田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

低地に住むもの/吸血鬼ハンター美少女彩音 麻屋与志夫

2008-08-22 08:38:34 | Weblog
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 臭い吐息。
 悪臭だけが司の彩音にふりかかった。
 コウモリとなった稲本は飛び去った。
「われらが飼育を拒むというなら、やはりこの鹿沼はいったん滅びてもらうことになる。われらが牧場となって飼育されるのがいやなら、滅びるがいい」
 さすがにここで争うことの愚をさとったのだ。
 稲本の遠吠え。
 死人の肌のような。
 土気色に濁った空にこだました。
 でも負け犬の遠吠えなどではない。
 稲本にはそれだけの能力を備えているのだろう。
「この隙に噛まれていないものを全員助けだすのだ。そしてこの街を去れ。この低い場所にいたら上空のコウモリ花粉にやられるだけだ。うしろをふりかえらずにさっさとこの低地の街からさるのだ」と麻屋。

「お父さんは? ぼくらといきましょう」と源一郎。

「いやこの街と運命を共にする。このひとたちをみすてるわけにはいかない。覚悟はきまった。残るのはわたしひとりでいい。美智子も源一郎がつれていってくれ」
 源一郎が悲痛な顔で父を見ている。
「おれだけでいい。おれは吸血鬼に侵されたおおぜいの教え子の最後をみとってやる」
「おじいちゃん」
 校庭では悲鳴があがりつづけている。
 女生徒を凌辱するものたちの数はいっこうにへらない。      
「なくな、彩音」
「しばらくはまた闇ね……」
 黄金色の光のなかでかすかな気配がする。
 麻屋は狐にむかって祈る。
「玉藻さま一族のものをよろしくお導きください」
「あのとき九尾のちからを封印しなければ、あなたたちを苦しめないですんだのですね」
 狐の口をとおして玉藻の声が聞こえてくる。
 こんどは怯まない。
 戦いぬく。
 吸血鬼と黄金の狐。

 闇と光の戦いがいま再開された。

 玉藻の声が力強くひびく。

 高音でコーンというような狐の鳴き声にきける。

 だが鹿沼滅亡までのカウントダウンははじまっている。

 麻屋がはったバリヤ消滅まであと10時間。

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