52
「空気がふるえている感じ」
「はやく、逃げよう。コウモリに食いつかれるわ」
なるほど。
慶子がたたくと、ぶぁんとしたとらえどころのない音がする。
音が広がる感じだ。
「さがっているんだ」
手近の木製の椅子の上にのる。
デザインからしてかなり古い。
ガラクタだ。
「先生の重みでこわれないかな」
慶子がへらず口をきく。
それでも椅子を押さえる。
麻屋は、さすがに慶子よりうえに、ただし頭一つぶんだけ背が高くなる。
麻屋と慶子が顔をみあわせている。
「せんせいのこと、仰ぎ見たのはじめてだよ」
コンクリートの天井とみえたのは、分厚い板だった。
板をずらす。
暗い穴が見える。
上の階にでられた。
三人は一段うえにあった洞窟を歩きだしていた。
「センセイ。どうして反省室にそんなにこだわるの」
「それはな、彩音、反省室にはなん年ものあいだ虐げられた紡績女工の恨みが残留思念となって残っているんだ」
「それがどうしたの」
「慶子な、それが吸血鬼を呼びよせていると思うのだ。虐待されたものは虐待した人を恨む」
「それが?」
「それが……」
「ふたりとも、気づかないのか。鹿沼の人たちが会社では上層部にいた。上役だった」
「女のこをいじめたのは、鹿沼の人。だから鹿沼の人が恨まれているんだ」
「こんどのことは、かなり根が深い。明治、大正、昭和にわたる恨みが背後にあると見た」
「そうか、鹿沼が恨まれているんだ。美しい街の底に過去の亡霊が生きていたのね」
と彩音も納得する。
「そういうことだ。澄江さんと純平くんの純愛なんてめずらしいことだった。だからこうして、その話がいまも残ったのだ。語りつがれたのだ」
「空気がふるえている感じ」
「はやく、逃げよう。コウモリに食いつかれるわ」
なるほど。
慶子がたたくと、ぶぁんとしたとらえどころのない音がする。
音が広がる感じだ。
「さがっているんだ」
手近の木製の椅子の上にのる。
デザインからしてかなり古い。
ガラクタだ。
「先生の重みでこわれないかな」
慶子がへらず口をきく。
それでも椅子を押さえる。
麻屋は、さすがに慶子よりうえに、ただし頭一つぶんだけ背が高くなる。
麻屋と慶子が顔をみあわせている。
「せんせいのこと、仰ぎ見たのはじめてだよ」
コンクリートの天井とみえたのは、分厚い板だった。
板をずらす。
暗い穴が見える。
上の階にでられた。
三人は一段うえにあった洞窟を歩きだしていた。
「センセイ。どうして反省室にそんなにこだわるの」
「それはな、彩音、反省室にはなん年ものあいだ虐げられた紡績女工の恨みが残留思念となって残っているんだ」
「それがどうしたの」
「慶子な、それが吸血鬼を呼びよせていると思うのだ。虐待されたものは虐待した人を恨む」
「それが?」
「それが……」
「ふたりとも、気づかないのか。鹿沼の人たちが会社では上層部にいた。上役だった」
「女のこをいじめたのは、鹿沼の人。だから鹿沼の人が恨まれているんだ」
「こんどのことは、かなり根が深い。明治、大正、昭和にわたる恨みが背後にあると見た」
「そうか、鹿沼が恨まれているんだ。美しい街の底に過去の亡霊が生きていたのね」
と彩音も納得する。
「そういうことだ。澄江さんと純平くんの純愛なんてめずらしいことだった。だからこうして、その話がいまも残ったのだ。語りつがれたのだ」