国境・・・8
町や村が近づくとオート力車や自転車が走っている。荷台に藁や家族を乗せてのんびりと牛車が歩いている。そこには昨日から今日、そして明日へ何も変らない人々の生活がある。道を歩いている人が手を上げるとバスは客を拾う、車内の客が合図をすればバス停など関係なく停まる。急ぎの客が文句を言おうが、ノープロブレムだ。バスは遅れているのかもしれない、だが確実にスノウリに近づいている。成るようにしかならない。幾ら考えても、どんなやり方をしても100パーセント安全な方法などはない。スノウリに着いたら町の通りを見てみよう、通り抜ける事が可能なら行く。危険だったらこのバスでゴラクプールへ戻る。明るいうちに一度だけでも通りを見ておけば夕方、通り抜ける時には役に立つだろう。町が近づいてバスはスピードを落とした。今まで何度か町に停まったがこんどは違う。客のざわめきとバスの通路に置いてあった荷物の整理が始まった。「スノウリか?」「そうだ」
そんなインド人の会話が聞える。町の通りに入ったバスは徐行を続けていたが、左側のバス停らしい広場に頭から突っ込んで停車した。スノウリ、スノウリ呼び込みはそう客に知らせて降車を促がした。降車口からの列が続いている、ぼくは割り込まないで列が短くなるまで待った。短くなった列の後尾に並んでいたぼくはのろ々とバスから降りた。眩しいような空だ。国境への通りに向かって歩こうとした時、バスの横に平行して停まっている力車を見た。力車から降りてハンドルを握っている車夫と、力車の客席の右側に座っているネパール人のボスだった。立ち止まって車夫が座るサドルに左手をかけ、前を向いたままぼくは一つ息を吐いた。
「パスポート、あるのか?」
「ない」
ボスとぼくの目が合った。ボスは顎を左へしゃくり
「乗れ」とぼくに言った。