Toshiが行く

日記や趣味、エッセイなどで描く日々

神々の業

2021年03月07日 17時00分00秒 | 思い出の記
       妻は朝の6時に出かけて行った。
       写真同好会の仲間と阿蘇方面に行くのだという。
       「大観峰にも寄ってみようと思うのだけど、天気はどうかしら」
       予報はあまり良くない。「午前中曇り、午後から雨」となっている。
       大観峰と言えば、やはり雲海の景観だろう。
       だが、この天気予報では無理かもしれない。
       そう言えば、ブログを始めたちょうど1年前、
       阿蘇の雲海のことを書いていた。
       お許しいただいて、再掲してみようと思う。


      阿蘇方面の日の出は6時6分だった。
      昨日は夕方から夜にかけパラパラと降り、
      今日は晴天との予報だ。
      雲海が誘いかける。
      写真撮影を趣味にする妻はその雲海が目当てなのだ。
      こちらはもっぱら〝アッシー君〟を務める。
      それで前夜は道の駅で車中泊をして、待ち構えていたのである。

          

      大観峰に着いたのは日の出少し前だったが、
      阿蘇中岳を目の前に阿蘇谷はすでに薄明るい。
      予想通り、阿蘇谷をすっぽり包み込むような雲海だった。
      たくさんの写真愛好家が三脚を構え、これを狙っている。
      それでも妻はここには満足できないらしい。
      「場所を変えたい」と言い出す。
      「今度はどちらへ」タクシーの運転手のように慇懃に、
      それでいて少々くだけた口調で尋ねる。
      「押戸石の丘へ。急いで。陽が昇ってしまう」との指示である。
      212号線を小国方面へ急ぐ。
      途中、左へ折れ細い山道を4㌔ほど、
      対向車が来ないことを願いながら進む。

          
      
      『押戸石の丘』は小高い丘に巨石が人工的に配置され、
      それらの石には太陽神、豊穣の神、大地の男神・女神などが
      シュメール文字で刻み込まれた
      古代宗教色の強い環状列石遺構である。
      360度ぐるりと見渡せば、北に九重連山、南に阿蘇五岳、
      東は高千穂、西に菊池方面を遠望する。
      自然の雄大さに言葉はない。
      

      
      雲海は九住方面から阿蘇方面へ漂うように覆っている。
      やがて、久住山と阿蘇山のちょうど真ん中、
      遠く高千穂辺りの空が色づき始める。じっと待つ。
      だが、朝陽は薄雲に阻まれ、淡いオレンジにピンクをすーっと
      刷いたような色合いで、あの燃え立つような
      光を放てないでいる。
      「薄雲よ、少しの間そこをどいてくれたまえ、どうか」
      ――朝陽の輝きに映えぬ雲海が恨めし気に言う。
      巨石の神々は時に意地悪だ。

      妻はどうやら撮影を終えた。さあ、さあ朝食としよう。
      車にはガスコンロ、湯沸用の鍋、それに水……
      一通り揃っている。
      コーヒーを沸かす。ベンチはあるが座らない。
      立ったまま、この悠然たる大自然を眺めながら
      コーヒーを飲み、パンをかじる。
      「生きている!」――神々はこの贅沢を許す。


どうぞ ご繁盛に

2021年03月06日 16時55分40秒 | まち歩き
     勤務先の近くにラーメン店が新規オープンした。
     店先にはいくつもの花輪が立ち、客が店の外まで並んでいる。
     それほどの多店舗ではないが、広域にチェーン展開している、
     ちょっと名の知れた店らしい。

     だが、他人事ながら少し心配だ。
     知る限りこの1年ほどで、この店は3度目の新規開店になる。
     要するに、新規オープンしたものの何カ月後にはもう閉店し、
     次にまた別の店が開店する。
     そんなことを繰り返しているのだ。



     最初の店には、行きつけというほどではないが
     月に2、3度は行った。
     カウンター席10席ほどが並ぶ、小ぢんまりとした店だったが、
     通ううちに「大丈夫なのだろうか」心配になってきた。
     昼時になっても客の入りが芳しくないのだ。
     BGMに、ラーメン店には不似合いと思えるジャズを流している。
     『儲かる音楽 損する音楽~
     人気ラーメン店のBGМは何でジャズ?』
     そんなタイトルをつけた新書本が出たことがあり、
     実際にBGMをジャズにしたら、
     客が増えたという店が東京にあるらしい。
     この本を読んでのことか、
     この店でもジャズが流されるようになったのだ。
     テボを振っている兄さんに「好きなの? ジャズ」と聞くと、
     含み笑いしながら「ええ、まあ」と一言だけだったが、
     それほど日を置かずドアに『○日をもって閉店いたしました』と
     B4ぐらいの白紙が貼られてしまった。

           
     
     次は全国展開している、ラーメン通には知られた店で、
     多少の手は入っていたが、ほぼ居抜きでの開店だった。
     開店当初は満席に近い状態だったが、
     不運だったのはコロナの感染拡大に直撃されたことだ。
     見る間に客足は遠のき、昨年末閉店に追い込まれてしまった。
     営業出来たのは、半年ほどだっただろう。

     そして、今度の店だ。
     福岡市内を東西に貫く幹線道路の一つ、
     国体道路沿いにあるから立地場所としては
     悪くはないと思うのだが、
     商売にはずぶの素人が気を揉んでもしようがあるまい。

