雨の夜と下弦の月

毎日を静かに、穏やかに生きていきたいと思う日々。
そのわりにはジタバタと暮らすワタクシの毎日を綴っております。

悪人。

2009-11-08 14:06:45 | books&magazine
吉田修一の「悪人」を読みました。吉田修一自身が自分の代表作になると話しているぐらいですから、さすがに読み応えがありました。物語の舞台は福岡、佐賀、長崎の九州北部。会話は、だから九州北部の方言で進んでいきます。ワタクシはジモティーでもあるので、福岡、佐賀、長崎それぞれにビミョーな訛りの違いがあるけれどとは思うのだけど、さすがにそれを書き分けていたら話がちっとも進んでいかないということなのでしょう。ちなみに、吉田修一は長崎出身ですよね。読み終えて、それぞれの心の中での悪人探しは始まるのでしょうが、ワタクシは、それよりも残されてしまった人間の悲しみみたいなものを感じました。保険外交員の若い女性が殺されて、犯人が逃亡し、捕まるまでの過程が物語の主軸になってはいるのですが。被害者の両親や犯人の祖母。犯人は事情があって祖父母に育てられたという設定になっているので。

自分の娘が殺されるというのは、たぶん、ワタクシたちの想像の及ばないほどの悲しみ、苦しみ、絶望なんだと思います。昨今、ニュースでいとも簡単に殺人事件が報道され、マスコミもセンセーショナルに騒ぎ立てますが、被害者のご遺族のことを考えれば、もう少しやりようはあるんじゃないのかと思ってしまいます。そして、理由はどうあれ加害者になってしまったほうの家族についても。この本でも、残されてしまった人間の悲しみが、静かに、深く胸に迫ります。それでも、明日はやってくるわけで。どんなにつらくても生きていかなければならないのだとしたら、人間って悲しいなぁと思ってしまいます。この本を読むと、確かに刑法犯罪を犯してしまった人間が悪いことは確かで、それは否定のしようがないのだけど、それは措いておいて、どこかで自分も「悪人」になってしまっているのかもしれないと思ってしまいました。自分の価値観が他人の価値観と同じとは限らないわけで、そうである以上、自分が正しいと思った行為で他人を傷つけることだってありうる。生きていくことの難しさを、読者それぞれに突きつけるような本ではありました。