ルーツな日記

ルーツっぽい音楽をルーズに語るブログ。
現在、 フジロック ブログ と化しています。

モリアーティとランデヴー

2009-06-07 19:27:17 | フェス、イベント
5月31日、原宿のとあるインディアン・カフェで、モリアーティのお茶会が催されました。

待ち合わせは、とある池のほとり。モリアーティから出題されたエニグマ(謎解き)を解いた者だけがそこに辿り着くことができ、そこで古いポストカードを交換し合えば、もうモリアーティ・ランドの一員に…。


フランスからやって来たノスタルジック且つミステリアスなバンド、モリアーティ。彼らのサウンドは、まだジャズやブルースに魔力があった頃、そして詩や物語が現実と幻想の狭間に息づいていた時代へと、聴く者を瞬時にトリップさせてくれます。メンバーは、ローズマリー・モリアーティ(vo)、ズィム・モリアーティ(b)、シャルル・モリアーティ(g)、アルチュール・モリアーティ(g)、トマ・モリアーティ(harp)、ジルベール・モリアーティ(?)。全員がモリアーティ姓を名乗る架空のファミリー・バンド。そう、架空です。実際は米オハイオ州出身だったり、ベトナム人とスイス人のハーフだったり、南米ペルーの生まれだったりという人種混合バンド。しかも一人は鹿の剥製…。

彼らの1stアルバム「GEE WHIZ BUT THIS IS A LONESOME TOWN」はフランスでゴールドディスクを獲得したそう。そのサウンド・コンセプトは「どこにもない架空のアメリカ音楽」だとか。哀愁あふれるカントリー・ソング「Jimmy」で始まるそのアルバムは、確かに古き良き時代のジャズやブルース、ポピュラー・ソング、そしてカントリーの息吹が凝縮されています。しかしそれだけではなく、そこにはヨーロッパのキャバレーや寂れたオペラハウスのような一種の場末感とも言える空気が漂い、まるで失われた土地を放浪するようでもあり、まさに「どこにもない架空のアメリカ音楽」なのです。まず特筆すべきは紅一点ヴォーカリストのローズマリー。まるでいにしえのジャズ・シンガーのようでもあり、酒場で歌うオペラ歌手のようでもある。可憐でありながら何処か気怠く、気品のなかに怪しさが潜む不思議な歌声。とにかくローズマリーの歌声には引き込まれずにいられません。

そして聴けば聴く程メロディとメロディの狭間、もしくは様々な楽器の音色が絡み合うその音と音の隙間へ迷い込んでしまいそうになるモリアーティ・ランド。おそらくアルチュールと思われる繊細且つ寂しげなアコギの指弾きがその扉を静かに開ける「Jimmy」。まるで廃れた三流歌劇のような「Lovelinesse」。フォーキーなアコギと寂しげなハープが印象的な「Private Lily」。ローズマリーの胆の座った歌いっぷりとトマの吹くささくれたブルース・ハープが秀逸な「Motel」。さらに深いモリアーティ・ランドへと誘い込む謎めいた「Animals Can't Laugh」。フィドル、ドブロ、ハープの絡みが高揚感を高めるカントリー・ソング「Whiteman's Ballad」。日本の“田子の浦”を題名につけた「Tagono-Ura」。シャルルのトレモロを効かせたブルージーなギター・ソロが染みる「Hanoi Blue 」。ズィムの中毒性の高いベース・ラインが印象的な「Oshkosh Bend」、などなど。

モリアーティのサウンドは、何処か謎めいた響きを持っていますが、この1st作「GEE WHIZ BUT THIS IS A LONESOME TOWN」自体がそもそも謎解き(エニグマ)でした。ハガキを模したデザインのジャケットにはこのCDを送るべき住所を探してほしい、というようなメッセージが書かれているらしく、アルバムからそのキーワードを探し、あるサイトに潜り込み、いくつもの暗号を解き、正解の住所を見つけるという、かなり手のこんだものだったそうです。実際、ゴールドディスクに輝いたアルバムでありながら、正解の住所にCDを送って来たのはたったの5名だったとか。そしてその5名のためにモリアーティはホテルのスイートルームでプライベート・ライブを行ったそうです。


