広東省広州から成田空港行きの日系航空会社の飛行機に乗った時のことだった。
離陸前になって、いつものようにキャビンアテンダントが安全の模範演技を始めた。僕はそれをぼおっと眺めた。右側の通路は日本人のキャビンアテンダントで、左側の通路は中国人のキャビンアテンダントだった。
キャビンアテンダントは救命胴衣をつけ、筒に息を吹き込んで膨らませ、紐を引っ張って締める。日本人のキャビンアテンダントと中国人のキャビンアテンダントは同時に同じ動作をしているのだけど、所作が違った。日本人のキャビンアテンダントは紐を引っ張った後、指先までぴんと伸ばして綺麗に見せる。茶道や華道のお作法のような美しさだ。中国人のキャビンアテンダントのほうは、ごく普通というか、指先まではぴんと伸ばさずにだらりとさせていた。
救命胴衣がきちんとつけられればそれでいいわけだから、指先までぴんと伸ばす必要はない。指先をぴんと伸ばしたからといってそれで安全性が高まるわけでもないのだが、それでも日本人のキャビンアテンダントはできるかぎり綺麗に見せようと努力する。見ていて快い。航空会社が細かいところまでキャビンアテンダントを教育しているという証でもある。こんな細部(ディテール)へのこだわりが、日本の「おもてなし」といったものにつながるのだろう。
ちょっとしたしぐさから文化の違いが垣間見えた。
(2019年2月17日発表)
この原稿は「小説家なろう」サイトで連載中のエッセイ『ゆっくりゆうやけ』において第440話として投稿しました。
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