田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

暁の戦い 吸血鬼/浜辺の少女(2)  麻屋与志夫

2008-06-29 20:43:04 | Weblog
6月29日 日曜日
「噴火はおれも望んではいなかった。予想もしなかった。おれはただ、吸血鬼族の頂点を極めたかった。おじいちゃんまでが、夏子の味方をしている。夏子が憎い。どうせおれも、一族のやっかいものだ」
「夏子が嘆きますよ。彼女はあなたがはやく再生することを望んでいました。そして、兄妹として話し合えることを望んでいるのです。むだな争いは、やめましょう。いまからでも、間に合います。夏子と話し合ってください。あなたはトウキョウの夜の一族に利用されているのです。彼らが、本気で遷都を考えるわけがないでしょう。いまかれらは、日本の頂点にたっています。その地位を大谷の一族にわたすわけがない」
隼人のことばをさえぎろうとして――。
Qが隼人に迫る。
黒のコートをはためかせ。
頭上からおそいかかってきた。

矢野が携帯を耳に当てたまま叫ぶ。
「八重子さんたちがきます。もうそこまできています」
吸血鬼の群れがざわついた。
『黒髪連合』にひきいられたバイクの群れ。
元『空っ風』のレディスも。
戦列にくわわった。
階段をのぼってくる。
さすが、日本一といわれた鹿沼、宇都宮を中心とした族。
が大同団結しただけのことはある。
そのかず、およそ500。
数のうえからすれば吸血鬼に勝る。
バイクのライトは夜の一族を狩る猟犬の目。
何百という光りが薄闇で交差していた。
彼らは中世の騎士のようにパイプを小脇にかかえ夜の一族の軍列につきすすんだ。
整然と槍ぶすまをかまえる彼らはまさに勇者。
中世の騎士さながらの覇気があった。
「眞吾。眞吾。ひさしぶりにあばれさせてもらうわよ」
「たたくな。パイプ槍をつきさせ」
「わかっているわ。わたしにも、あいつらの正体は見えてきたの」
吸血鬼の群れも黒々と数をますばかりだ。
まるで地底から沸きでるように増殖する。
「隼人さんをたすけるんだ。夏子さんを探してこの先にいる」
「こんどはわたしたちが恩をかえすばんね。キンジも。たすかりそうだわ。わたしここで眞吾と死ねたら本望だからね。野州女の意地をみせてやる」
八重子はうれしかった。
こうして眞吾と行動を共にすることができて、うれしかった。
「また会ったな」
Qがニタッと笑う。
怒るより笑ったほうが凄味がある。
だが、八重子は怯まない。
「さそいにのってきてあげたわよ」
「おまえの血もおいしそうだ。女、覚悟しろ……たっぷり吸ってやる」
「なによ。あんたを殺せば、キンジの回復もほんものになる。そうでしょう。死んでもらいます」


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魔倒丸と麻の鞭  吸血鬼/浜辺の少女(2)  麻屋与志夫

