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【ネタバレ注意】映画「ファーザー」【実はサスペンススリラー】

2021-06-02 | TV/マーク・ゲイティス

●6月1日●

ついに映画「ファーザー」を劇場で見てきました。

日本公開は5月14日ですが、新型コロナウィルス感染拡大による緊急事態宣言の影響で、
私の近くの映画館で見るには6月まで待たなければなりませんでした。

OGPイメージ

映画『ファーザー』オフィシャルサイト

老いによる思い出の喪失と、親子の揺れる絆を描く かつてない映像体験で心を揺さぶる今年最高の感動作

映画『ファーザー』オフィシャルサイト

 

私が敬愛するマーク・ゲイティスの出演作として
"The Father"の製作について知ったのは2年前の2019年5月。
※日本公開までの流れは以下にまとめてあります。

OGPイメージ

映画「ファーザー」"The Father"関連ツイートまとめ

マークが出演しているアンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、オリヴィア・ウィリアムズ、イモージェン・プーツ、ルーファス・シーウェル主...

Togetter

 

名優アンソニー・ホプキンスと「女王陛下のお気に入り」の記憶も新しい
オリヴィア・コールマンの共演というのも心惹かれましたが、
原作者で本作の監督・脚本も担当している劇作家フローリアン・ゼレールの作品を
舞台で見たことがなかったので、その点についても楽しみにしていました。

 

一人暮らしをする父親アンソニー(アンソニー・ホプキンス)が介護士に暴言を吐きクビにしたという連絡を受けて
駆けつける娘のアン(オリヴィア・コールマン)。
アンは恋人とともにフランスに引っ越すため、
会いに来られない間の面倒を見てもらうための介護士を受け入れるよう父を説得するが、
アンソニーは腕時計を盗まれるのではないかと警戒して、なかなか聞き入れない。

翌日、訪問者の音に気付いたアンソニーがキッチンからリビングルームに様子を見に行くと、
見知らぬ男(マーク・ゲイティス)が椅子に座っている。
アンの夫のポールだと名乗る彼は、アンソニーの住むフラットに一緒に住んでいて、
アンがフランスには引っ越すことはないと言う。
娘は以前の夫とは離婚したはずだと困惑するアンソニー。
そこに、男が連絡をしたアンが帰宅するが、
それは娘とは全く別人の女性(オリヴィア・ウィリアムズ)で…

 

80代の認知症を患う父親と娘の話を知って、
高齢の父を持つ身としては、鑑賞したらしばらくは立ち直れないほどのダメージを受けるのではないかと、
見る前からずっと心配していましたが、意外にもそれほど痛手を受けずに見終えることができました。
父親の体験する混乱した世界に圧倒されて、娘の視点で見る余裕はあまりなかったように思います。

公開前からストーリーが記憶が曖昧になっている父親の視点で描かれていることは
テレビやラジオでの宣伝でも頻繁に紹介されていたので、
どういった構造の映画なのかはある程度予想出来ていました。
また公式ページのキャスト紹介欄を見て、
マーク・ゲイティスオリヴィア・ウィリアムズの正体も分かってしまったので、
(このあたりの設定は「ゴースト・ストーリーズ 英国幽霊奇談」も思い出しました。)
物語がどの方向に向かうのかも理解出来ていましたが、
それでも、別の人間が同じセリフを話したり、同じシーンが繰り返されたりと、
意識の混乱を表す描写が巧みで、完全に引き込まれました。
後で時系列を整理してシーンの配置を確認してみたいな…。

この作品でアカデミー賞主演男優賞を受賞したアンソニー・ホプキンスはいうまでもなく名演を披露していますが、
記憶を履き違えている父アンソニーに対して戸惑い、
それを隠して明るく振舞おうとする周囲の人たちを演じるキャスト全員が達者。
アンのパートナーのポール(本物)を演じるルーファス・シーウェルの、
アンソニーの態度を受け入れきれないが故の苛立ちや、
新しい介護士ローラとして登場するイモージェン・プーツ
アンソニーに暴言を吐かれても明るく接する健気さ。
どの演技も受け止めるしかない混乱した存在の老人を前にした人たちの反応として真実味があり、
父の目線で見ている観客として切なく滲んで見えます。
アンソニーも彼らの不安げな表情が分かるからこそ、
理解できていないことも「そうだった」と分かった気にさせてしまうのでしょう。

思ったほど感情移入してダメージを受けなかった理由は、
父アンソニーのお茶目な人柄に意外と笑ってしまったためでもあります。
アンの夫を名乗る男に、娘がフランス人の男と出会ったと明かしてしまったと知って、
「しまった、うっかり浮気を教えちゃった!」とおどけるシーンや、
介護士のローラに元タップダンサーだったと言ってダンスを披露したり、紅茶で薬を飲んで見せるシーン。

