学生の頃はとにかく腹が減ってしかたなかった。
東京で一人暮らしをしていたのだけど、バイト代は次からつぎへと食費で消えてゆく。
うなぎの蒲焼は大好物だけど、そんなエンゲル係数の高い生活を送っていたのでは、なかなかうなぎの蒲焼は手が出ない。スーパーでうなぎの蒲焼をみかけても、限られたお金でとにかく量をみたさなくてはいけないから、ほかのものを買うしかない。
でも、ときどき、
「ああ、うなぎが食べたいなあ」
と、どうしても食べたくてしかたなくなってしまうときがある。うなぎの匂いが鼻孔をつつくようだ。スーパーの棚に並んだパック詰めのうなぎが僕に食べてくれとささやきかけるようだ。うなぎを見ているだけでつばがわいて、お腹が空く。
そんな時は、うなぎのたれを買って帰り、うなぎのたれ丼を作った。なんのことはない、どんぶり飯にうなぎのたれをかけただけのものである。
御飯にしみこませたうなぎのたれを味わいながらうなぎを食べた気分になる。どうせうなぎを食べるのだったら、スーパーのパック詰めではなくて、浜松駅で売っている駅弁のうなぎ弁当を食べたいなあなんて思ったりして。
いろんなことを想像しながらうなぎのたれ丼を食べた後は、ちょっぴり贅沢した気分になったのだった。
(2017年7月9日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第402話として投稿しました。
『ゆっくりゆうやけ』のアドレスは以下の通りです。もしよければ、ほかの話もご覧ください。
http://ncode.syosetu.com/n8686m/