田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

人柱/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-08-14 21:16:57 | Weblog
69

 慶子に稲本というあらたな吸血鬼があらわれたことはまだ告げていない。
 純平と澄江。
 ふたりはそのまま虚空に消えていく。
「慶子。見える」
「見える。見えるよ。やっとふたりは一緒になれたのね」

「百年の恋か」
 麻屋は一歩前にでた。

「さようなら澄江さん」
「さようなら純平さん」
「純平くんと澄江さんが、ふたりが、仮性吸血鬼の悪霊をつれさってくれたのだ」
「でも、まだほんものの吸血鬼がのこっているわ。わたしたちにも見ることができないかもしれない吸血鬼があちこちの街に、残っているのよ」
「闘いはこれからだ」
 麻屋がしんみりという。

 幽霊橋も消えていく。
解体業者が作業にとりかかっていた。
 いままさに、幸橋を解体するための巨大なパワー・ボールが橋脚に一撃をあたえた。
 パワー・シャベルの鉄の爪が基礎をかためているコンクリートにくい込む。
 コンクリート粉砕機が激しく唸っている。
 橋が断末魔の悲鳴をあげている。
 建造には、かなりの月日がかかったことだろう。
 破壊は一日ですむはずだ。
 建築にはよろこびと期待があった。
 解体作業には悲しみだけが残る。
 もうもうと埃がたつ。
 その埃が立ち、空気を汚すのを防ぐためにホースで水が掛けられている。
 ぱっと広がった水の柱の先に虹が出ている。
 だが、みんなはそれが希望の虹でないことをしっている。
「古い鹿沼がこれでまたひとつなくなる」
 麻屋がつぶやく。
 このときだ。
 解体現場で音が途絶えた。
 シャベルの鉄の爪が。
パワーボールが。
粉砕機がとまった。
「なにか、あったのよ」

 彩音が走りだす。
 砕かれたコンクリートの橋柱の根元からなにか出た。
夥しい白いモノ。
 白骨だ。
「人柱だ」
 麻屋が呻いた。

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裂け目/吸血鬼ハンター美少女彩音

2008-08-14 09:35:59 | Weblog
68

 あまりの環境の激変に彩音はパニクっている。

 親戚縁者。一門の者。みんなとそろっている。
 文美が『朽ち木』で神田を倒した黒川の河川敷にきていた。
 彩音が流した花束が流れていく。
 川面を流れていく花束。
 
 おばあゃんへのおもいがこめられている。
 おばあちゃんが朽ち木を舞いながら去っていく。
 おばあちゃんがほほえんでいる。
 お祖母ちゃん、さようなら。
 さようなら。
 
 わたし、この鹿沼を守るからね。
 吸血鬼が怖くて、みんな怯えている。
 わたしは負けないから。
 わたしは鹿沼の守護師。
 どんなことがあっても、鹿沼を吸血鬼から守りぬく。
 この美しい鹿沼を守ってみせる。
 わたしは、鹿沼の守護師。吸血鬼ハンター。
 
 吸血鬼を倒せる女。
 どなんことがあっても、鹿沼を吸血鬼の攻撃から守りぬく。
 この美しい鹿沼を守りぬいてみせる。
 文美祖母ちゃんの遺志をついで戦うから。
 いつまでも彩音のこと見守っていてね。
 
 涙がとまらない。
 
 お母さんとお父さんが帰ってきたのだって文美おばあちゃんがそうしてくれたのだ。
 おばあちゃんが両親を呼びよせてくれたのだ。
 
 黒川の流れに花束が揺れている。
 
 国産繊維の東工場から黒川に流れこむ川がある。
 その水門が開かれているので川面が渦をまいている。
 花束もその流れにのって渦巻いている。
 文美おばあちゃんが名残を惜しんでいる……。
 さらにさらに文音は悲しくなる。
「あっあれみて。彩音」
「なにが見えるのよ、慶子」
 幸橋の上の虚空で暗雲がうすれた。
 橋の上空に純平と澄江が手をつないでのぼっていく。
 洞窟からコウモリが現れた。
 彩音、慶子、麻屋をしつっこく追いまわしたコウモリの群れは純平と澄江に吸い こまれていく。

「あそこに、時の裂け目があるんだわ。異界との境界も」

「あの裂け目が閉じればすべて解決するの? もう、吸血鬼は入ってこられないの? だといいね。彩音」

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荼毘/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-14 00:21:26 | Weblog
67

「彩音を超A級の敵のいる鹿沼においておけないわ」
「それでなくても、苦労をかけっぱなしだ。しかし、よくきたえてくれたものだ」
 父、川端源一郎がバアチャンの棺に尊敬のまなざしをむける。
 ふいに現れた両親。
 彩音は嬉しくて涙ぐむ。
 期せずして家族会議になっていた。
「お父さんも、お母さんもわたしたちと東京にいきましょう。こんどVセクションの日本支部ができたの。わたしたちが、源一郎がチーフなの。みんなで、いっしょに住めるわ」
「美智子はたのむ。東京へ連れていってくれ。わたしは鹿沼に残る。お父さんはどうしますか」
「わしは、もう年だ。それに日光の山奥だ、ヤツラも手出しはすまい」
「わたしも鹿沼に残る」
 とくりかえして麻屋がいう。
「彩音や文葉の世話をしてやってくれ」
 と妻に毅然とした顔を向ける。
「あなたも……」
「わたしはながいことこの鹿沼のひとたちの世話になった。塾の教え子も大勢いる。鹿沼と運命をともにする覚悟だ」
 鹿沼に残り人狼との交配種であるこの鹿沼特産? の人狼吸血鬼や稲本たち外来種と一戦交える覚悟だ。
 それが麻屋のだした結論だ。

     18

 文美の葬式をすませた午後。
 鹿沼中学の方角に古材をもやす煙りが見える。
 黒いもやもやとした煙が黒川の東岸をおおっている。
 巨大な爬虫類の鮫肌のように重なりあって渦をまいている。
 コウモリインフェルエンザがまだ蔓延していることには変わりはない。
 川の向こう側で、東地区で進行中のこの病気にたいして、ほかの地区のものはお どろくほど関心がない。
 猖獗をきわめる悪疫にまったく興味を示さない市民がいる。
 情報管理をされている。
 そとの世界にこころを開いていない。
 耳をすませば対岸の恐怖のざわめきがつたわってくるはずなのに。
 コウモリの糞のまじった異臭が鼻をつくはずなのに。
 じぶんたちの身に災禍がふりかかってくるまでそしらぬ顔で過ごしている。
 通夜がすみ、文美を荼毘にふした。
 焼き場の煙突から立ち上ぼった淡い煙。
 校庭から立ち上ぼる黒い煙。
 悲しみの淡い煙と悪意をふくんだ黒い煙。
 二つのけむりが彩音のこころで渦巻いている。
 こころを清々しくする煙と邪悪なものをふくんだ煙を重ね合わせて、彩音は涙ぐんだ。
 わたしって、こんなにお涙系だったの。
 涙をこぼしてばかりいる>

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