MORIARTY / GEE WHIZ BUT THIS IS A LONESOME TOWN
↑このジャケにエニグマが記されています。


そんなモリアーティが、5月末に原宿ラフォーレにて開催された「LAFORET SOUND MUSEUM 2009」のために来日しました。そしてその来日に向けて、日本でも彼らの公式サイトで謎解き(エニグマ)が行われたのです。モリアーティから送られてくる3通の手紙から、待ち合わせの場所と日時を推理するというもの。そして正しい正解を導いた人だけがモリアーティとのランデヴーに参加できる。正直、その謎解き自体は思ったより簡単でしたが、モリアーティの世界へ一歩足を踏み入れた感じがしてとても楽しかったです。

で、当日は何の因果か大雨でした。中止による無駄足を覚悟で待ち合わせ場所へ向かったものの、モリアーティ御一行の姿を見つけた時は流石に嬉しかったですね。集まったのは雨のせいもあってかせいぜい10人程度だったしょうか。私には真っ先にトマが「ハーイ!」と声を掛けてくれました。ですがその後どう受け答えしたのかはまったく覚えておりません。とにかく緊張していました。何せ私は英語がまったくダメなうえに、その時点ではまだランデヴーの内容について何も知らされていなかったのです。私はてっきり待ち合わせ場所でストリート・ライヴをやるんだとばかり思ってたのですが、実際は喫茶店でのいわゆる懇親会でした。あ~、英会話習っておけば良かった…。

それでもトマとは、サニー・ボーイやリトル・ウォルター、ジェイムス・コットンなどブルース・ハーピストについて、シャルルとは私がギターを弾くことなど、ローズマリーとは私がやっていたバンドの話など、周りの人に助けられながらなんとかコミニュケーションを取ることが出きました。メンバーの皆さんはみんな気さくな方達で、英語がしゃべれない私にも根気よく話しかけてくれて、身振り手振りでなんとか伝えようと努力してくれました。中でもシャルルとアルチュールとトマは話し好きで、明るい印象。ローズマリーは落ち着いているというか、物静かな感じでした。ズィムは何故か絵を描いていました。橋とかガソリン・スタンドとか。でもこれがやたら上手いんです。素人の絵ではない感じでした。そして忘れてならないのがポスト・カードの交換。モリアーティは古いポストカードを集めるのが趣味なようで、私もこのために古書店で古い絵はがきを探してきたので、喜んでもらえたかな?

そのあと、私を含めた有志数人で、シャルルとアルチュールとローズマリーを原宿/表参道見物に案内しました。雑貨屋さんに入ったのですが、3人が一番興味を示したのはやはりポスト・カード。よっぽど好きなんですね~。そして歩きながらシャルルとまたギターの話で盛り上がりました。スライド・ギターやブルースの話。私がブルースは難しいという話をすると、彼は笑いながらそんなことはないと言っていました。「イージー」だと。そして「ディフィカルト」は日本語で何て言うんだ?と聞くので、「むずかしい」だと答えたら、何やらメモってました。さらに「チューニング」は?と聞かれたのですが、ちょっと悩んだ末に「チューニングはチューニング」だと答えておきました。それ以外に答えようがないですよね?  一方、アルチュールは表参道でファッション雑誌を名乗る女性からモデルになってくれとスカウトされてました。もちろん断りましたけど、アルチュールは今のは何だ?って感じに不思議がってました。彼はルックスもスタイルも良いですからね~。

そして楽しいランデヴーも終わりが近づくと、サプライズなプレゼントがありました。原宿/表参道を案内してくれたお礼に、その日の夜の「LAFORET SOUND MUSEUM 2009」のモリアーティのライヴへ招待してくれると言うのです。これにはびっくりしました。せっかくなのでお言葉に甘えてライヴを観させて頂きました。もちろん最高でした。お茶目なシャルルは、曲間にギターのチューニングをしながらマイクに向かって日本語で「チューニング、むずかしい」と言って笑いを取ってました。私との会話が役に立って、ちょっと嬉しかったです!

そしてコンサート終了後に招待して頂いたお礼として、メンバーにちょっとしたプレゼントを渡し、夢のような一日が終わりました。今までにいくつものサイン会等に参加し、その都度「サンキュー」しか言えなかった私でしたが、この日は、信じられない程しゃべりました。どれだけ会話が成立していたのかは疑わしいですが、私にとっては、大変貴重な体験になりました。アーティストの皆様、主催のプランクトンの皆様、そして私を助けて頂いた参加者の皆様、本当にありがとうございました!

「LAFORET SOUND MUSEUM 2009」の模様につきましてはまた次回。




ランデヴーで頂いた古いポストカードとモリアーティのステッカー。