風になりたい

自作の小説とエッセイをアップしています。テーマは「個人」としてどう生きるか。純文学風の作品が好みです。

上海蟹の季節(連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』第337話)

2016年11月12日 06時45分45秒 | 連載エッセイ『ゆっくりゆうやけ』

 秋は上海蟹の季節。上海蟹は蒸して食べる。
 九月頃から雌は卵を持ち始め、十月くらいになると腹のなかは卵でいっぱいになる。蒸して柿色になった卵はおいしい。雄は十一月がいちばんいい。精巣のねっとりとした食感がたまらない。
 日本人は「上海蟹」と呼ぶけど、中国人は「大閘蟹(ダージャーシエ)」と呼ぶ。もちろん、大閘蟹にもいくつか品種があり、蘇州の陽澄湖で養殖したものがいちばんいいとされるそうだ。この蟹は足の毛が金色をしている。スーパーでは上等の蟹が一匹四〇元から五〇元くらい、普通のものだと一匹二〇元足らずで売っている。
 奥さんは上海の下町っ子なので、やはり蟹が好きだ。この季節になると週に二三回は夕食に蟹が出てくる。そのまま食べてもいいけど、肉を生姜酢につけて食べてもいい。生姜酢は、酢に砂糖を少々入れてかき混ぜ、千切りにした生姜を浸してつくる。
 大閘蟹をたくさん食べるとお腹が冷えて下痢をするので、紹興酒(黄酒)を飲んで体を温める。以前、地元で有名な上海蟹のレストランへ行った時、年代別の紹興酒がおちょこに五杯出てきた。二十年もの、十五年もの、十年もの、五年もの、三年ものと並んでいる。三年や五年はまだ味が若い。十年ものくらいのがちょうどいいまろやかさでおいしかった。二十年ものになるとなんだか枯れた味わいだった。
 秋は蟹三昧。お酒の好きな人は紹興酒三昧となる。 


(2015年11月2日発表)
 この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第337話として投稿しました。
 『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/

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