64
その人は振り返った。
文美の若いときの写真とそっくりだ。
「彩音……」
その人は舞ながら澄んだ声で呼び掛けてきた。
「こないで。バァンパイアよ」
その声をきいただけで彩音は気づいた。
「おかあさん……おかあさん、でしょう」
そのひとは金属ムチを手にしていた。
闇にとけこみ異形ものがうごめいていた。
「あんたら、なによ」
「あたらしく鹿沼を仕切ることになった稲本ってもんだ」
「あら、吸血鬼さんが自己紹介できるんだ」
「ヌカセ」
闇のなかでザワッと殺気がふくれあがった。
金属ムチがうなる。
「おかあさん、これ使ってみて」
舞扇を投げる。わたしには、あれからかたときも放さない鬼切りがある。
「あっ。仕込み扇。皆伝をゆるされたのね」
そのひとは、右手に舞扇。左手にムチを持った。
両手を下げ八の字に構える。
彩音は『鬼切り』を正眼にかまえた。
稲元はひとりではなかった。
黒い影が生臭い臭いをたてておそってくる。
両手にムチと剣を手にして母が舞っている。
剣のさきに、ムチのさきに鱗の皮膚をきりさかれた吸血鬼がいる。
ヤツラの怒り狂った唸り声がする。
稲本の腕が文音をおそう。
鋼の腕だ。
鋼の爪だ。
見切ったはずだ。
いや、完璧に見切った。
鉤爪は文音の顔面すれすれまでとどく。
なんという速さだ。
なんという長さだ。
パンチがゴムのように伸びてくる。
そしてその先きには鋭い爪のナイフ。
吸血鬼におそわれたときの痛みはまだ彩音の体にのこっている。
ゾクっと恐怖が背筋を流れた。
母のムチが稲本の腕を切り裂いた。
その一撃が瞬時遅れていれば、彩音の顔は裂かれていた。
「油断しないで、超A級のバァンパイアよ」
「わかってるんだな」
「ペンタゴンの記録にあるほどのヤツよ」
「そうか、アンタはアメリカ国防局のVセクションのエージェントだな」
「彩音の母よ。文葉とおぼえてよ。これ以上まだやる気なの? けがではすまなくなるわよ」
「お母さん。ありがとう」
「礼はあとで、コイツラ、パワーアップしてるからね」
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「彩音……」
その人は舞ながら澄んだ声で呼び掛けてきた。
「こないで。バァンパイアよ」
その声をきいただけで彩音は気づいた。
「おかあさん……おかあさん、でしょう」
そのひとは金属ムチを手にしていた。
闇にとけこみ異形ものがうごめいていた。
「あんたら、なによ」
「あたらしく鹿沼を仕切ることになった稲本ってもんだ」
「あら、吸血鬼さんが自己紹介できるんだ」
「ヌカセ」
闇のなかでザワッと殺気がふくれあがった。
金属ムチがうなる。
「おかあさん、これ使ってみて」
舞扇を投げる。わたしには、あれからかたときも放さない鬼切りがある。
「あっ。仕込み扇。皆伝をゆるされたのね」
そのひとは、右手に舞扇。左手にムチを持った。
両手を下げ八の字に構える。
彩音は『鬼切り』を正眼にかまえた。
稲元はひとりではなかった。
黒い影が生臭い臭いをたてておそってくる。
両手にムチと剣を手にして母が舞っている。
剣のさきに、ムチのさきに鱗の皮膚をきりさかれた吸血鬼がいる。
ヤツラの怒り狂った唸り声がする。
稲本の腕が文音をおそう。
鋼の腕だ。
鋼の爪だ。
見切ったはずだ。
いや、完璧に見切った。
鉤爪は文音の顔面すれすれまでとどく。
なんという速さだ。
なんという長さだ。
パンチがゴムのように伸びてくる。
そしてその先きには鋭い爪のナイフ。
吸血鬼におそわれたときの痛みはまだ彩音の体にのこっている。
ゾクっと恐怖が背筋を流れた。
母のムチが稲本の腕を切り裂いた。
その一撃が瞬時遅れていれば、彩音の顔は裂かれていた。
「油断しないで、超A級のバァンパイアよ」
「わかってるんだな」
「ペンタゴンの記録にあるほどのヤツよ」
「そうか、アンタはアメリカ国防局のVセクションのエージェントだな」
「彩音の母よ。文葉とおぼえてよ。これ以上まだやる気なの? けがではすまなくなるわよ」
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