        ただ、ただ繁盛を願うばかりだ。


小銭が貯まらない

2021年03月05日 16時15分19秒 | エッセイ

     昼は「手仕込みトンカツカレー」にした。
     964円。「おっと、しまった」上着の内ポケットに財布がない。
     カードは財布の中だ。
     そうだ。財布は手提げバッグに入れた。
     そのバッグは会社に置いてきたのだった。
     会社はすぐ近くだから、訳を言って取りに戻ろうかと思いつつ、
     ズボンのポケットに500円玉2枚と、
     100円玉数枚を入れていたのを思い出した。
     
     500円玉2枚の現金払いとなった。
     釣銭は10円玉3枚、5円玉、1円玉がそれぞれ1枚。
     これら小銭を手にするのは、久方ぶりだ。
     何せ、物を買うにも、何かを食べるにもカードで
     払うようにしているから、
     釣銭が戻ってくるはずがない。



     カードでの支払いに変えたのは、昨年中頃だったか。
     スマホ決済とは、まだいかない。
     何せ、まだスマホを持っていないのだから……。
     その前段階とも言うべきバスにも使える交通系カードだ。
     確かに、いちいち現金を出し、釣銭をもらうという手間は省ける。
     読み取り機をピッと言わせればそれで済む。

     それはそれで結構な話なのだが、
     孫たちの楽しみが一つなくなってしまった。
     実は、釣銭として戻ってきた10円、5円、1円といった
     小銭は箱の中に入れて貯め、孫たちの
     小遣い銭になっていたのだ。
     〝塵も積もれば〟の通り、
     これら小銭が数千円、時に1万円近くにまでなったこともある。
     結構な小遣いになったはずで、たまに遊びに来る我が家での
     楽しみの一つになっていた。

         

     だが、小銭が貯まらなくなった。
     現金払いすると、釣銭は10円、5円、1円玉で
     返ってくることが多いが、
     カードで支払うと、言うまでもなく釣銭をもらうことはない。
     当然小銭が貯まらないという理屈だ。
     残念ながら、孫たちの〝小銭小遣い〟も消えてしまった。

     いろいろと便利になるのは結構なことだが、どこか面白くない。


なごみ

2021年03月04日 06時00分00秒 | 日記

      3月3日 桃の節句。雛祭りの日は快晴だった。
      福岡市からちょっと下って、柳川、久留米方面へ。
      こちらへは、あまり出かけることがない。
      思い立ったように、9時半にエンジンキーを捻った。


まずは柳川へ。
なぜ、ここかと言えば、福岡県側から有明海を見てみたかったからだ。
佐賀県の鹿島や多良、それに白石には何度も行き、有明海に触れた。
なのに、福岡県人であるのにこちら側からの有明海を見たことがない。
途中、「柳川むつごろうランド」という標識を見つけ、そこを目指した。
ここは、研修・宿泊施設を備え、キャンプもできるようだ。
また、有明海や干拓地を活用したいろんな体験ができる拠点ともなっている。


      近くの堤防から有明海を眺めた。
      ちょうど満潮時。沖合いの海苔ひびへ船が行き来する。
      好きだな この海。福岡、佐賀どちら側からでもよい。
      しばらく佇み、さざ波のきらめきに心を同化させる。


    柳川に来たからには、やはり「うなぎ」料理だ。
    しかも、ぴったり昼時。
    名の知れた店は、外まで客の列が出来ている。
    「せいろむし」を注文した。
                         
                                   箸置きは折り紙のお雛様。


    近くには柳川藩主立花邸「御花」がある。
    本館が西洋館(写真)で、隣接して料亭旅館「松濤館」、
    その庭園「松濤園」がある。


    名物「川下り」もこの近くから出ている。
    コロナのせいか、ポツリ、ポツリ。少々寂しい。

    
    帰路、久留米つばき園に寄った。
    耳納北麓の約3㌶の敷地に
    約500品種・2000本のつばき類が植栽されている。

    

淑やかに、華やかに……色も形もとりどり。      
                                      

           自然はやはり心和ませてくれる。今日もまた良き日だった。


ピアス

2021年03月01日 10時37分56秒 | エッセイ

        
   
     どんな言葉を贈ればよいか、すぐには思い浮かばない。
     3月1日─今日は卒業式。孫娘は3年間の高校生活を終え、
     新たな世界に旅立った。
     空いっぱいの春の陽が孫娘をぐいと抱きしめ、
     物言わず祝ってくれている。
     僕は「おめでとう」の一言だけを贈る。
     もう少し、気の利いた言葉が出てこないものか。
     本当に不器用な──。心の中で苦笑いする。

2月に18歳になったばかり。
胸にティファニーのハート型のネックレスが揺れている。
その誕生祝いとしてプレゼントしたものだ。
「ありがとう」嬉しさの笑顔をこちらに向ける。
そばにいる母、つまり僕の二女も同じように「ありがとう」と添える。

             

     「ものすごく痛いぞ」そう脅せば、
     「本当なの?」と母親に尋ねている。
     「そんなことはないわよ。ただ、穴を開ける時、
     バーンという大きな音がしたわね」
     何のことかと言えば、孫娘がピアスをするのだそうだ。
     卒業式を終えたら、美容室かどこかへ
     まっしぐらに向かうという。

「高校を出たばかりの18歳の小娘がけしからん。そんなこと許さん!」
昔だったら、そう言ったに違いない。
実際、2人の娘はピアスなんてことはもちろん、
娘たちにすればうんざりするほど門限を厳しくした。
30年も前の話だ。
今、母親となった二女は、高校を卒業したばかりの自分の娘が
ピアスをすることに何の抵抗感も見せない。
もう時代が違う。

              

「ものすごく痛いぞ」笑いながら脅してみせた、
この一言が孫娘へ贈った祝いの言葉だった。
4月からは大学生。選挙権を持つ、もう大人なのだ。