6月24日 火曜日
口から鞭のように伸びた舌で床にながれた血も吸い込んでいる。
吸血行為を。
たのしんでいる。
ナースは恐怖にたえられず、失神していた。
吸血鬼は殺戮をたのしんでいるのだ。
「おれのオヤツをどこにやった? おれの、餌をどこにかくした」
「それならここよ。あんたのあいてはわたしよ。なに血まよっているの。わたしが見えない」
「おまえ、そこにいたのか。キンジとかいうボーヤとなるほどおなじ血の匂いがする。姉弟だな。ボーヤはどこだ。おまえらは血は勇ましい。新鮮だ。パックの血には飽きた。おまえも弟のように生きがいい。おいしそうだ。純粋だからおいしいのだ。おれ好みだ」
「わたしがあいてよ。吸血鬼さん」
八重子はおそれていなかった。
眞吾に見えて、わたしに見えなかったものの実体。
いまはっきりと視認できた。
眞吾との再会が彼への愛情をさらに深めた。
それで異界のものをみる可視能力がたかまったのだ。
うれしかった。
もう離れない。
これからは、いつも共に闘う。
夏子さんと隼人さんのように。
眞吾と生死を共にする覚悟はできていた。
八重子の感覚がワンランク向上したのだ。
人の目でははっきりととらえることができなくても、心の目には見える。
目に見えないものの実体を見透かすことのできる眼力が備わった。
そして弟を捕食した。
弟を餌としか見ていなかったもの。
殺してやる。弟をひどいめにあわせたやつ。ゆるせない。
仲間を殺戮したやつら。ゆるせない。
怒りは、憎悪は吸血鬼に向かう。
そうだ。
敵は王子の奴らではない。
吸血鬼だ。吸血鬼だったのだ。
敵が吸血鬼だから、眞吾はわたしをおいていったのだ。
「光りをあてて。こいつは光りによわいはずよ」
可働できるかぎりの光源が吸血鬼にむけられた。
医師や看護婦、ベットの患者にはこのものはどんな形態で映っているのか。
わからない。
しかし、医療チームの全員が、さすが血は見慣れているので動揺した気配もなく、臨戦体制をとった。
騒ぎをききつけ看護師がなんにんか飛び込んできた。
医師がおおぶりのメスをかまえてきりつけた。
ナイフできった。
バールでなぐった。
でも傷つかなかった。
爬虫類の分厚いごつごつ凹凸した膚。
いまや興奮しているためか埋没鱗があらわれていた。
メスがくいこんだ。
鱗がとびちった。
緑色の血がふきだした。
さすがにこの色は視覚でとらえることができるらしい。
「このひと緑の血をながしている」
「なんなんだ、これは特写か、トリックか」
医師は貧乳のだが魅力的微笑の看護婦を見た。看護婦は巨根とうわさの医師を見た。
八重子は点滴のポールを吸血鬼につきたてた。
手元が狂い太腿にささった。
「あのままトウキョウにもどると思ったのか、おろかもの。南に去るとみせて、いまごろは北は、那須山麓におれたちの仲間が集合している」
「だましたのね」
「麻の鞭を振る男と、破邪の剣をもつもの、そしてあのバンビーノあいてではぶがわるかったからな。だがあいつらはは吸血鬼の群れのなかにいまごろつつこんでいる。みな殺しだ」
「逃げる気」
吸血鬼Qのからだが霧のように消えていく。目だけが最後まで赤光をはなっていた。
「せっかくきたのに、逃げる気……さあ餌はここにいるは、弟の敵をうってあげる。さあおそってきて」
「いきがけに、食事していこうとおもったが、まあ……これで満腹とするか」
声だけがひびいてきた。
「早苗さん、金次のことたのむね」
八重子の胸騒ぎが現実のものとなろうとしていた。
口から鞭のように伸びた舌で床にながれた血も吸い込んでいる。
吸血行為を。
たのしんでいる。
ナースは恐怖にたえられず、失神していた。
吸血鬼は殺戮をたのしんでいるのだ。
「おれのオヤツをどこにやった? おれの、餌をどこにかくした」
「それならここよ。あんたのあいてはわたしよ。なに血まよっているの。わたしが見えない」
「おまえ、そこにいたのか。キンジとかいうボーヤとなるほどおなじ血の匂いがする。姉弟だな。ボーヤはどこだ。おまえらは血は勇ましい。新鮮だ。パックの血には飽きた。おまえも弟のように生きがいい。おいしそうだ。純粋だからおいしいのだ。おれ好みだ」
「わたしがあいてよ。吸血鬼さん」
八重子はおそれていなかった。
眞吾に見えて、わたしに見えなかったものの実体。
いまはっきりと視認できた。
眞吾との再会が彼への愛情をさらに深めた。
それで異界のものをみる可視能力がたかまったのだ。
うれしかった。
もう離れない。
これからは、いつも共に闘う。
夏子さんと隼人さんのように。
眞吾と生死を共にする覚悟はできていた。
八重子の感覚がワンランク向上したのだ。
人の目でははっきりととらえることができなくても、心の目には見える。
目に見えないものの実体を見透かすことのできる眼力が備わった。
そして弟を捕食した。
弟を餌としか見ていなかったもの。
殺してやる。弟をひどいめにあわせたやつ。ゆるせない。
仲間を殺戮したやつら。ゆるせない。
怒りは、憎悪は吸血鬼に向かう。
そうだ。
敵は王子の奴らではない。
吸血鬼だ。吸血鬼だったのだ。
敵が吸血鬼だから、眞吾はわたしをおいていったのだ。
「光りをあてて。こいつは光りによわいはずよ」
可働できるかぎりの光源が吸血鬼にむけられた。
医師や看護婦、ベットの患者にはこのものはどんな形態で映っているのか。
わからない。
しかし、医療チームの全員が、さすが血は見慣れているので動揺した気配もなく、臨戦体制をとった。
騒ぎをききつけ看護師がなんにんか飛び込んできた。
医師がおおぶりのメスをかまえてきりつけた。
ナイフできった。
バールでなぐった。
でも傷つかなかった。
爬虫類の分厚いごつごつ凹凸した膚。
いまや興奮しているためか埋没鱗があらわれていた。
メスがくいこんだ。
鱗がとびちった。
緑色の血がふきだした。
さすがにこの色は視覚でとらえることができるらしい。
「このひと緑の血をながしている」
「なんなんだ、これは特写か、トリックか」
医師は貧乳のだが魅力的微笑の看護婦を見た。看護婦は巨根とうわさの医師を見た。
八重子は点滴のポールを吸血鬼につきたてた。
手元が狂い太腿にささった。
「あのままトウキョウにもどると思ったのか、おろかもの。南に去るとみせて、いまごろは北は、那須山麓におれたちの仲間が集合している」
「だましたのね」
「麻の鞭を振る男と、破邪の剣をもつもの、そしてあのバンビーノあいてではぶがわるかったからな。だがあいつらはは吸血鬼の群れのなかにいまごろつつこんでいる。みな殺しだ」
「逃げる気」
吸血鬼Qのからだが霧のように消えていく。目だけが最後まで赤光をはなっていた。
「せっかくきたのに、逃げる気……さあ餌はここにいるは、弟の敵をうってあげる。さあおそってきて」
「いきがけに、食事していこうとおもったが、まあ……これで満腹とするか」
声だけがひびいてきた。
「早苗さん、金次のことたのむね」
八重子の胸騒ぎが現実のものとなろうとしていた。