ひさしぶりに、回転木馬のデッド・ヒートを読んだ。
これは短編小説というか、どちらかといえばノンフィクションにちかい。
人から聞いた話を元に書いた小説である。
その中にレーダーホーゼンという話がある。
妻の友人の母がドイツにいる妹をたずね、ドイツを旅行する。途中、父の土産にレーダーホーゼン(ドイツの半ズボン)を買いに行く。
その過程で、母は父と離婚することを決意する。そして、そのまま日本に帰って、父のみならず娘の自分をも捨てて姿を消してしまう。
どうも納得のいかない不思議な物語だけど、この話がすきだ。
三年後、親類の葬式で彼女は母と顔をあわせた。そのとき、どうして姿を消したのか理由を聞いてみた。そこで、このレーダーホーゼンの話をされたとのことだった。
この物語をいくら読んでも、彼女の母が離婚を決意した理由がよく分からなかった。いまもよくわからない。
物語の最後に村上氏と彼女が話ししているシーンがある、ちょっと抜き出してみる。
「それで、君はもうお母さんのことを憎んでいないの?」
「そうね、もう憎んではいないわ。決して親密なわけではないけれど、少なくとも憎んではいないと思うわ」と彼女は言った。
「それはその半ズボンの話を聞かされたから?」
「ええ、そうね。そうだと思うわ。その話を聞いたあとでは私は母のことを憎みつづけることができなくなったの。どうしてだかはうまく説明できないけれど、きっとそれは私たち二人が女だからだと思うの」
僕は頷いた。
「それでもしーもし、さっきの話から半ズボンの部分を抜きにして、一人の女性が旅先で自立を獲得するというだけの話だったとしたら、君はお母さんが君を捨てたことを許せただろうか?」
「駄目ね」と彼女は即座に答えた。「この話のポイントは半ズボンにあるのよ」
「僕もそう思う」と僕は言った。