ずいぶん前のことだけど、留学していた昆明の街角でルーズソックスを穿いた女の子を見かけた。もちろん、地元の中国人だ。だけど、穿き方が変だ。しわしわにして穿かないといけないのに、膝下あたりからぴんとまっすぐ伸ばしたまま穿いている。まるでブーツを履いているみたいだった。
「あれだけどさ」
僕はその女の子の足をこっそり指しながら、一緒に歩いていた地元の中国人の友人に言った。
「知ってるわよ。日本ではやっているんでしょ」
「だけどさ、穿き方が違ってるんだよ」
「どうして?」
「足首のちょっと上くらいにして、ゆるい感じでしわしわにしてはかないと可愛く見えないんだよ。もっと上から穿いてもいいけど、やっぱり、足首あたりでしわしわの部分を作らないとね。あれじゃ、普通の靴下と同じだろ」
「なんでしわしわにするの?」
「だから、それが可愛らしいんだよ」
「そんなしわしわにしたらみっともないじゃない。変な風に思われてしまうわよ」
「だからさ――」
と、話は平行線のまま終わってしまった。女性ならどう可愛いのかを説得する言葉を持っているのだろうけど、あいにく僕にはない。ファッション雑誌で見たことがあるだろうと言っても、「見たことはあるけど、やっぱり変よ」と返されておしまいだった。
たぶん、ルーズソックスをまっすぐ伸ばして穿いていた女の子も、しわしわにすると格好悪いと思ってそうしていたのだろう。まっすぐ伸ばしたのでは「ルーズ」じゃないんだけどなあ。
(2011年6月7日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第108話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/