俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

援助交際

2010-01-12 16:25:53 | Weblog
 最近、援助交際に関するニュースを余り見聞きしなくなった。一時期と比べれば随分減っているとそうだ。
 なぜ減ったのか。中高生に尋ねると「カッコ悪いから」という答えが多いらしい。
 私は援助交際は難問だと思っていた。「他人に迷惑をかける訳ではない(相手には喜ばれる)」「手軽に大金が手に入る」「自分の体をどう使おうと本人の勝手だ」などの理屈に一々納得し、厳罰化する以外にこの問題を解決する方法は無いのではないかと考えていた。
 ところが意外な解決策があった。「みんな」がカッコ悪いと認めるだけで問題は解決された。何と偉大なる「恥の文化」だろうか!
 行動の基準は善悪や損得ではなかった。周囲の人間がそれをどう評価するかということだった。芸能やスポーツのように周囲が「カッコ良い」と認めるならそれは好ましい行動で、「カッコ悪い」ことは慎むべき行動とされる。
 絶対価値を持たない日本人は必然的に相対価値の世界に生きねばならないが、こんな「周囲の評価」主義は危険だ。援助交際に関してはたまたま(私にとって)好ましい方向に向かったが、周囲の評価はたった1つの事件をきっかけにしてある日突然劇的に変わることもある。周囲の評価を信じて2階に上がって梯子を外されたら余りにも悲惨だ。

高福祉・高負担

2010-01-12 16:08:05 | Weblog
 福祉を充実させたいなら増税をせねばならない。これは当たり前のことだ。
 福祉の充実した北欧諸国では、日本人なら目を剥くほど税率が高い。直接税は約50%、消費税は約25%だ。豊富な税収があるから福祉を充実させることができる。
 小泉内閣は低福祉・低負担を目指した。「官から民へ」の言葉に代表されるようにアメリカ型の小さな政府を目標とした。麻生内閣は中福祉・中負担をスローガンとした。
 鳩山内閣は高福祉・低負担を理想とするようだ。しかしこれはあり得ない。絵に描いた餅だ。高福祉のためには国民に高負担を求めねばならない。そうしなければ国債ばかり膨れ上がって後の世代にツケを回すことになる。
 せっかく福祉の充実ということに国民的な合意ができつつあるのだから、そのために必要な影の部分も明らかにして具体策を練る必要がある。
 良薬は口に苦い。八方美人的な態度で先送りを繰り返していても問題は解決されない。良薬どころかメスを入れるぐらいの覚悟で痛みを伴う改革を立案してその是非を問うべきだろう。
 国民福祉税を突然発表して失速した細川内閣の事例が政治家のトラウマになっているのだろうか。あれは余りにも唐突だった。サプライズを通り越して唖然とした。しかしその後の長い不況の中で、福祉に対する国民の意識も大きく変わっている。
 官副総理兼財務相の「逆立ちしても無駄が出ないとなったときに、これ以上福祉をやらないのか」という10日の発言に、マニフェストに背くという批判の声もあるが、避けて通れない重要な問題だ。悪しきポピュリズムに頼っていてはこの国を改革することはできない。

マナーによる秩序(2)

2010-01-12 15:49:02 | Weblog
 「西洋は罪の文化だが、日本は恥の文化だ」とルース・ベネディクトは指摘したが、絶対者を持たない日本人は「世間」を価値の基準としている。周囲の評価こそ行動規範であり「後ろ指を指されない」ために行動を慎む。
 こんな日本ではルールによる規制は余り重要ではなかった。ルールよりずっと厳しいマナーがあり、各人がそれを守れば心優しく快適な社会生活が約束されていた。
 しかし日本人のマナーを支えた共有価値が幻想となることによってマナーによる秩序は期待できなくなった。
 子供なら、弱い者をいじめたり成績の自慢をしたりすることなどは周囲の顰蹙を買った。悪いことだからではなく、軽蔑される行為だからそんなことを殆どの子供が忌み嫌った。
 大人なら、金持ちであることを自慢したり公共の場で騒ぐことなどは軽蔑を招くので自粛された。
 しかし世間の合意が無くなるとこういう行動基準は成り立たなくなる。各人が好き勝手に振舞うことになる。「何が悪い」という開き直りに対して反論することは困難だ。共有価値の崩壊は行儀の悪い者の横暴を招く。電車やエレベーターの中で騒いでも法律違反ではないのだから誰も規制できない。
 「恥」の意識がバラバラになってしまった現代の日本人にマナーによる秩序を期待すべきではない。シンガポールのようなルールによる秩序を目指さざるを得ない。価値観を共有してそれに背くことを恥ずかしいと感じることが無くなった現代の日本人にマナーによる秩序の復活を期待することは「無いものねだり」でしかない。
 「品格」という言葉を振りかざして自己満足に浸っていても問題は解決されない。