市民運動からは、デジタル課税の対象企業をさらに拡大することを求め、15%の最低税率を引き上げるべきだとする立場から、OECDの案を批判する声があがっています。

2023-07-20 12:45:27 | これからの日本、外国人の目

 

デジタル課税

税逃れ許さぬ実効ある制度に

 多国籍企業に対する国際的な課税を検討してきた経済協力開発機構(OECD)が、「デジタル課税」の多国間条約の署名式を年内に開催し、2025年に発効させると発表しました。法人税の最低税率制度と合わせて、国境を越えた事業でもうけた利益の税逃れを防ぐ仕組みです。138の国・地域が加わります。予定されていた24年発効から遅れますが、条文の大枠がまとまったことは重要です。実効ある制度にしていく必要があります。

現行ルールの遅れを改革

 グーグル、メタ(フェイスブック)など海外に事業拠点を持たず、インターネットを通じて世界で物やサービスを販売し、巨額の利益をあげる巨大IT企業が増えています。

 現行の法人税制では、支店や工場などの「恒久的施設」を持つ企業が課税の対象です。多国籍企業が事業所を置かない国は、国内市場を提供するばかりで、税を徴収できません。大企業の活動が地球規模で飛躍的に広がったことに対して税制が立ち遅れた結果です。経済規模が小さく、税収が不足しがちな途上国は特に深刻です。

 あまりに不公正だとしてフランス、英国などは、米国のIT大企業を想定した独自のデジタル税を導入しました。当時の米トランプ政権が反発して報復関税の脅しをかける争いも起きていました。

 こうした事態を受けて、国際社会でルールを確立することが急務とされ、OECDを中心に、加盟国以外も広く加わって協議が重ねられてきました。

 OECDによると、新しい条約案では、事業拠点なしにあげた利益も課税され、企業が各国であげた売り上げに応じて、各国政府が税を徴収できるようにします。

 対象となるのは、世界売上高200億ユーロ(約3兆円)超、利益率10%超のグローバル企業です。世界で100社ほどとみられます。

 もう一つの柱である法人税の最低税率については15%とすることで21年に合意しています。

 極端に税率の低い国や無税の国に子会社を置いて利益を移し、税逃れを図っても、親会社のある国が15%との差額の税を徴収します。タックスヘイブン(租税回避地)を利用した税逃れを阻止する効果が期待されます。

 国際課税のルールづくりは、不公平税制の是正やタックスヘイブン対策を求めてきた各国市民の運動によって推し進められてきました。

 日本政府は当初、消極的な姿勢でしたが、世論に押されて推進の立場でOECDの協議に参加しています。

今後も重要な世論と運動

 市民運動からは、デジタル課税の対象企業をさらに拡大することを求め、15%の最低税率を引き上げるべきだとする立場から、OECDの案を批判する声があがっています。

 今後、問題となりそうなのが、多くの多国籍企業が本社を置く米国の動向です。条約の批准には上院の3分の2以上の賛成が必要です。与党、民主党がかろうじて多数とはいえ、デジタル課税に反対している共和党と議席は拮抗(きっこう)しています。OECDの発表では発効要件が定められていませんが、米国の批准が重要とみられます。

 世論と運動を強めていくことが今後も欠かせません。


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