手に負えない「2つの戦争」への出師表…
「米国の夢」は悪夢となるか
米下院の戦略態勢委員会報告書
米国、冷戦時代に及ばない地位にもかかわらず
中ロと同時に戦争できる軍事力を強調
委員会で民主党と共和党が超党的合意
「バイデン政権より好戦的」との批判も
「両国(中国とロシア)が米国に匹敵する核兵器を保有する世界が目の前にあり、この核国家たちと紛争の危険性が増している。しかし、これに対する備えはできていない。直ちに行動に入らなければならない」
米下院の戦略態勢委員会の報告書の核となる部分を要約した内容だ。「存在論的挑戦」に直面しているとし、「2つの戦争(二正面作戦)」の深刻さを強調している。米国は1990年代にも2つの戦争を掲げたが、今でも2つの戦争を指している。しかし、その内容は天と地ほども違う。米国が追求する軍事力も同じくらい大きな違いがある。ロシアや中国との同時戦争に備えなければならないというビジョンを発売した同報告書は、過去に危機を警告し米国の軍事化を加速化させた「現存する危険に関する委員会」(ソ連との対決政策を煽った民間のロビー組織)の最新バージョンになるだろうか。
米国の国防予算の根拠になる報告書
米国は冷戦の直後、2つの戦争戦略を採択した。1990年代、イラクと北朝鮮のような「ならず者国家」二国と戦争をして勝利を収める能力を追求すべきということだった。ならず者国家のうち一つを先に抑えてから、二つ目を退けるのか、同時に戦って勝利を収めるかをめぐる違いはあったが、当時の2つの戦争は、核兵器を保有していない中堅国家との戦争を想定したものだった。当時、ソ連は崩壊してもはや脅威ではなく、中国は米国の相手にならない時代だった。ジョージ. H. W.ブッシュ政権はならず者国家との2つの戦争で同時に勝利する能力が必要だという国家戦略を掲げ、米国の軍事力を冷戦の水準で維持した。
このように、ならず者国家たちと戦っていた米国が、今やロシアと中国を同時に制圧できる能力を追求している。ここ数年の間、中国を最大の脅威とみなしてきた米国が、ウクライナ戦争を機にロシアの脅威も再び強調している。両国が協働する、あるいは独自的に米国の利益を脅かす可能性を全面に掲げ、これらの両国と同時に戦争を遂行して勝てる軍事力が必要だと主張している。米下院戦略態勢委員会が先月発表した「戦略体制評価の最終報告書」は、このような見通しを公にしたものだ。「米国は武力で国際情勢を変化させようとする野望を持った2つの核保有敵国に直面している」とし、「新しいグローバル環境は、冷戦の最も暗鬱だった時代の経験とも根本的に違う」と宣言した。
当然「冷戦の最も暗鬱だった時代」よりもっと強力な軍事力が求められる。戦略態勢委員会は「従前のプログラムを凌駕する軍事力」を求めた。大陸間弾道ミサイル、戦略爆撃機、戦略潜水艦はもちろん、核弾頭の生産も増やすなど、「米国の戦略体制の量的および質的調整」が必要だと主張する。それだけでなく、戦術核武力も強化しなければならないため、欧州に配備された戦術核兵器を強化するとともに、インド太平洋には戦術核兵器の再配備を始めるべきだと提案した。また、先制打撃の生存性とミサイル防衛システムの突破能力などを強化した兵器体系を開発し、配備する必要があるとも主張した。戦略体制委員会の報告書は2027~2035年を見据えたものだが、こうした措置は急がれるため、今からでも軍事力と軍事力の基盤を強化しなければならないと促している。
もちろん、議会の報告書であるため、政府の公式の政策ではない。戦略態勢委員会の外部でも意見が分かれている。上院も同委員会に全面的に同意しているわけではない。しかし、少なくとも委員会内部では、共和党と民主党両党の議員がこのような戦略体制の評価で一致している。そしてこの戦略態勢委員会は任意機構ではなく、昨年、国防権限法によって設置された議会傘下の超党的機関であり、米国の長期的な戦略の態勢を点検して代案を提示することを目的としている。同報告書は、米国の国防予算審議の根拠になり、国防部はこの報告書を綿密に検討し、国防計画を作成して予算案を作るだろう。さらに重要なのは、米国政治の深刻な二極化にもかかわらず、戦略態勢委員会委員の満場一致でこのような報告書が発表されたという事実だ。
揺れる米国の覇権
戦略態勢委員会は、北朝鮮がミサイル発射実験を実施し、核開発に没頭することが米国とアジアの同盟国の安全保障に否定的な影響を及ぼしていると評価した。また、「米国の地上配備ミサイル防衛システムに潜在的挑戦となるのに十分な数の核弾頭を装着した大陸間弾道ミサイルの配備に向かっている」として、危機感を示した。同委員会は「完全かつ検証可能で不可逆的な核武装の解除」というすでに失敗した目標への支持を表明し、これに向けた「過渡的な廃棄措置」の機会があれば、米国の同盟らとともに不拡散を考慮しつつ進めていくべきだと提案した。しかし、「懐メロ(古い戦略)」に執着しているわけではない。むしろ「米国をはじめ、同盟国の通常戦力の規模や類型、戦闘態勢で、さらに強化された戦略が必要な状況」だとし、「そうした対策を立てられなかった場合、米国は核兵器に対する依存度を高めざるを得ないだろう」と主張している。
専門家らはこのような内容がジョー・バイデン政権の「核態勢の見直し」よりさらに好戦的だとし、直ちに懸念を表明した。米国の科学者連盟は、議会の報告書というよりは「軍需会社の報告書」のようなこの報告書の内容が実行されれば、ロシアや中国との軍拡競争を加速化させ、軍備統制の見通しを暗くさせると指摘した。「フォーリン・アフェアーズ」は、核兵器を増やさなくてもロシアと中国を抑止できるという分析を掲載した。
最大の問題は、米国がこのような軍備拡張に耐えられるかにある。戦略態勢報告書は、具体的な予算問題については触れていない。さらに、軍事同盟の重要性を認め、同盟を強化し拡大する必要性を指摘している。「このような同盟ネットワークは、地域での攻勢が米国本土に到着する前に抑止し、米国の安全保障を強化するだけでなく、世界市場への接近を通じて米国経済の繁栄を可能にする」ためだという。
しかし、世界は、米国がすでに冷戦時代の大国ではないことに気づいている。米軍を世界に配置し、同盟国に経済的・軍事的支援を惜しまず、自国の市場を開放した大国はすでに存在しない。今の米国は、ウクライナの背中を押してロシアと戦うよう促し、同盟国にウクライナをさらに支援するよう求めるような国だ。中東でイスラエルを全面的に支援しているが、イスラエルがハマスとの戦闘で勝利した瞬間、イスラエルは戦争の敗北という毒杯を仰ぐことになるだろう。それと共に中東で享受していた米国の影響力も蜃気楼のように消える運命にある。戦略態勢委員会は、唯一の大国という「米国の夢」を再び実現しようとしている。大韓民国にとって、それは夢になるだろうか、それとも悪夢になるだろうか。
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