2008-06-29 10:35:01 | Weblog
6月29日 日曜日
大谷の一族もまじっているようだ。
でなかったら……。
これほどの集団にはならない。
「待ち伏せされていたのですね」
「東京の吸血鬼は首都機能が那須にうつされるのには反対している。移転推進派の大谷の夜の一族とは敵対関係にある。それなのに、鹿人が欲に目がくらんで判断をあやまったのだ」
隼人は眞吾に説明する。
「やっと……敵の姿がはっきりとしてきました。闘う理由もできました。わたしもこの下野の、野州の地がすきです。この大地を守ることに命をかけます」
眞吾の野州勅忍の血が騒ぐ。
護国至高の思想が体のすみずみまで脈動する。
眞吾が麻の鞭をふるう。
隼人も剣をぬいた。
肌身離さずもっている唯継の魔倒丸が黎明の薄闇にきらめいた。
隼人の降魔の剣が闇を切り裂く。
そこにはかならず闇の者がいた。
隼人は夏子の存在にむかって群がる夜の一族をなぎたおしながら進む。
夏子。
夏子。
夏子。
鉄パイプで殴りつけても。
ナイフで、切りつけても。
倒せなかった。
異形のものが。
隼人の剣に苦鳴をあげる。
麻の鞭が吸血鬼の腕を切り裂く
眞吾もたたかっていた。
高見と矢野は携帯で八重子たちに現在地を連絡した。
闘いの状況を説明する。
「はやきてくれ。眞吾と隼人だけではあぶなない。敵がおおすぎる」
怒号と絶叫。
「どこまでもわれらが計画の邪魔をする気なのか」
鹿人が群れの中心にいた。
「おまえたちだけできたのか」
鹿人が隼人の前に立ちはだかった。
「この連中と手をくんだのですね」
「玉藻の前の封印を解くには、おれたちだけの憎悪の念ではたりなかった。世間を恨む、テロルには助けがいった」
「なぜ、それほどまでにして権力にこだわるのだ。トウキョウの吸血鬼はこの土地を原野にもどし、溶岩流の瓦礫の原野にもどし、遷都などといったたわごとを夢にしようとしている。あなたたち大谷の一族とは敵対する考えをもっているのですよ」
隼人が鹿人に叫ぶ。
どうか、ぼくと夏子のいうことに耳をかたむけてください。
必死の願いをこめる。
説得できるとは思っていない。
でもいわずにはいられない。









決戦  吸血鬼/浜辺の少女(2) 麻屋与志夫

2008-06-29 06:49:04 | Weblog
6月29日 日曜日

7

硫黄が青く燃えていた。
あきれるような年月をかけて地表に層を重ねてきた硫黄。
岩肌にこびりついていた硫黄の成分が地熱の上昇にともなって燃えだしていた。
青くただよう硫黄の流れ。
硫黄の燃えたつ青い流れ。
燃えたつ青い炎の川。
赤く燃える溶岩流と青い硫黄の流れが合流する。
まざりあって、じわじわと山麓をめざして流れている。
まさにあらゆるものを溶解する。
地獄の流れだ。
喉と目につきささる煙りの痛み。
紅葉がはじまりかけている。
広大な雑木林。
那須の山々。
もうもうと煙りがふきこんでいる。
まさに炎熱地獄だ。
そうよ。これは地獄の風景だわ。
地獄の青い炎が燃えさかっていた。
溶岩の流れは止まらない。
空の青い闇が明るくなっていた。
夜が明けた。
いや、夜明けにはまだ時間がある。
ふきあがる噴火の赤い炎。
空まで赤く染まっている
……からだ。
那須山系が火山活動期にはいった。
噴火した。
このままでは流れる。
茶臼岳から噴きでた溶岩が低地に流れる。
人家にたっす。
時間がない。
人家に達すれば、膨大な被害がでる。
なんとしても、この流れを住宅地まで流出させてはいけない。
止めなければ。
「どうすれば、いいの」
夏子はひっしで策をねっていた。
「はやく、はやくきて。隼人」

8

隼人も眞吾も殺生石のある方角に走っている。
噴煙が吹き上がっている。
噴火の炎が天を焦がしている。
「このさきに夏子がいる」
那須温泉神社の石の階段。
隼人と眞吾は、かけあが。
「ぼくはさっきから夏子の悲しみの念波をキャッチしている。なにかある。とんでもないトラブルが彼女をまちうけていたのだ。彼女を引き寄せたエネルギーの渦を感じる」   鳥居の影から人がわきでた。
うかびでたのは、黒のロングコートをきたQと吸血鬼の群れ。
黒いロングコートは日除けをかねていることは確かだ。
都会に生息する吸血鬼だ。
直射日光に弱いのだろう。
それにしても、どこにこれだけの吸血鬼がかくれていたのか。
おどろくほどの吸血鬼の群れ。
わきでてきた!!
わきでてきた!!
あとから。
あとから。