田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

吸血鬼/浜辺の少女   間もなく完結

2008-06-10 22:55:49 | Weblog
6月10日 火曜日
吸血鬼/浜辺の少女 61 (小説)
このとき部屋を揺るがす鈍い振動が伝わってきた。
普通の人では感じないような揺れだった。大谷の方角だ。
神父だ。神父がやったのだ。
松本が鹿人に体ごとぶちあたる。
よろける鹿人に夏子が叫ぶ。
「テロは許さない。たとえ、兄さんでも死んでもらいます」
目の前で田村が溶解したのを見ている。RFではない真正吸血鬼であっても……溶けるかもしれない。恐怖が叫び声となる。
「やめろ!! ラミア」
夏子の髪が伸びる。青白く光りながら髪が伸びる。
「ヤメロ!!!」
鹿人が消える。一匹の蝙蝠がそこにはいた。
蝙蝠に変身した鹿人が窓から飛び出す。
そとには逃げずに壁を這い上っている。
なにかおかしい。テロには完全に失敗している。
いまさらなにをあせっているのだ。
街の騒音は高鳴っている。怒号も飛び交っている。
でも首相は無事だろう。騒音の感じで夏子と隼人にはわかる。
ぴんと伸びた夏子の髪はぎりぎりまで伸びた。
鹿人の変形した蝙蝠は鉤爪をたてて壁を登りつづける。
この期におよんで、まだ屋上へむかっている。
なにかおかしい。ぴんとのびた髪は蝙蝠を捕えたままだ。
夏子が窓際まで走り寄る。
スパークが髪の先端まで煌めく。
髪の毛がひかれる。もうこれ以上のびない。限界だ。
スパークを浴びて蝙蝠が一瞬、鹿人の人型にもどる。
壁面から剥がされて鹿人は落ちる。
ギャッという悲鳴が川面でする。鹿人は流におちた。
夏子も隼人もこのとき鹿人の脳波を読んだ。
吸血鬼は、流れる水に弱い。
鹿人は恐怖のあまり秘めていたことを露呈させた。
鹿人がどうなったか確かめている余裕はない。
たいへんなことを読み取ってしまった。
ハッとした表情が夏子に浮かぶ。
「鹿人の心の声。聞いたよね」
夏子が隼人に確かめる。
夏子は動揺している。
いま聞いた鹿人の内なる声が信じられない。
「隼人、屋上へ急ぎましょう」
「まだなにかあるのですか」
松本が背後で必死に呼びかけている。応えていられない。
「屋上よ。屋上。隼人きて、急いで」