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ナショナル・シアター"Three Days in the Country"を観る【祝・オリヴィエ賞受賞】

2016-02-24 | 2015年秋、英国の旅
■2015年10月17日 続き■

英国旅行記の続きですが、ここでおめでたいニュース。
2月21日にロンドンで行われた、ファンの投票によって決定する演劇賞"WhatsOnStage Awards"で、
マーク・ゲイティスが"Three Days in the Country"の演技で最優秀助演男優賞を受賞しました。



マークは前年にもドンマー・ウェアハウスで上演され日本でも映画館上映された「コリオレイナス」で受賞。
それまでも舞台版「オール・アバウト・マイ・マザー」やアラン・エイクボーンの喜劇"Season's Greeting"、
ジョージ・ファーカーの喜劇"The Recruiting Officer"等、何度もノミネートされては逃しており、
「コリオレイナス」の頃になるとあまり受賞を期待していなかったようですが、
今回で2年連続受賞の快挙となりました。



(2016年4月9日追記)
そしてさらに! 第60回オリヴィエ賞の、最優秀演劇助演男優賞も受賞しました!!


オリヴィエ賞は「コリオレイナス」以来2回目のノミネートで、今回初の受賞。
もしかしたらもしかして…と思っていましたが!
ファンとしてマークの熱演が評価されて、本当に嬉しい!



彼の出演した"Three Days in the Country"は、ロシアの劇作家ツルゲーネフの「村でのひと月(A Month in the Country)」を元にした翻案で、
原作で描かれている一ヶ月を3日間に短縮しています。
(「村でのひと月」は、バレエとしても上演されていますが、こちらは登場人物が一部削られた物語になっています。)

ドラマ「ドクター・フー」のファンの間では、マスター役のジョン・シムと、
脚本家であり出演もしているマークの共演という点でも注目されていました。
私も昨年戯曲を予習してこの舞台を2度見に行ったので、その時の様子を含めて紹介しますね。



劇場に入ると真紅の幕が下りていました。
開演と同時に幕が開くと、舞台にはロシアの田園風景が背景にあり、
上手下手は舞台袖もなく、照明などが丸見えになっています。
舞台上で使われる小道具や演奏されるピアノなども脇に置かれているのが見て取れます。

田園の背景の前には椅子が並べてあり、
登場しないキャストは舞台脇に捌けず、この椅子に座って待機しています。
「コリオレイナス」の時みたいですね。

あとは舞台の上の方に真紅のドアが吊るしてあって、
第一幕は上の方に下がっているのですが、これが第二幕には舞台に下りていて貯蔵庫の入り口になります。



舞台は1800年代のロシアの田園地帯。
田舎の屋敷に住むナターリア(Amanda Drew)は、
村の地主で屋敷の主人である夫アルカーディ(John Light)との間に恵まれた幼い息子コーリャと、
養女のヴェーラ(Lily Sacofsky)、義母のアンナ(Lynn Farleigh)と彼女の友人リザヴェータ(Debra Gillett)
コーリャのドイツ語の老家庭教師シャーフ(Gawn Grainger)
そして、ナターリアとアルカーディの共通の友人である同居人ラキーチン(John Simm)に囲まれて
穏やかな日常を過ごしていました。

そこに、若い家庭教師のベリャーエフ(Royce Pierreson)がやってきたことで、波乱が起こります。

Three Days in the Country: Turgenev, unrequited love and comedy


同居人のラキーチンは夫妻の初対面の場にも立ち会っていた友人で、
彼はその頃からずっとナターリアに惹かれ続けているのですが、
当のナターリアが、新任の若く美しいベリャーエフへ密かに心焦がれていることに気付きます。

ところが、彼女の養女のヴェーラベリャーエフに惹かれていて、
その若さゆえか、お互いに思い合っていると信じ込んでいます。
ヴェーラベリャーエフと親し気にしている様子を見たナターリアは、
村医者のシュピゲルスキー先生が持ち込んだ、ヴェーラと近隣に住む中年の地主ボリシンツォーフ(Nigel Betts)の縁談を受け入れることにします。