THE FATHER | "Tap Dancer" Official Clip

これらを見ていると、アンソニーが元は自身が言うようにとても知的でチャーミングな人だったことがわかります。
はじめから頑固で癖のある人物だったわけではなく、
だんだんと整理出来なくなっていく記憶への苛立ちがそうさせるのでしょうね。

 

■■■ここからラストシーンに触れるネタバレ感想■■■

 

 

 

↓↓↓↓↓

 

 

病院で自分が誰なのか問いかけながら、アンソニーが子供に後退していくシーンは、
以前ラジオで聞いた、病院で入院している年老いた女性が、
体の痛みから「お母さん、お母さん」と助けを呼んでいたという
聴取者の投稿を思い出したりしました。

親を持つ娘の立場としてや介護する立場の人間として、客観視して見るのではなく、
アンソニー・ホプキンスが語っていたように、
「いずれ自分もこうなるのだ」と思い知らされる作品なのだと気付きます。

アンソニーの最後のセリフ、
'I feel as if I’m losing all my leaves, one after another.'
が人生の晩秋を連想させ、なんとも切なくなります。

ポールがアンソニーに、疲れたアンには「太陽が必要」
'Needs a bit of sun.'
と言うセリフがありましたが、
最後に看護士がアンソニーを慰めながら散歩に出ようと語りかける際に、
'
The sun’s out.'
と言っていたのが、何か暗示的に感じられました。
(太陽がセリフに使われているのかこの二箇所のみ。)
アンソニーは最後に娘の不在と自分の任地に問題があると自覚して泣くわけですが、
それは本来の自分の姿を自覚するという意味で、
太陽はその象徴のように使われているのかな?と思ったり。

 

ところで個人的に疑問に思っている箇所がいくつかありました。

①介護士は誰だったのか?

もちろん、その姿はアンの妹でアンソニーが可愛がっていたルーシーのものだとわかるし、
キャサリン(オリヴィア・ウィリアムズ)が後半に介護士として登場するけど、
じゃあローラって誰? ただこの作品に登場してこないだけで存在はしてたのか?
アンソニーの願望としてルーシーの姿をした介護士が現れたのか?

②アンソニーをビンタしたのは誰なのか?

男(マーク・ゲイティス)がポール(ルーファス・シーウェル)と同じセリフで問い詰めて
アンソニーにビンタをするシーン。
あれは看護士のビルなのか、それともポールなのか?
ポールだとしたらちょっとやりすぎだし
(しかしその後のポールの動揺ぶりを見ると本当にやってはなさそう…)
ビルだとしたら病院で何があったのかと想像してしまう…
(あとマークが本当にアンソニー・ホプキンスをペチペチやったのかも気になる。)

③あの家は誰のものなのか?

アンは翻訳家の設定なので、あのフラットにある本棚を見るとアンの住む家で間違いないと思う、
が、もしかしたらアンソニーの元の家のイメージも混ざっているのかもしれない。
(Ex. 父の家にあると言われてたルーシーの絵についてなど)

このへんが気になるところなので、インタビューや脚本を読んで確認しておこうと思います。

 

最後に、単なるマーク・ゲイティスファンとしての見どころですが、
男/看護士ビルはこの作品がスリラーとも呼ばれる要素を一手に引き受けていましたね。
初めの登場シーンにビンタのシーン、そして最後の看護士としての登場シーン。
「この人何なの? 一体誰なの?」を最後まで引っ張り続けた張本人。
ちょっと「SHERLOCK」の「ピンク色の研究」に出てきたマイクロフトのような得体の知れなさ。
なんて絶妙なキャスティングなんだ!!と興奮してしまいました。

ポールの苛立ちの部分を具現化して登場する、イヤーなイメージがついたところで、
最後に「問題ない?」と親しげにウインクして出てきた時には、
安心するやら胸撃ち抜かれるやらで、
そういう意味でも、認知症を取り上げた映画を受け止めきれるか不安だった私を救ってくれた瞬間でした。
ただひたすらファンとして歓喜(笑)。

でもあんな気さくな雰囲気醸し出していてももしかしたらビンタしてたのかもしれないと思うと、
それはそれで余計怖い…。

ちなみに、劇場で見ている時に、後ろにいる観客が、
マークやオリヴィア・ウィリアムズが唐突に登場するたびに
「えぇ…?(怯)」「んんっ?」と思わず声を漏らしていて、
久しぶりの劇場鑑賞を臨場感たっぷりに?より楽しめました。

 


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