである(2018.8.3 撮影)
親子連れが、順路に従って標本展示室や生態展示室で展示品に見入っている中、私はまっすぐ一番奥にある放蝶温室に向かった。
以前、寒い季節に伊丹市の昆虫館に行き、同様の蝶温室に入った時には、持ち込んだカメラのレンズが曇り、しばらくは撮影にならなかったのであったが、さすがに真夏の今はそうしたこともなく、早速蝶の撮影に取り掛かかることができた。
放蝶温室内部(2018.8.3 撮影)
一番数多く見らたのは、オオゴマダラで、優雅にふわりふわりと飛び交っている。その他、スジグロカバマダラ、ツマムラサキマダラ、リュウキュウアサギマダラ、シロオビアゲハ、カバタテハ、ジャコウアゲハなどが見られた。
放蝶温室の入り口に用意されている「温室探検ノート」によると、このほかにアサギマダラ、カバマダラ、ツマベニチョウ、クロアゲハ、カラスアゲハも放されているとのことである。私がひそかに期待していた、ツマベニチョウの姿は残念ながらこの日は見られなかった。
撮影したチョウの写真をご覧いただこう。
最初はオオゴマダラ。鹿児島県喜界島と沖縄島以南の南西諸島に分布する種で、喜界町では天然記念物に指定され、保護されている。前翅長は60~75mmと非常に大きく、日本産最大種の一つとされる。白地に黒斑と翅脈に沿う黒線があり、近似種はいないため判別は容易である。自然界でも、やや高所をフワフワとゆっくり飛翔し、林内に静止したり、訪花したりするとされる。
食草は、キョウチクトウ科のホウライカガミ。園内にはこのホウライカガミの鉢植えが配置されていた。
オオゴマダラ(2018.8.3 撮影)。
オオゴマダラ(2018.8.3 撮影)
オオゴマダラ(2018.8.3 撮影)
オオゴマダラと食草のホウライカガミ(2018.8.3 撮影)
次に多く見られたのは、スジグロカバマダラであった。この種も南方系のチョウで、八重山諸島では土着。それより以北では迷チョウまたはそれに由来する一次発生とされる。前翅長35mm~43mm。食草はガガイモ科のリュウキュウガシワやアマミイケマなど。近似種にカバマダラがいるが、本種は翅脈に沿って太い黒条があることから識別は容易。♂には後翅中央やや肛角部寄りに黒い性標があり、♂♀を判別できる。
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♂(2018.8.3 撮影)
スジグロカバマダラ♀(2018.8.3 撮影)
これら2種もそうだが、温室内で見られるチョウの多くは、主な生息地である八重山諸島地方で、周年発生を繰り返していることから、温室内で飼育すれば年間を通して見学することができる。我々は、チョウは季節ごとに現れるものと考えがちであるが、暖かい地方では一年中発生している。
今回前2種に次いで多く見られたジャコウアゲハは、本州でも普通に見ることができる種で、前翅長は42mm~60㎜と大型で長い尾状突起を持つ優美な種である。寒冷地では年2回の発生だが、南西諸島ではやはり周年発生することからこうした温室のチョウに選ばれているようである。ジャコウアゲハは雌雄で翅表地色が異なり、♂はツヤのない黒色、♀は黄灰色~暗灰色になるので差異は明瞭である。他のチョウは割愛することにして、ジャコウアゲハの写真をいくつか紹介させていただく。
ジャコウアゲハ♀(2018.8.3 撮影)
ジャコウアゲハ♀(2018.8.3 撮影)
ジャコウアゲハ♀(2018.8.3 撮影)
しばらく写真撮影を楽しんだ後、放蝶温室の奥にある特別生態展示コーナーに行ってみると、ここでは、オオゴマダラの幼虫の飼育の様子を見ることができた。食草であるホウライカガミに産みつけられた卵や、5cmほどに成長した幼虫を直径12cmほどのプラスチック容器の中にみることができた。また、その容器の蓋にさかさまにぶら下がり、金色の構造色に輝く蛹も見せていただいた。
オオゴマダラの幼虫(2018.8.3 撮影)
オオゴマダラの蛹(2018.8.3 撮影)
今回見たチョウは、年間を通じて見ることができるように、別室の飼育室で羽化させたものを、温室に放しているという。
飼育に必要な餌の食草は、昆虫館が保有している石垣島の圃場から定期的に宅配便で送られてくるとのことで、通年、羽化させて放蝶するために大変な努力をしていることが感じられた。
ところで、橿原昆虫館にはもう一つの話題があった。オオムラサキの飼育である。
今回は時期が合わず見ることができなかったが、ここ橿原昆虫館では国蝶のオオムラサキの飼育も行っているとのことで、羽化を見ることができる時期には高級一眼レフを持ち、撮影に来る年配の客が増えるのだと説明していただいた。
同級生のYさんからは、朝日新聞に掲載された次の切り抜きも送っていただいていた。山梨県北杜市のオオムラサキセンターはオオムラサキの飼育では国内随一であるが、1000頭に及ぶオオムラサキの成虫を羽化させているというこの橿原昆虫館と林太郎さんの取り組みも相当なものである。今後別の機会に、季節を合わせ蛹化や羽化の時期に再訪したいものである。
オオムラサキの羽化成功を伝える朝日新聞2017.6.16日付けの記事
これまで、大阪を起点にしていくつかの博物館や美術館見て廻ったが、これは今回が最後になってしまった。今後は、また軽井沢にもどり、ここを起点としてさまざまな事物を紹介していこうと思う。
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