マークが演じているのはこのシュピゲルスキー先生です。

Mark Gatiss | Three Days in the Country | National Theatre


筋書きだけ見ているとシリアスなラヴストーリーのように見えますが、
このシュピゲルスキー先生がいることで、特にコメディ色が強い舞台になっています。

自ら「誤診のマエストロ」と名乗るお調子者なシュピゲルスキー先生は、
新しい馬を買ってくれると約束したボリシンツォーフのために、
ヴェーラたちとの食事会の約束を取り付けますが、臆病なボリシンツォーフは腰が引けて帰ろうと言いだします。

そこで先生は石で出来たベンチを墓に例えて、杖で指しながら
「手入れされてない墓。苔むして、フンが落ちている。
 『ボリシンツォーフ、ここに眠る。彼は一人で生き、跡継ぎを残さず、財産は彼と共に死んだ』
 『どうしてそうなったの?』
 『ああ、ランチにいかなかったからじゃないか?』」

などと一人芝居をして励まします(笑)

そのシュピゲルスキー先生も、ボリシンツォーフに感化されたのか、
ナターリアの義母の友人であるリザヴェータに突然求婚したりします。
この第二幕はじめの演技が、最も笑えて最も注目された場面です。



散歩中に雨に降られたシュピゲルスキー先生とリザヴェータは、貯蔵庫で雨宿りします。
絶好の機会とばかりに彼女に跪き、プロポーズしようとする先生。
そこで、突如跪いた彼を襲う腰痛!
こののたうち回る演技に劇場中が爆笑!
木箱を使って、まるで蜘蛛が地面を這い回るように必死に立ち上がろうとする先生の姿に、
横っ腹が痛くなるほど笑ってしまいます。

「うおぁぁぁー」と悶絶しながら、それでも「私が跪いていると想像して聞いてくれ…」とプロポーズを試みるのですが、
そのプロポーズも独特で、まるで『シュピゲルスキー先生の関白宣言』といった感じ(笑)。
お前を嫁に貰う前に言っておきたいことがある…といった具合に自分の身の上を語りだす先生に、
リザヴェータ「メモ取っていい?」(笑)。
リザヴェータ役のデブラさん(翻案した劇作家パトリック・マーバーの奥さんでもあります)の表情も豊かで笑いを誘うんですよね。
そして先生も彼女に読み聞かせるために驚く程長い巻物のような走り書きを取り出します(笑)。

面白い内容とはいえあまりに自分勝手で且つ長いのでここでは省略しますが(笑)、
つまり、彼は気難しく人嫌いでも性格を変える気はさらさらないし、混沌とした家に暮らしているけれど、
定収入と倹約があればひとつ屋根の下で一緒に暮らして行けるだろうというものです。
「さあ、どうかな?」
巻物を読み終わると、見せ物が終わったサーカス団員のように、手を広げてアピールするシュピゲルスキー先生(笑)。
(観客はここで拍手していました・笑)



今まで何年も会話をしてきたのに、何故突然そんな事を"提案"するのかと訊くリザヴェータに、
やっと腰痛から解放された先生は言います。

「ああ… 夏の狂気とでも呼んでくれ」
「なるほど、日射病なのね…」
←(笑)
「許してくれ、真実を前に私は軽薄なんだ。
 今まで話さなかったのは… 言葉を知らなかったからだ。
 君は軽蔑すると思っていた。
 だが、ボリシンツォーフの後見に、死への恐れ…
 昨日君が言った『服(clothing)』の言い方… 今朝の君の深くて孤独な青い瞳…
 それらの真実、単純なことが私を奮い立たせた。
 何年も君を見てきた。君は素晴らしいと思う。
 私は誰も愛せなかった。だが君なら愛せると思うんだ」


彼女の手にキスをする先生。
始めは自分勝手な先生の求婚に呆れ気味だったリザヴェータも、
この先生の言葉に心を打たれます。
そして、先生は決して上手くはないと言いながら、彼女に歌を歌って聞かせるのでした。



一方、養女ヴェーラボリシンツォーフとの縁談の話をするナターリア
ところがヴェーラは家庭教師のベリャーエフとの縁談だと勘違いします。
ヴェーラから家庭教師と互いに思い合っていると聞かされたナターリアは狼狽し、
同居人のラキーチンに助けを求めます。
ナターリアに片思いしている彼にとっては辛い役割ですね…。

