田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

新連載/吸血鬼浜辺の少女外伝/魔闘学園 麻屋与志夫

2008-08-25 22:23:38 | Weblog
 吸血鬼「浜辺の少女」外伝 魔闘学園


 そして、底知れぬ所に投げ込み、入り口を閉じてその上に封印し、千年の期間が終わるまで、諸国民を惑わすことがないようにしておいた。その後、しばらくの間だけ解放されることになっていた。         

 黙示録   20章3節

 プロローグ

 東武日光線でもとりわけ小さな駅だ。
 関東平野の極み、北の端にある。    
 旧市内の人口は4万にみたない。
 郡部をいれても10万ほどだ。
 でも面積だけは市としては栃木県のトップ。
 鹿沼市。
 新鹿沼発浅草への快速は一時間に一本だけ。
 さえない田舎の駅舎。
 ……だが、この日の午後ふいに黒装束の若者の群れを迎えることとなった。
 茶髪は頭頂で炎のようにおったち、青白い顔。
 太陽を避けているかのような青い顔は仮面をかぶっているようだ。
 のっぺり顔。
 むきたてのボイルド・エッグのようなテロンとした表情の欠落した顔だ。
 それもそろってみなおなじ顔ときては異様というよりは不気味だ。      
 黒の特攻服の背に真紅の髭文字で〈妖狐〉。
 狐の頭部がかいてある。
 般若の顔にみえる。          
 ゴテイネイニ、とがった耳に血をしたたらせた犬歯。つりあがった金色に光るフォクス・アイ。
 狐の目。
 怨嗟にみちた目。
 世を呪う目だ。            
 背中いっぱいにえがかれている。
 女生徒がふるえながらつぎつぎと木製のベンチから立ち上がった。
 気付かれないように忍び足で駅舎のそとに逃げた。
 動けた彼女たちはまだ勇気があった。
 ぽかんと口をあけている、女生徒。腰がぬけた。
 動こうにも動けない。
 胸の筋肉がしめつけられるほど強烈な恐怖におののいていた。
 携帯をとりおとしていることにも気付いていない。
 携帯から話し中だった友達の声がしているのにもおかまいなしだ。       
 駅のプラットホームから校舎がみえる。
 レトロな木造。
 超さえない鹿陵高校。
 総番の二荒三津夫は同世代の陰気なそれでいてギラギラしたオラーをあたりにふりまくものを敵とみた。
 からだがふるえていた。
 ビビったわけではない。
 硬派の極み、喧嘩にあけくれる男の闘争心に火がついたのだ。
「なんだ、これァ」
 副番の番場がスットンキョウな声をはりあげた。
 群れの最後尾のこの男だけは、膝まである学制服、長ランが、番場にスーッとちかよってきた。
 番場はおもわず後ずさっていた。
 身構える番場に男は目礼をした。
 血の気のうせた顔をよせてきた。
 口が臭い。
 番場は体からすうっと力が吸い取られていくように感じた。みようにまのびした、関西弁のアクセントで、街の中心街にある市役所裏の御殿山公園への道順を聞いてきた。
 現われたときとおなじように、妖狐の姿はさっと駅舎から街に移動する。

「ヤサにかえれなくなったな」
「そうスね」
 やっとのことで、番場は口をきいた。
 番場が去りゆく学生服の背を見ながらふるえだした。
「おそいんだよ。おれはヤツラが青い炎をあげているのがみえたぜ」        
 三津夫にそういわれて、肌がひりひり焼かれるような恐怖が番場をおそった。  ふるえている理由を番場は理解した。
 おれは怖がっている。
 駅舎からでた。
 田村旅館の庇のしたの駐輪場にさきほど妖狐の邪気を避けた女子学生が群れていた。
 彼女たちは口を閉ざして黙って三津夫と番場を見送った。
 いつもはキャバキャバとおしゃべりしている彼女たちなのに臆病そうに黙り込んでいる。         
 彼女たちの視線をしり目に三津夫と番場は走り出した。          
「こんな田舎街になにようがあるっていうんだ」
 あとの言葉は自分に三津夫はといかけた。
 黒い群れを追いかけた。
 田舎街の平和が破られた。
 そう思ったのは、すこしあとになってからだ。
 ふたりは興奮していた。
 どうしてこんなにむきになっているのか。
 なぜ、追跡しなければならないと思ったのか。
「妖狐、なんてゾク、どこにあるんだ」
 黒装束の群れがわがもの顔で、三津夫たちの街を、彼らのテリトリーを闊歩している。黒い裾をはためかせ、駅前の十字路を左折した。
「あの妖気はなんなんスかね」
「すごい妖気を放ってる。だがなにかわからない」
 不気味ですらあった。
 彼らの歩いていくあとに黒い妖気の帯びがのこった。
「蝙蝠にでもばけたのかよ。消えちまったぜ」
「あっそうか、アトマスフェアは、蝙蝠ですね」 
 やっと気付いたらしい。
 至極納得。といった声がもどってくる。
 番場の顔から恐怖がきれいに消えている。
 たちなおりのはやいやつだ。
 番場はいつもの声にもどっていた。
 見えなくなった集団を追いかける。
 どうして、追いつけなかったのだ。
 彼らが左折してから数分のタイムラグだ。
 それが、どうして見えないんだ。
 あんなに、目をひく黒装束の群れが駅前の雑踏のなかで、忽然と姿をけしてしまった。マジックをみせられたようだ。
 イルージョンのなかにはいりこんでしまった感覚がある。
 いくら目を凝らしても平凡な田舎街の日常の人の流れがつづいているだけだ。
 こんどは、自分の視覚がおかしくなってしまったのか、そうした不安が三津夫と番場を苛みだした。 
 
 ちょっと街角を遅れて曲がった。
 目の前から黒装束が消えていた。    
 
 まさかそのまま消えたままになるとは。
 三津夫も番場も、狐にばかされているような気分になった。

 黒装束の集団は消えた。

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 ふたりの追いかける先で、集団は消えてしまった。