田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

メインデイツシュ 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-20 22:40:05 | Weblog
6月20日 金曜日

「こんなところにかくれて、路上観察しているのはウンザリだ。このあたりのことはよくわかった。みんなのところにもどるとするか」
RF吸血鬼のタケシは、Qにほめられた。
よほどうれしいのかニタニタ笑っている。
「おまけに、目の前にメインデイツシュがのこのこでてきた」
「そうかな」
 隼人はあれいらい片時もはなさない剣、鹿沼は、稲葉鍛冶の鍛えた魔到丸をさっとかまえた。どこに隠し持っていたのか。
「おお、おまえは」
「気付くのがおそいんだよ。愚か者」
バァカ。
といはいえなかった。
マスターと尊称されていた。
なん世代も生き抜いてきた吸血鬼だ。
部族の長だろう。
敬意をはらった。
隼人も侍言葉になるが、それがふさわしい相手だ。
ザワッとQとタケシが両側からおそってきた。
鉤爪による攻撃。
吸血鬼の鉤爪の恐怖。チタン合金にも匹敵する硬度を秘めた爪。
いくたびかの吸血鬼との闘争。
その威力の恐ろしさがいかなるものか、隼人は知っている。
ひとたび裂かれればなみの人間であれば血をふいて倒れる。
即死だ。それほどのものだ。
剣と鉤爪が交差した。
チャリンと音がした。
隼人はさらに踏み込むどころか、敏捷に跳びのいた。
切断された爪が街灯にきらめいた。
切られてなお、隼人の目を狙って爪がとんでくる。
リモコンがきくのか!!
吸血鬼が威嚇すようにうなった。
うなりながら後退していく。
隼人は正眼にかまえたまま動かない。
悪意の波動が強すぎる。
切り込むことは危険だ。
危険だと察知したどころか、動けなかった。
動かないのではなく、膝頭がふるえて身動きできない。
(このおれが、死可沼流の嫡子、未来の道場主の皐隼人がビビって動けない)
吸血鬼は闇のなかに溶けこむように消えた。
おおきな羽ばたきの……音がした。
なぜか吸血鬼は先をいそいでいた。
「メインデイツシュをたべていかないのか」
声をかけたものの、隼人はぐっしょりと冷や汗をかいていた。





マスターQ出現  吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-20 19:56:51 | Weblog
6月20日 金曜日

老人はふりかえりもしない。
見よ!!
吸血鬼の舌がのびた。
筆の先をなめている。
「これが赤い絵の具に見えるかね。これは……」
老人が後ろに手をまわして、ピカピカに光ったステンレス製の缶をさしだす。
腕が体にまきつくような動きをみせている。並の人間にはこんな動きは不可能だ。
筆先を吸血鬼がしゃぶっている。
血。……………
血血血血血血血。
ちちち………。
チチチチチチチ。
ブラッド。
缶には輸血用の血液パック。老人がふりかえった。
その顔は、爬虫類のような鱗のあるおぞましい皮膚に覆われている。
隼人は予期はしていたものの悍ましい気配に、一歩とび退いた。
それは一瞬のこと。男は軽薄な若者の顔になる。
背伸びをする。立ち上がる。
隼人よりさらに長身だ。
壁から腕が伸びてきて、缶の血液をひったくり、いっき飲みしている。
ドクッドクッと喉元が動く。
唇のはしから……トローリと赤いねばつく血がたれる。
腫瘍のように赤く爛れた唇。
牙だけがあいかわらず、不気味なほど白い。
鋭利な鋼のように光っている。
漫画(アニメ )の特殊造型作家の作品そのもの。
2Dの世界から3Dの世界へ。立体化する。
まさに吸血鬼が壁から浮き出る。
現実化した。悪夢のような光景だ。
老人と思った男が背伸びをして軽薄なヤングに変身した。
壁から現れた吸血鬼が、隼人に迫ってくる。
なんのためらいもなくサッと間合いを詰めて迫ってくる。
隼人は跳びのいた。
すさまじい害意が吸血鬼から放射されている。
「毎晩せわになったな、タケシ」
「なんてことありません。マスターQ」






血塗られたアート  吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-20 15:37:01 | Weblog
6月20日 金曜日

