<そんで、言ってみれば前近代のアナーキズムを体現しているチビッ子ギャングみたいなもんなんだけど、ところがそれがね、生産性を発揮しちゃうってのは、小学校の夏休みてのは、地区でなんとかしてなくちゃいけないっていう地区の教育みたいのあるでしょ。地域教育みたいなの。だから毎日朝起きて掃除しましょうって。横丁の掃除しましょうって、毎日ラジオ体操やって掃除するっていう風に俺等六年生が率先してね、やってんだよね。そんで俺、掃除しろって言われるとやってる方だから。太田さんのミッちゃんてのも掃除しろっていうと、自分の出番が来てるから、なんか張り切っちゃって、目ェ吊り上げて掃除してるって変なことになって、近藤さんのイサムちゃんだって、本当は掃除なんて全然嫌いな子なんだけどね、みんなやってるからやってるっていうのがあるからね。だから夏休みがね、とことん、なんか、突然規則正しくなっちゃうの。誰に言われたわけじゃないけど――誰かに言われたかもしれないけどね、毎朝六時くらいにラジオ体操して、それが終わるとね、掃除してね、打ち水してね、「じゃあね」って言ってご飯食べに帰ってくって、なんであんなに規則正しくしてたんだろって思うんだけど。
そういう子供達がさ、朝ご飯終わって、そんで、勉強もしたんだかなんだか分かんないけど、ポツッポツッと、昼過ぎんなると原っぱに現れて、突然、全くそういう建設的な行為とは無関係なドタバタやったっていう風になるんだけど、そのドタバタやってく中でやっぱし人間関係って作っちゃうのね。小さい子はかばってやんなきゃとかね。小さい子でも、「やっぱし、ここんとこで跳ばないと強くなれないよ」って、なんか無理矢理跳ばしちゃうとかね。>
<で、それが一方では学校なんですよ。夏休み終わっても学校へ行けば、そういう世界が待ってるわけ。だから別に、その原っぱがなくなったって、寂しがる理由はないのね。でもね、でも違うんだよっていうのはね、原っぱっていうのは序列がないんだよね。でも学校って序列があるんだよね。>
<たとえば『練監ブルース』が歌えてさ、「おー、オサン」って――俺のこと「オサム」って言わないで「オサン」て言うんだけど、のれば平気でバシバシぶってしまうっていう乱暴なイサムちゃんだって、やっぱしその子なりに取り柄はあるんだけど、学校へ行くと、単に成績が悪い子に変わっちゃうんだよね。太田さんのミッちゃんだって学校へ行ってしまうと、なんかやっぱし、普通の家の子よりもちょっと貧乏な子でっていう風に変わっちゃうのね。トウジンバラのテッちゃんなんて、サブリーダーって感じでわりと張り切ってた子なんだけど、学校行ったら下級生なんだよ。だから学校行ったって、昨日の原っぱの友達に次の日新学期で会うと、もうみんな「学校に捕まった」って顔してんの。原っぱの顔じゃないんだよね、全然。>
(橋本治「ぼくたちの近代史」主婦の友社1988)
ぼくたちの近代史
<本書は、橋本治スーパー6時間講演会「ぼくたちの近代史」(於:池袋コミュニティ・カレッジ,1987年11月15日)の内容に補筆したものです。鬼才橋本治が語り尽くした「近代の検証と行方」の感動の書。>
登録情報
単行本:218ページ
出版社:主婦の友社 (1988/09)
ISBN-10:4079275471
ISBN-13:978-4079275477
発売日:1988/09
商品の寸法:19x13.2x1.6cm
そういう子供達がさ、朝ご飯終わって、そんで、勉強もしたんだかなんだか分かんないけど、ポツッポツッと、昼過ぎんなると原っぱに現れて、突然、全くそういう建設的な行為とは無関係なドタバタやったっていう風になるんだけど、そのドタバタやってく中でやっぱし人間関係って作っちゃうのね。小さい子はかばってやんなきゃとかね。小さい子でも、「やっぱし、ここんとこで跳ばないと強くなれないよ」って、なんか無理矢理跳ばしちゃうとかね。>
<で、それが一方では学校なんですよ。夏休み終わっても学校へ行けば、そういう世界が待ってるわけ。だから別に、その原っぱがなくなったって、寂しがる理由はないのね。でもね、でも違うんだよっていうのはね、原っぱっていうのは序列がないんだよね。でも学校って序列があるんだよね。>
<たとえば『練監ブルース』が歌えてさ、「おー、オサン」って――俺のこと「オサム」って言わないで「オサン」て言うんだけど、のれば平気でバシバシぶってしまうっていう乱暴なイサムちゃんだって、やっぱしその子なりに取り柄はあるんだけど、学校へ行くと、単に成績が悪い子に変わっちゃうんだよね。太田さんのミッちゃんだって学校へ行ってしまうと、なんかやっぱし、普通の家の子よりもちょっと貧乏な子でっていう風に変わっちゃうのね。トウジンバラのテッちゃんなんて、サブリーダーって感じでわりと張り切ってた子なんだけど、学校行ったら下級生なんだよ。だから学校行ったって、昨日の原っぱの友達に次の日新学期で会うと、もうみんな「学校に捕まった」って顔してんの。原っぱの顔じゃないんだよね、全然。>
(橋本治「ぼくたちの近代史」主婦の友社1988)
ぼくたちの近代史
<本書は、橋本治スーパー6時間講演会「ぼくたちの近代史」(於:池袋コミュニティ・カレッジ,1987年11月15日)の内容に補筆したものです。鬼才橋本治が語り尽くした「近代の検証と行方」の感動の書。>
登録情報
単行本:218ページ
出版社:主婦の友社 (1988/09)
ISBN-10:4079275471
ISBN-13:978-4079275477
発売日:1988/09
商品の寸法:19x13.2x1.6cm