元アシスタントのアニメちゃんに晩御飯をごちそうになった。
あんまり高いものを奢らせてはかわいそうなので、リーズナブルでおいしい飲茶店へ行くことにした。地元の人に人気の店で予約をしないとまず入れない。
久しぶりに会ったアニメちゃんはすこぶる元気そうだ。飲茶をしながらしばらくおたがに近況報告を交わした後、
「今の職場はどうだ?」
と訊いてみた。
「眠いですぅ」
アニメちゃんはアニメ声でのたまう。
なんでも昼の休憩時間が四十五分しかないので、昼寝する時間がないのだそうだ。ちなみに、中国人は昼寝する。僕の勤め先でも御飯を食べた後、ほとんどの中国人は机に突っ伏して眠る。僕も中国へきてから昼寝の習慣がついてしまった。
「昼寝できないから、午後はトイレの個室へ行って眠りますぅ」
「おいおい、せっかくいい会社へ入って高給取りになったんだから、がんばれよ。それにあの会社だったら厳しいだろうし、いろいろ仕事があってかなり忙しいだろ」
「わたしはまだ入って二か月だから仕事もよくわからなくて勉強中なんです。仕事しようにもわからないことだらけです。もう眠くてねむくて」
「そりゃそうかもしれないけどさ。仕事もないのにずっと席にいなかったら不審に思われるぞ」
「そうなんですぅ。日本人の部長さんがアニメちゃんは暇そうだから、手伝ってもらいたい仕事があるというんです。それで日本人の課長さんになんでもいいから自分で仕事を見つけて忙しくしていなさいと言われました」
「そうだろう。ぶらぶらしていたら、誰もやりたがらない面倒な仕事を押しつけられちゃうぞ。あとで困るのは自分だぞ」
「でもでもぉ、眠いものは眠いですぅ」
「だめだこりゃ」
彼女のゆるさは一生変わらないんだろうな。本人がしあわせならそれでいいんだけど、広東人はのんびりしているんだよなあ。
彼氏はまだできないらしい。
「誰か紹介しようか。どんな男がいいんだ」
僕が訊くと、
「イケメンで、背が高くて、痩せていて、魅力にあふれていて、やさしくて包容力がある人がいいです。お金はふつうでいいから、とにかく格好よくないと絶対にだめです」
と、アニメちゃんは夢見る少女みたいなことをいう。
「アニメの見すぎだよ。そんなやつどこにいるんだ。条件はひとつにしなさい」
「気品のある人!」
「気品ねえ」
僕は腕を組んだ。なかなかむつかしい注文だ。
「わたしのまわりにはそんな人はいません。わたしはヨーロッパへ行って気品のある人を探しますぅ」
「なんでヨーロッパなんだ!?」
そんなこんなで二時間ほど楽しく飲茶をしてわかれた。
ともかく元気そうでよかったよ。
(2013年10月15日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第261話として投稿しました。 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/