隼人は、栃木大学の芸術科美術部。
そして、古流剣法、死可沼流の剣の達人だ。
その隼人がミステリースポットに興味を持った。
キーワードは吸血鬼。そして牙。
きょうこそ、その実体を見極めてやる。
コンクリートの壁をキャンバスとして市民に提供した。
そのアイデアが大ヒットした。
いまでは、500メートル。
200箇所近く、さまざまな絵がびっしりとつづいている。
道端美術館だ。
街の芸術展示通りだ。
吸血鬼の絵までの距離がとおい。
隼人は歩く。そろそろ見えてきていいはずだ。
そろそろトワイライトだ。
たぶんワンピースのつぎあたりにあったはずだ。
通学の電車から見ていた。
実際に歩いたのでは距離感にだいぶずれがある。
車窓からだと、あっあれが吸血鬼のペィンテングだな。
と視認したときには通過してしまう。
見えなくなってしまう。
剣の修行にあけくれている。
動態視力のすぐれた隼人だ。
その隼人にしても視認できない。
牙が伸びているかどうかは、わからない。
牙すら確認できない。
あまり、遠いのでうんざりしたところで、前方に人影が見えた。
夕霧のなかで人影はぼんやりとかすんでいる。
足音を殺して近寄る。
少し前屈みになってスプレーではなく、絵筆をふるっていた。
なんてことはない。男が絵筆をふるっている。
人目をはばかって、吸血鬼の犬歯をにょろっと描きたしていたのだ。
イタズラ好きな老人もいたものだ。
あの屈みかたからみて、年寄りだ。
「吸血鬼の牙を伸ばすなんて……街の人が怯えてますよ」
隼人は声をかけた。
老人がおどろかないように、さりげなく話しかけた。
「これが、白い絵の具に見えるかね」
嗄れた声。
かさかさとした声だ。
のどに啖でもからまっているような声がもどってきた。
やはり老人だ。
暇をもてあましている老人のイタズラだ。
愉快犯だ。
こっそりと吸血鬼の牙を伸ばす。
描き足していたのだ。
みんなをカツイデおもしろがっている。
テレビで取り上げられてさぞや満足していることだろう。
だが、いっていることがおかしい。
絵筆をふるいつづけている。
肩越しに注意して見る。
赤い絵の具。
唇に赤い色をそえている。
ベットリとした粘り気のある絵の具。
そのとき、吸血鬼の唇が動いたような気がした。
絵が動いた。
ザワッと唇が開いた。
ズルッと音までした。
絵が動いている。
「これが絵の具に見えるかね」




のびる牙  吸血鬼/浜辺の少女  第二部

2008-06-20 09:04:16 | Weblog
6月20日 金曜日



皐隼人は歩く。
蒼茫と霞む日光連山。
青い夕暮れが訪れようとしていた。
秋の野州路を隼人は歩いている。
絵のなかの吸血鬼の牙が伸びる。
そんなことが起こるのだろうか。
JR日光線を鹿沼の一駅手前『鶴田』で降りた。
道の両側にはコスモスの花が咲いている。
無粋なわけではないが、とても花など見ていられない。
野歩きを楽しんでいるわけではないのだ。
野歩きをエンジョイする気なら恋人の夏子を誘うはずだ。
絶えず一つのイメージが浮かんでいる。
牙。牙牙牙牙牙。牙というのが気になる。
富士重工のコンクリートの壁。
フエンスペインテングに描かれた吸血鬼。
吸血鬼の牙が毎夜、伸びているというのだ。
いまも伸びつづけているのだろうか?
宇都宮のミステリースポット。
11チャンネル。ローカル局である栃木テレビ。
で放映されていらい若者の間で有名になった。
廃墟マニアとか怪奇スポットの探検に熱狂する若者にはうれしい場所だ。
テレビで放映されると情報とイメージが一般化する。
人気のある場所となる。
隼人には吸血鬼の犬歯ということがひっかかっていた。
いまこそ確かめてやる。それで野歩きなのだ。
あるある。おびただしいかずの絵。
ピカチュウ。
ハンターxハンターのキャラクター。ポケモン。
千と千尋の神隠し。
古典的な銭湯のタイル絵のような富士山と松と雲。老人の作か。
一区画縦が2メートル。横が3メートル。
壁のキャンバスに、おもいおもいの絵がかかれていた。
暴走族のスプレーペインテングに悩まされた。
あげく。富士重工広報部で考えたことだった。
ラクガキスル。
したいの? したい……?
じゃ、どうぞ、どうぞ。
この壁面にストリート・アートをどうぞラクガキしてくださァい。
あなたは、町のアーティストです。
あなたは町のアーティスト。
ご遠慮なくどうぞ。
いかに消すか。と、アイデアをしぼっていたのに。
逆転の発想というやつだ。
ぼくだったら、夏子を描く。
浜辺の少女。夏子の立ち姿を描く。