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父の夢を見た。いつも同じ夢だ。冬の街を歩いていると、黒っぽい雑踏の中に、やけの薄着の白シャツの父がいて、私が追いかけても追いかけても追いつけない。父が亡くなったのは私が大学生の時である。悲しみに暮れる母を見ながら、これからどうやってご飯を食べていけばいいんだろう、悲しんでる暇ないよ、と呟いた。一生父のすねを齧って生きて行けると信じていた。当時姉は学校教師、母は公務員、二人とも立派な仕事を持っていた。私は演劇をやりつつのバイト学生。地道な生き方をして手に職を付けなさい、とアドバイスしてくれた高校の先生が正しかった、と初めて思った瞬間であった。それから時は流れ、人生楽ありゃ苦もあるさ。二度目の離婚をする時、色々悩んだが、自分は独りぼっちになってもいい。立派な仕事と収入のある頼りの父親が突然いなくなる恐怖だけは娘達に味わわせたく無い、と思った。離婚に正解は無い。その人の生き方が如実に現れるのは確かだ。更に時は流れ、母も姉も私も更に色々あったが、全員ご飯を食べている。やりがいのある仕事があり、好きな人達と居る。辛い時も楽しい時も、あっという間に過ぎた。雪や月や花を愛で、鳥の歌を聞いていれば、終わりの無い苦しみも楽しみも無い、と言う真実が胸に沁み入って来る。