越川芳明のカフェ・ノマド Cafe Nomad, Yoshiaki Koshikawa

世界と日本のボーダー文化

The Border Culture of the World and Japan

書評 中村文則『王国』(9)

2012年02月23日 | 書評

 アポリネールの「月の王」では、

 語り手の「私」は狂王ルートヴィヒと一緒に、

 「夜明けを迎えた日本のさわやかな雰囲気」を呼びさます音を聞く。

 一方、『王国』の語り手の「わたし」は、

 狂気の木崎から過去の自分を消されて、夜明けと共に日本の地を離れる。

 「捨てられるというのは、自由と同じ意味だ」とつぶやきながら。

 フォークナーのヨクナパトーファ・サーガ(連作)のように、

 ゆるやかにつながる物語群を予想させる見事なオープン・エンディングだ。(了)

(『新潮』2012年1月号より)


コメント (1)
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