田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

胸騒ぎ 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-24 22:29:03 | Weblog
6月24日 火曜日
口から鞭のように伸びた舌で床にながれた血も吸い込んでいる。
吸血行為を。
たのしんでいる。
ナースは恐怖にたえられず、失神していた。
吸血鬼は殺戮をたのしんでいるのだ。
「おれのオヤツをどこにやった? おれの、餌をどこにかくした」
「それならここよ。あんたのあいてはわたしよ。なに血まよっているの。わたしが見えない」
「おまえ、そこにいたのか。キンジとかいうボーヤとなるほどおなじ血の匂いがする。姉弟だな。ボーヤはどこだ。おまえらは血は勇ましい。新鮮だ。パックの血には飽きた。おまえも弟のように生きがいい。おいしそうだ。純粋だからおいしいのだ。おれ好みだ」
「わたしがあいてよ。吸血鬼さん」
八重子はおそれていなかった。
眞吾に見えて、わたしに見えなかったものの実体。
いまはっきりと視認できた。
眞吾との再会が彼への愛情をさらに深めた。
それで異界のものをみる可視能力がたかまったのだ。
うれしかった。
もう離れない。
これからは、いつも共に闘う。
夏子さんと隼人さんのように。
眞吾と生死を共にする覚悟はできていた。
八重子の感覚がワンランク向上したのだ。
人の目でははっきりととらえることができなくても、心の目には見える。
目に見えないものの実体を見透かすことのできる眼力が備わった。       
そして弟を捕食した。
弟を餌としか見ていなかったもの。
殺してやる。弟をひどいめにあわせたやつ。ゆるせない。
仲間を殺戮したやつら。ゆるせない。
怒りは、憎悪は吸血鬼に向かう。
そうだ。
敵は王子の奴らではない。
吸血鬼だ。吸血鬼だったのだ。
敵が吸血鬼だから、眞吾はわたしをおいていったのだ。
「光りをあてて。こいつは光りによわいはずよ」
可働できるかぎりの光源が吸血鬼にむけられた。
医師や看護婦、ベットの患者にはこのものはどんな形態で映っているのか。
わからない。
しかし、医療チームの全員が、さすが血は見慣れているので動揺した気配もなく、臨戦体制をとった。
騒ぎをききつけ看護師がなんにんか飛び込んできた。
医師がおおぶりのメスをかまえてきりつけた。
ナイフできった。
バールでなぐった。
でも傷つかなかった。
爬虫類の分厚いごつごつ凹凸した膚。
いまや興奮しているためか埋没鱗があらわれていた。
メスがくいこんだ。
鱗がとびちった。
緑色の血がふきだした。
さすがにこの色は視覚でとらえることができるらしい。
「このひと緑の血をながしている」
「なんなんだ、これは特写か、トリックか」
医師は貧乳のだが魅力的微笑の看護婦を見た。看護婦は巨根とうわさの医師を見た。
八重子は点滴のポールを吸血鬼につきたてた。
手元が狂い太腿にささった。
「あのままトウキョウにもどると思ったのか、おろかもの。南に去るとみせて、いまごろは北は、那須山麓におれたちの仲間が集合している」
「だましたのね」
「麻の鞭を振る男と、破邪の剣をもつもの、そしてあのバンビーノあいてではぶがわるかったからな。だがあいつらはは吸血鬼の群れのなかにいまごろつつこんでいる。みな殺しだ」
「逃げる気」
吸血鬼Qのからだが霧のように消えていく。目だけが最後まで赤光をはなっていた。
「せっかくきたのに、逃げる気……さあ餌はここにいるは、弟の敵をうってあげる。さあおそってきて」
「いきがけに、食事していこうとおもったが、まあ……これで満腹とするか」
声だけがひびいてきた。
「早苗さん、金次のことたのむね」
八重子の胸騒ぎが現実のものとなろうとしていた。