ラキーチンは、彼を解雇するようナターリアを説得しますが、
ベリャーエフと話したナターリアは、
彼が実際には養女ではなく、ナターリアの事を愛していると告白され、決意が鈍ります。
やはり彼を屋敷に置いておきたいというナターリア、それを責めるラキーチン
熱のこもった口論の末、2人は突発的にキスをしてしまい、その様子を夫であるアルカーディに目撃されてしまいます。
夫は2人が浮気していると勘違い… ここがややこしいところ。



ラキーチンは観念して、夫のアルカーディナターリアをずっと愛しつづけていたこと、
また、彼女が彼を愛することはないと説明し、屋敷を出ると告げます。
親友が妻に思いを寄せていたことに驚き、また別離に心を痛めるアルカーディ
そして、ラキーチンベリャーエフに彼が混乱をもたらした事を責め、
自分と共に屋敷を離れるよう言って聞かせます。

「お前は自分を、女を、人生を憎む!愛を必要とするどうしようもない心をな。
 聞け。愛するも愛されるもしない、ただそうすればお前は安全だ。
 信じないだろうがな、だが…お前はそうなるんだ」

そして、むせび泣くラキーチン。切ない…。



ベリャーエフナターリアが互いに思い合っていると知ったヴェーラは激怒。
浮気女と罵ったことでナターリアに平手打ちされたヴェーラは不本意なボリシンツォーフの縁談を受けて家を出ることを決意します。

そして、ベリャーエフは、ヴェーラナターリア宛の手紙を残し、黙って屋敷を去ります。
家庭教師がいなくなって悲しむ息子の様子を見たナターリアヴェーラに理由を訊き、
手紙を残した彼が黙って去った事を知り、打ち拉がれるのでした。



ちなみにボリシンツォーフの縁談がまとまりそうで喜んでいたシュピゲルスキー先生も、
リザヴェータからプロポーズを断られてしまいます…
「おーぅ…」という残念な声が上がる程、観客もこの結果に同情。
陽気な先生の意気消沈っぷりが可哀想でした。まあ、予想出来た結果なんですけどね。

ラキーチンも最後に屋敷を去ります。
残された息子のコーリャを慰めるように、老家庭教師シャーフがカードゲームに誘います。
コーリャの手札には3つの"ハート"。
「いいぞ。それは必要になる」

こんな感じで、笑える芝居だけど、最後には誰も幸せになってないという
ボリシンツォーフは別ですが、)
なんとも切ない英国製ロシア悲喜劇"Three Days in the Country"。

上演中にマーク・ゲイティス本人に質問が出来るという機会があったので、
この中で「誰に同情しますか?」と質問を投げかけたところ、運良く回答を頂けました。



曰く、
「彼ら全員に同情するよ!皆かなり絶望的で、めちゃくちゃにされた人たちだ。我々のようにね。」
とのこと。
でもあなたはめちゃめちゃどころかパーフェクトでしたよ!



各紙の批評を読んでみると、笑いが強調されすぎて社会的な側面が薄れ、
バランスが崩れているといった内容が目立ちました。
確かに(パトリック・マーバーは元々コメディアンということもあってか)笑わせるところは多かったですね。
その中心にいたのがシュピゲルスキー先生だったことは明らかですが、
彼の演技自体は高評価だったと記憶しています。

ワインを持って眠りこけるシャーフのグラスを勝手に取って飲んだり、
死んでるのか疑って脈を計ってみたり(笑)。
ラキーチンとラズベリーを取り合う場面なんかもありました。
とにかく本来の?コメディのフィールドで生き生きと演じているのが感じとれたのです。

「コリオレイナス」でのメニーニアス役もコミカルさと悲哀がいい対比になって素晴らしい演技でしたが、
シュピゲルスキー先生の言動で観客が笑い、それがさらにパワフルな演技への原動力になっている様子は、
見ているこちら側もエキサイトさせられました。
この舞台を見た観客なら誰もが納得の受賞なのではないでしょうか。
本当におめでとう、マーク!





次回は「マーク・ゲイティス氏の誕生日を祝うの巻:その2」です。

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