夕方6時の施錠後、彼はいつものように左手の包帯を取り替えていた。ぼくは気になっていたが何となく聞けなかった。ある夜、彼が話をしてくれた。シーク教とヒンズー教の宗教的対立はぼくも知っていた。
シーク教徒はインド北西部に位置するパンジャブ州の分離独立を強く望んでいた。1984年、首相を警護する警察官の一人がインディラ・ガンジー首相を暗殺した。暗殺者はシーク教分離独立派のテロリストであった。
パキスタンとの国境にアムリッツアという都市がありそこにシーク教の総本山ゴールデン・テンプルがある。ガンジー首相暗殺に対するヒンズー教徒の報復はインド全土に広がりシーク教徒数千人が殺害されたといわれている。インド警察はシーク教の心臓部である美しきゴールデン・テンプルに銃を向け発砲した。その銃痕は今でも残っていると彼は言った。
ハルジュダム・シンはヒンズー教の警察官による取調べで激しい拷問を受けていた。左手の親指と人差し指の間を警棒のような物で打ち砕かれていた。アシアナに入所して約2ヶ月、傷は良くなっていたが2本の指は曲げることは出来ない。ハルジュダムはターバンを巻き直していた。いつもはライトブルーを着用することが多い。淡いエンジや鮮やかなオレンジそれに黒を使うこともある。それを使い分ける何か理由があるのだろうがぼくには分からない。
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