田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

わたし漫画家になりたい。絵の中の雪/麻屋与志夫

2011-08-02 10:10:27 | Weblog
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結婚は許されなかった。
スーツケースひとつで上京した。
だから、家出同然の身だった。悲しかった。
母にはあれいらい会っていなかった。
仙台に帰省したのも30数年年ぶりだ。
親の死に目に会えないなんて。
許されないまま、母に逝かれてしまった。
フロントにふきつける雪をワイパーが音を立ててぬぐっている。
粉雪だった。
このふりかただと、明日の朝までにはかなり積もるだろう。
家に向かう、見慣れていたはずの道はかわってしまっていた。
商店街も迫りくる薄闇のなかで人影もたえていた。
わたしはずっと黙ったままでいた。
すっかり忘れていたふるさとの雪。
感動はなかった。
母の死を聞いた悲しみに、すっかり動揺していた。
元気なうちに、いちどあっておくべきだった。
心配をかけたことをわびておきたかった。
いじをはりすぎた。

「あたし、美智子おばさん、漫画家になりたい。
代々木の「アニメ学院」にはいりたいの。
大森の家に下宿させてくれますか。
それなら父は許してくれるとおもいます」

沈黙をやぶったのは亜莉沙だった。
父は、ということは兄は許すが、義理の姉の友子は反対なのだろう。
むりもない。
わたしの夫もついに同人誌の作家からぬけだすことができなかった。
友達が、文学賞をとってはなばなしく世にでていくのを僻み。
かなり無理な努力を長年続けた。
昼の勤めと夜の創作に打ち込む過労。
それがたたった。
定年とともに人生にも別れをつげてしまった。



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