田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

あたし青山の秋が好き、あなたは…… 3/麻屋与志夫

2011-08-16 11:41:58 | Weblog
3

 黒のテーブルだった。
 貝殻のような凹凸のある白のカップがぽつんと置いてあった。
 袖看板にあたった陽光の反射がテーブルにさしこんでいた。
 半ば引かれたレースのカーテンを透かしていた。やさしい光となっていた。

 わたしは目眩がした。
 あの時、……風が吹きこんでいた。
 窓がわずかに開いていたのだろう。
 白いカーテンのすそが風にゆらいでいた。
 カーテンのふくらみや、部屋に満ちた光に浮かんだ埃の微粒子の具合まで覚えている。
 それなのに……なにがあったのか、記憶は曖昧であった。
 わたしは強引に時子をひきよせ唇をあわせた……後だったはずだ。
 ふっくらともりあがった乳房をまさぐり……さらに進展させようとた。
 ……彼女の抵抗にあっていたのだ。
 もう言葉がでないほど、興奮していた。
 
 わたしはその朝、青山一丁目の下宿で目覚めたときから「これからの一日はとくべつ日になる」と思っていた。
 鹿沼に帰らなければならなかった。
 そしてふたたび、もどってこられないだろう。部屋は整理していなかった。
 帰省したままになりたくはないという願望が、そうさせたのだろう。
 とりあえずは、父の病気を見舞にいく。
 病状がかるかったら――すぐにもどってこられる。

 彼女は激しく逆らった。泣きだしてしまった。
 わたしから逃れて、顔をよこにふっていた。
 長い黒髪が左右にばさっとゆれていた。
 髪の簾のむこうの顔は泣いていた。
 背を壁にこすりつけるように、後ろにすさって逃げ、いやいやしている顔は童女の泣き顔だった。
 わたしはたじろいだ。
 わたしは愛する彼女を、愛しているからというだけで、犯そうとしていた。
 男と女の関係になれば、時子はわたしについてきてくれる。
 わたしは、愛する彼女と別れなければならない不安に錯乱していた。
「いやよ、いままでのままでいいの。そういうことするの、いやなの」
 泣き声で、訴えかけるように、くりかえしているす彼女を見るともう、なにもする気がおきなかった。
 気分が萎えてしまつ




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