田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

怨霊/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-08-05 22:19:41 | Weblog
52

「空気がふるえている感じ」
「はやく、逃げよう。コウモリに食いつかれるわ」
 なるほど。
 慶子がたたくと、ぶぁんとしたとらえどころのない音がする。
 音が広がる感じだ。
「さがっているんだ」
 手近の木製の椅子の上にのる。
 デザインからしてかなり古い。
 ガラクタだ。
「先生の重みでこわれないかな」
 慶子がへらず口をきく。
 それでも椅子を押さえる。
 麻屋は、さすがに慶子よりうえに、ただし頭一つぶんだけ背が高くなる。
 麻屋と慶子が顔をみあわせている。
「せんせいのこと、仰ぎ見たのはじめてだよ」
 コンクリートの天井とみえたのは、分厚い板だった。
 板をずらす。
 暗い穴が見える。
 上の階にでられた。
 三人は一段うえにあった洞窟を歩きだしていた。
「センセイ。どうして反省室にそんなにこだわるの」
「それはな、彩音、反省室にはなん年ものあいだ虐げられた紡績女工の恨みが残留思念となって残っているんだ」
「それがどうしたの」
「慶子な、それが吸血鬼を呼びよせていると思うのだ。虐待されたものは虐待した人を恨む」
「それが?」
「それが……」
「ふたりとも、気づかないのか。鹿沼の人たちが会社では上層部にいた。上役だった」
「女のこをいじめたのは、鹿沼の人。だから鹿沼の人が恨まれているんだ」
「こんどのことは、かなり根が深い。明治、大正、昭和にわたる恨みが背後にあると見た」
「そうか、鹿沼が恨まれているんだ。美しい街の底に過去の亡霊が生きていたのね」
 と彩音も納得する。
「そういうことだ。澄江さんと純平くんの純愛なんてめずらしいことだった。だからこうして、その話がいまも残ったのだ。語りつがれたのだ」











地下通路/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-05 04:10:39 | Weblog

51

 学校はお休み。
 川の向こう側。
 東地区は。
 人間の頭に例えれば。
 脳コウソクで死にかけている。
 そのまだ死んでいないペナングラ。
 周辺に生徒を避難させた。
 受験生は高校の入試がある。
 西と北の各中学に分散登校。
 受験が近付いているからと緊張などしない。
 授業中から携帯で友だちづくりに熱心だ。
 現代っ子だ。
 仲間がふえて大喜び。

 行政が報道陣の注視の中でどんな手をうっているのか。
 テレビでもみるほかにない。
 いま街でおきていることなのに。
 テレビで見た方が情報は確かだ。
 街の人の噂話より正確だ。

 元気をとりもどした彩音と慶子のコンビ。と麻屋は。
 あの地下の反省室を探しにきていた。
 図書館の地下の洞窟にいた。
 文美はもっぱら行政のアドバイザーとして活躍している。
 今回の探索には不参加。

「どこかに、脱出口がある。女工哀歌にはノンフイクションの箇所がかなりある。読んだかぎりでは……このへんに……」
「どうして抜け道にこだわるの」
「吸血鬼がいまでもその道を自由にいききしている。このあたりの建物の地下がヤツラの地下街になっている恐れがある」
「そうだね、ヤツラの貯蔵室だってあった」
 そして、彩音はあの吸血鬼回廊をワープして。
 モロ山の地下の洞窟をさまよった経験を麻屋に伝える。
「そういうことだ。ヤッラは地下で活動しているのだ」
 麻屋は床をどんと強くふみしめた。
 反響音に耳を傾けている。
 ふいに、バサバサと羽音がおきる。
 地下道のどこからともなく、コウモリの群れがとびだす。
 三人はあわてて走りだす。
 狭い部屋にとびこむ。
 部屋にはガラクタがむぞうさにつまれている。
 調度品はどうみてもかなり古い。
 国産繊維が活発に稼働していたころのものらしい。
 物置として使っていたのだろう。
 扉にコウモリがぶちあたりギギっと鳴く。
 いやな鳴き声。

「せんせい。ここおかしい」
「どう、怪しいの慶子」
 長身にまかせて、低い天井をさぐっていた慶子が叫ぶ。
「はやくして、扉がやぶられる」


注。 『モロ』という響は吸血鬼と関係があったと記憶しています。後ほど調べてみます。著者。

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