悪夢(2) 吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-24 18:26:44 | Weblog
6月24日 火曜日
眞吾がバールをつきたてるようと叫んでいた。
王子のやつら、赤羽のパーティは、いつからあんなに強くなったのよ。
へんな技をくりだしてきた。
ひとりだけバールをつきたてたら消えてしまった。
そうよ。
ほんとうにあいつ一瞬で、灰になった。
消えてしまった。
胸にバールをつきたてられて……消える。
……灰になる。
……あれって、吸血鬼? 
夢うつつの中で八重子は考えていた。そうだ。わたしたちの敵は吸血鬼だった。
悲鳴がしていた。
こんどこそはっきりと目覚めた。
悲鳴は八重子の口からでていない。
集中治療室の前の廊下。
長椅子にすわっていた。
うたた寝をしていた。
となりに早苗もいる。
治療室の扉が開いている。
悲鳴はその奥でしていた。
集中治療室の扉がひとりでにひらいた。
自動扉だ。
廊下の側から入らなくても、治療室の側にひとが立てば自動的に開く。
扉がひらいても、なんの不思議もない。
だが廊下の長椅子で早苗とともに金次の安否を気遣う八重子の前を通った人影はない。
いくら、うとうとしていても、人の気配を見落とすほどヤワではない。
だから、治療室から医師か看護婦がでてくる。
そうしたら弟の病状をきこう。
……あれは病気なんかじゃない。
……だれもでてこない。
八重子は不安になった。
とても、現実とは信じられないことが起きている。
また……なにかいやなことが、……八重子は立ちあがった。
治療室でまた悲鳴が起きた。
八重子はかけこんだ。
きゃゃぁぁ。
真っ赤な布がおちていた。
布はすこしもりあがりぴくぴく蠢いていた。赤い塊はナースであったもの。
赤い布はナースの白衣であった。
八重子にもはっきりと見ることができた。
超近代的な医療器具の狭間に、おぞましい爬虫類の青い表皮におおわれたQが、つぎなるナースを生け贄にしょうとしてかかえこんでいた。
鋭い歯はまさに白い喉もとにあてていた。
鉤爪が赤くそまっていた。
それを長い舌でペロリとなめている。





悪夢  吸血鬼/浜辺の少女(2)

2008-06-24 07:03:50 | Weblog
6月24日 火曜日

とくに、下り車線はすいている。



牙がくいこむ。
鋭い牙だ。
ぶすと音をたてた。
肉が裂ける音がした。
不気味な音とともに。
牙が!!
眞吾の首筋に楔となってうちこまれた。
眞吾の瞳は反転した。
黒目が瞼にかくれる。
白目となる。
顔がひきつる。
手が虚空にある。
なにかつかもうとした。
もがく。
ずるっと音をたてて吸われている。
ズルッ。
真紅の血が吸血鬼の唇から滴った。
眞吾の顔がみるまに。
ひからびる。
縮んでいく。
無数の皺がよる。
青ざめた死相……。
眞吾。
わたしの愛する眞吾が。
ふりかえる。
白い目は八重子の像をうつしていない。
八重子は、動けない。
足が動かない。
金縛りにあったように、体が恐怖でかたまっている。
なんとかして助けなければ。動けない。
わたしの眞吾。
眞吾がわたしの目前で死んでしまう。
悲鳴をあげた。
眞吾の顔が弟の金次に反転する。
二人の顔が交互に入れ替わる。
イヤーァ。
声はでた。声だけは必死であげた。
誰かきて。誰か、わたしの声を聞いて。
助けににきて。わたしが悲鳴をあげている。
信じられない。
『空っ風』の元ヘッドのこのわたしが悲鳴をあげている。
信じられない。
わたしの眞吾を助けて。
金次を助けて。声だけはだすことができた。
……八重子は目覚めかけてていた。
これは夢だ。夢なんだ。
体は金縛り。まだ動けない。
疲れていた。
たてつづけに、理解をこえた、異常なことが起こりすぎた。
それにしても、これは夢だ。
夢を見ていたのだ。
そして、覚めかけた夢のなかでまだ考えていた。
なぜ吸血鬼なんかが現れたのだ。
あれは吸血鬼だ。まちがいない。