山本巧次の時代小説だが、常磐津の師匠であるお沙夜の裏家業の話でSF的な要素はない。
シリーズは2冊刊行されており、いずれも悪徳商人から大金を奪う大規模な詐欺の話だ。
ただ、話はやや粗く、こんな人物配置でよくばれないな、という感じだ。まあ、昔の「スパイ大作戦」みたいな感じで、読んでいる方は「こんなのでだまされちゃうんだ」と、時々頭を抱えることとなる。
読んでいるときはそれなりに面白いので、お勧めだが、シリーズを続けるのは難しそうだ。
コロナ禍の東京から、江戸へスティホームしようというおゆうさんが、人さらいの事件に活躍する話だ。
コロナは一時的なものだから、小説の題材にするのは難しいのかと思ったが、意外と流行が長く当初の予想よりも大きく世界の政治経済に影響したため、小説で取り上げても実感がこもっている。
だが、それだけではなく、リアルに感じるのは登場人物のイメージが、山本巧次のほかの作品と比較して明瞭だからではないか。これは、このシリーズの読みやすさにもつながっており、同じ作者でも「開化鐡道シリーズ」では、人物の印象がやや薄く、そのために読みづらくなっている。
今回は、3歳児の連続誘拐事件が発生したのだが、なぜか数日で解放され、犯人の狙いが分からない、という謎を解くものだった。
コロナのために江戸と東京を行き来するにも支障があり、いつものような捜査ができないのだが、かえってそれが面白さを増している気がする。